2022年12月9日(金)

BBC News

2022年11月8日

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BBCのマリアナ・スプリング偽情報・ソーシャルメディア担当編集委員は、アメリカ政治が揺れ動く不安定な情勢の中、アメリカの有権者がソーシャルメディアで何を見るよう「おすすめ」されているのか調べるため、複数のアカウントを立ち上げた。


インスタグラムで「ブリトニー」のアカウントを開き、「おすすめ」されていたアカウントをクリックしてみると。すると、2020年米大統領選で勝ったのはジョー・バイデン大統領ではないと宣言するいう偽情報のミーム(インターネットで拡散される文言や画像、動画など)がいきなり目に入った。ほかにも、女性政治家を女性差別的な表現で罵倒するミームもそこにはあった。

「ブリトニー」をはじめ、私はこの調査のために5つの「有権者」を作り、ソーシャルメディアでアカウントをとった。中間選挙に向けてアメリカの有権者がどのような情報を「おすすめ」され、何にさらされるのかを追跡するためだ。ソーシャルメディア各社は、選挙前に自分たちのサービス上に偽情報や憎悪表現が投稿されないよう、対策に力を入れているとどこも言う。しかし、私がこの取材のために作ったアカウントが「おすすめ」される偽情報や暴力的な内容の投稿は、この数週間というもの、減るどころか増え続けている。

私が作った5人の「有権者」は、米ピュー研究所が集めたデータをもとに、アメリカの多様な政治的意見や立場を表すように作った。それぞれに、名前と、コンピューター生成の写真をつけて、フェイスブック、ティックトック、ユーチューブとツイッターにアカウントを開いた。

その5人とは、次のような「人」たちだ。

ラリー: 武器の所有権を保障する合衆国憲法修正第2条を支持するページをフォローし、「いいね」を押す。共和党関係者に関するページや、FOXニュースも好んでいる。

ブリトニー: ソーシャルメディアでは億万長者や中絶に反対するページをフォローし、ドナルド・トランプ前大統領を熱心に支持するコンテンツを好んでいる。

ガブリエラ: フロリダ州マイアミに住み、自分の周りのヒスパニック系コミュニティーの話題や、現在の経済危機の話題に、とりわけ注目している。毎月の買い物でどう節約するかの話題をよく読み、そうしたグループやページを好んでいる。ファッションや音楽の話題も熱心に見ている。

マイケル: 複数の教師労組や慈善団体をフォローするほか、民主党に関係する複数の著名政治家をフォローしている。CNNなどの報道機関もフォローしている。

エマ: 「Black Lives Matter」(黒人の命は大切)運動を支持するアカウントを多くフォローしている。ほかにも、環境保護活動家や、女性の権利のための行進、LGBTQI(性的少数者)の権利を支持するアカウントをフォローしている。

この「5人」のアカウントで、私はもともとのキャラクター設定に沿った行動をとるほか、他のアカウントを「おすすめ」されればそれをフォローした。

この5つのプロフィールが、アメリカの有権者全員が見ているものをくまなく明らかにしてくれるはずもない。おまけに、この「5人」には友達もフォロワーもいない。

それでも、政治的立場の異なるアメリカの有権者が、オンラインで何を目にしているのかを、垣間見ることはできる。

英シンクタンク「戦略対話研究所(ISD)」は世界中の過激主義や偽情報を追跡している。そのISDがオンラインの動向を調べたところによると、選挙に関する陰謀論や、政治家への罵詈雑言(ばりぞうごん)は、中間選挙が近づくにつれて激化してきたという。

私が作った「5人」がこの2カ月の間に、何を見させられてきたのか確認すると、最も頻繁に暴力的で事実と異なるコンテンツにさらされたのは、「ブリトニー」だった。

「ブリトニー」のアカウントを作る際に私は、トランプ氏を支持し、ワクチン接種の義務化に反対し、億万長者が何を目的としているのか疑問視する内容のページやアカウントに「いいね」を押した。他の「4人」のアカウントと比べると、この一連の話題はどうやら、さらに極端で過激な内容への玄関口だったようだ。

「ラリー」は、2020年大統領に関する事実と異なる主張や、政治家への罵倒を含む投稿を見させられた。「エマ」も、トランプ氏の支持者や、最高裁判事の支持者に対する罵倒を含むページをいくつか「おすすめ」されていたものの、「ブリトニー」への「おすすめ」の規模とは比べものにならなかった。

特に、インスタグラムに作った「ブリトニー」のアカウントを開くと、選挙不正について虚偽の主張を重ね、バイデン氏の勝利を否定する内容のアカウントを、しきりに「おすすめ」されていた。

そういうアカウントは、プロフィールの自己紹介欄に「#Trumpwon(トランプが勝った)」などのハッシュタグを使いがちで、昨年1月の連邦議会襲撃について「1月6日は反乱ではなかった」などと主張するミームを、しきりに共有していた。

「ブリトニー」はは、大統領選はやらせだったと主張する陰謀論を拡散するアカウントのティックトック動画を見させられていた。そうしたアカウントも「トランプが勝った」というフレーズを繰り返していた。

