2022年11月28日(月)

BBC News

2022年11月10日

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バーンド・デスマン・ジュニア(ワシントン)、ナタリー・シャーマン(ニューヨーク)、BBCニュース

インフレ率は8%で、民主党現職の大統領の支持率は低迷している。それでも野党・共和党が期待したほどの圧倒的な大勝利は、米中間選挙で得られなかった。どうしてそうなったのか。

世論調査の専門家や有識者はもう何週間も前から、「赤い波」が押し寄せると警告していた。連邦議会でも全米各地の州知事をはじめとする公職ポストでも、赤をイメージカラーにしている共和党が圧勝し、ジョー・バイデン大統領を民主党に強烈な「ノー」をくらわせるはずだと。

しかしアメリカで8日の選挙から一夜明けてみれば、共和党が期待したその「津波」は実現しなかったことが、はっきりした。

大事なのは経済だけではなかった

インフレと景気。有権者にとって大事な二大テーマだが、民主党が恐れていたほど、投票への影響は深刻ではなかった。

確かにアメリカ経済の伸びは鈍化しているものの、景気はそれなりに元気だ。これが影響しているのではないかと、アナリストは見ている。確かに生活費は上昇していえるものの、経済成長も続いているし、失業率は低いままだ。

「今の経済が最高だという人はあまりいないが、職を失ってはいない。その分だけ、中絶や移民や、右派が主張する『大きなうそ』などの問題が、選挙終盤にあれだけ大きく注目されたのだと思う」と、調査会社イプソスのクリス・ジャクソン上級副社長は言う。

経済について何をどう心配するか。このことも、世論の分断を反映する。

民主党支持者は今年になって経済について前より厳しい見方をするようになったが、それでも共和党支持者や無党派層に比べれば前向きだ。優先課題の順番でいうと、民主党支持者にとっては気候変動や人種差別、人工中絶などの問題が、景気対策より優先した。

ドナルド・トランプ前大統領がアメリカ政界にその影を落としているせいで、こうしたテーマは依然として課題として残り、そのため民主党の支持基盤は投票意欲を持続させたのだ。

「今回の選挙では、共和党支持者と、特にトランプ派の共和党支持者は、相変わらずの言動をやめることができなかった。選挙に向けてもっとインフレや景気を、話題の中心に押し出していれば、共和党はもっと勝てたかもしれない」と、ジャクソン氏は言う。

「経済がテーマの選挙だったら民主党にとって不利だったろうが、共和党はそれ以外のテーマを民主党に提供してあげたようなものだ」

活気あふれる民主党の支持基盤

早い時点でのデータを見ると、中間選挙の投票率としては過去最高を記録した場所が、全国各地にあった。この一因として、中絶の是非などをめぐる議論に駆り立てられた若者たちが、民主党の支持基盤を活気づけたからという意見も一部で出ている。

「Z世代の有権者は、実際に投票した」。1997年以降に生まれた若者を意味する「Z世代」について、テキサス大学サンアントニオ校のジョン・テイラー教授(政治学)はこう話す。

「連邦最高裁が今年6月に、中絶権を保障した『ロー対ウェイド』判決を覆していなかったら、民主党はそれだけ有権者に訴えかける材料に欠けていた。犯罪や移民やインフレといった問題の力関係はいろいろなだけに。そのため、最高裁判決は実際、共和党の赤い波を食い止める働きをした」

19歳の学生ジャック・プリブルさんは、8日に投票しないわけにはいかないと、突き動かされるように投票所へ行った若者の1人だ。憲法が中絶権を保障するという判例が覆された以上、ほかの権利も同じことになるのではないかと、心配しているからだ。

「自分は同性愛者だ。中絶に関する判例は、いかにアメリカの政策が抑圧的になっているかを示している」とプリブルさんは言う。

他方で一部の共和党関係者は、党による支持層への働きかけが足りず、実際に投票するよう促せなかったことが、今回の期待外れに結果につながったと話す。

テキサス州選出の共和党現職マイラ・フローレス連邦下院議員は今回、民主党のヴィンセンテ・ゴンザレス候補に敗れた。フローレス氏は前任者の辞任による今年6月の補選で当選したばかりだった。

「共和党支持者と無党派層は、投票しなかった」とフローレス氏は言う。「自分のするべきことをしなかったなら、結果に文句を言わないでほしい」

いつもの中間選挙とは違った

歴史的に、現職大統領の政党は(今回は民主党)、中間選挙で大敗するのが常だ。カリフォルニア大学サンタバルバラ校のデータによると、1934年から2018年の間、大統領の政党は中間選挙のたびに平均して下院で28議席、上院で4議席を失ってきた。

オハイオ州のケイス・ウェスタン・リザーブ大学のジャスティン・ブクラー教授(政治学)によると、これまでの中間選挙の結果を「基準値」扱いした共和党が、今回の実際の結果よりも大きい勝利を期待したのかもしれないと話す。

「予測しているうちに現実を見失った人が大勢いると思う」とブクラー教授は言う。

「一般的に、データの裏付けがないことを言う人は大勢いて、どちらの側も多少の応援発言で自分の陣営を勢いづけたいと思っている。過去の歴史から、こういう予測には注意しろという教訓を学ぶべきだと思うが、学ばない人が大勢いた」

トランプ氏への信任投票

加えて今年の中間選挙は、ドナルド・トランプ氏の業績や、共和党で維持する影響力に対する、リトマス試験だったとも広く見られていた。

テキサス大学のテイラー教授は、どの政党の支持者でもなく様子見をしていた多くの有権者が、トランプ氏の共和党への影響力を薄めるために、自分の一票を使ったとみている。

「今回の選挙は、ほかのなによりも、ドナルド・トランプへの信任投票だったという説がある。彼が支持した候補を見れば、しかも前回大統領選の結果を否定する顔ぶれが特に知事や上院や州務長官のポストに立候補したのを見れば、その多くは落選している。多少の当選はあったかもしれないが、トランプ氏が共和党の支持基盤や優勢を伸ばしたということにはならなかった」

これまで無党派だったジョージア州のアレックス・ハイディさん(31)も、テイラー教授に同意する。ハイディさんの場合、トランプ氏が同州の上院選で共和党候補のハーシェル・ウォーカー氏を推薦したことで、「本当にいやになった」のだと言う。

「民主党のすべてに賛成するわけじゃない。でも共和党の綱領よりはずっとしっかりしていると思う」と、ハイディさんは投票前にBBCに話した。

追加取材:クロイー・キム

(英語記事 US midterms: Why a Republican 'wave' never happened

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63580617

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