インスタグラムは先週には、ナンシー・ペロシ下院議長の夫ポール氏が自宅で襲撃された事件について、警察発表を否定するさまざまな陰謀論を、「ブリトニー」に見せていた。ポール氏に頭がい骨骨折などの重傷を負わせた容疑者の襲撃は、実はたいしたことなかったなどとする投稿も、ブリトニーにしきりに「おすすめ」されていた。

インスタグラムで「ブリトニー」に「おすすめ」される内容はこのほか、女性政治家への女性差別的な罵倒を含むものが多かった。

特に標的にされがちなのが、ペロシ下院議長、カマラ・ハリス副大統領、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員、ミシェル・オバマ元大統領夫人、ヒラリー・クリントン元国務長官だ。この女性たちの政治活動への批判にとどまらず、性行為に言及する投稿や、外見への中傷などが多く見られた。バイデン氏やトランプ氏に憎悪表現を使う投稿も多いが、両氏は女性たちほど性的な罵詈雑言の対象にはなっていない。

悪意ある性的表現をしきりに見させられていたのは、「ブリトニー」のアカウントだけだった。「エマ」はフェイスブックで、人種差別主義者はトランプ氏の支持者を名指しで中傷し辱めようとするページを「おすすめ」されていたが、中傷表現の激化の具合が、「ブリトニー」が見たものとは違っていた。

「ガブリエラ」はソーシャルメディアで、インフレや生活費危機について右寄りの内容を「おすすめ」される機会が増えていったが、「ブリトニー」が浴びたような極端な偽情報や憎悪には至らなかった。

「ラリー」と「マイケル」は、特にユーチューブなどで、政党からの公式選挙広告をしきりに見させられていた。ラリーに向けられるメッセージは、犯罪やインフレ移民問題に注目するものが多く、マイケルが見る選挙広告や投稿や、中絶や気候変動、教育に関する内容が多かった。

ISDによると、中間選挙に向けて憎悪内容の投稿が増えたほか、オンラインでの偽情報はバイデン政権に関する陰謀論や、特定のアメリカの州での投票について、しきりに話題にしている。

「ソーシャルメディアの特性や、政策の失敗がそこにあわさり、さらに激しい憎悪や罵倒の投稿が許されるようになっている」と、ISDで選挙とデジタルの問題を担当するジョリ・クレイグ氏は話す。

ISDは特に、複数のソーシャルメディアで、短時間動画が選挙に関する陰謀論を広める方法として使われているのを確認した。こうしたコンテンツのモデレーション(管理・監督)についてソーシャルメディア各社の対応は「一貫性がなく不十分」だと、ISDは指摘している。

ISDの研究はさらに、主要ソーシャルメディア各社が中間選挙に向けて偽情報や憎悪表現の取り締まりについてそれぞれ約束はしているものの、選挙結果を否定する投稿について、真剣な受け止め方が不十分だと懸念する。

フェイスブックとインスタグラムを運営するメタは今年8月、過去の選挙で「学んだ」内容をもとに、中間選挙の正確性と安全性を確保するための作業に「40以上のチームで数百人」を専従させると発表した。

メタはBBCに、アメリカの10のファクトチェッキング(事実確認)団体と提携するなど、偽情報に精力的に取り組む対策を用意していると話した。

「わが社のプラットフォームで何が許され、何が許されないか、明確な方針」を定めており、投稿内容がその方針に違反していないか「絶え間なく点検」しているという。

ティックトックもまた、選挙に向けて、ファクトチェック団体と提携したことを発表し、「正確な選挙」を重視すると述べた。同社はBBCの取材に対し、「自分たちのプラットフォームと選挙の正確性を守る責任を、これ以上ないほど真剣に受け止めている」と話した。

私が作った「5人の有権者」、大衆主義(ポピュリスト)右派の「ブリトニー」、進歩的左派の「エマ」、そして政治に無関心な「ガブリエラ」でさえ、この2カ月というもの、ツイッターで目にする内容がどんどん極端になっていた。とりわけ移民や犯罪、気候変動に関する話題が、対立的なものになった。

ブリトニーのアカウントには、ポール・ペロシ氏襲撃についてイーロン・マスク氏が拡散した陰謀論も表示された。ただし、マスク氏は後にそのツイートを削除している。

ツイッターは今や、そのマスク氏が所有する。ツイッターでの大量解雇や、予想されているモデレーション方針の変化から、選挙の直前になって、ツイッターには偽情報が一気に増えるのではないかと懸念されている。

インスタグラムで「ブリトニー」がおすすめされたいくつかのアカウントは、2020年大統領選に本当に勝ったのはトランプ氏だと主張し、最近ではマスク氏によるツイッター買収を高く評価している。今後、トランプ氏がツイッターに復帰するかもしれないと書いているアカウントもある。

ツイッターは、社員は減ったものの、「核となるモデレーション能力は持続している」と説明している。

(英語記事 US midterms: How BBC's voter profiles were shown hate and disinformation online

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63552201

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