2022年12月8日(木)

BBC News

2022年11月13日

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ナダ・タウフィク、BBCニュース(フロリダ州)

米南部フロリダ州は長年、民主・共和両党の間を揺れる大票田の「激戦州」と呼ばれてきた。しかし今回の中間選挙で、共和党は完全に勝利した。フロリダはもはや「激戦州」ではない、フロリダは完全に共和党が有利な「赤い州」だ。この圧勝を呼び込んだのは、たった1人。右派の新星、ロン・デサンティス州知事だ。いったいデサンティス氏は何をどうやって成功させたのか。

11月には珍しいハリケーンとなって、熱帯性暴風雨「ニコール」が上陸したため、知事はその防災対策に集中しているかもしれない。しかし、デサンティス知事が別の嵐に向けて準備をしているのは間違いない。「陽光の州」と呼ばれるフロリダに、政治の嵐が迫っているからだ。

デサンティス氏は、歴史的な大勝で知事として再選を果たした。その針路の先には、同じくフロリダに住むドナルド・トランプ前大統領がいる。このままのコースでは、正面衝突は避けがたい。

とはいえ、デサンティス氏が中間選挙で共和党のスターになったのは間違いない。今しばらくはその地位と注目を楽しむ余裕はある。

選挙前に(赤をイメージカラーにする)共和党が期待していた、巨大な「赤い波」が実際に出現したのは、フロリダ州だけだったので。

フロリダでは、あらゆる主な選挙で共和党の候補が驚異的な票差で圧勝したし、連邦下院の選挙でも民主党の議席のうち4議席をひっくり返した。要因のひとつは、共和党に有利な選挙区割りを、デサンティス知事が強引に承認したことだった。

そして8日の選挙当日にフロリダで最高の結果を出したのは、デサンティス氏その人だった。対立候補に150万以上の票差をつけての、地滑り的な勝利だった。フロリダ州知事としてこれほどの票差で勝ったのは、過去40年で初めてだった。

フロリダの州都マイアミで有権者に話を聞くと、「ロン・デサンティス」の名前に誰もが激しく反応する。しかし支持者からは、同じことが繰り返し伝わってくる。彼を好きな人たちは、パンデミックの最中に好きになったのだ。デサンティス知事は感染対策のロックダウン実施を拒否し、ワクチン接種の義務化を拒否し、マスク着用の義務化を拒否した。個人の自由の名のもとに。

ケイトリン・コープさん(30)はパンデミックの最中に、ニューヨークからフロリダへ移住してきた。「フロリダとマイアミは自由で開かれた州と街だ」と、話す。ここで長年、事業を経営するアンドレ・フェラス・ロハさんも、自分や自分の仲間が「営業を続けて利益を出し続けられた」のは、知事のおかげだと言う。

共和党の方が選択肢としてましだから、デサンティス氏を支持するのだという人たちもいる。ジョン・サンチェスさんは、自分たちラティーノ(ヒスパニック)系は、「民主党が絶対に実現しない約束に飽き飽きしている」のだと言う。それに、自分たちが信じるもの、つまり家族や信仰や経済を応援してくれるのは、共和党の方だと。

民主党はデサンティス氏のことを、トランプ氏の二番煎じのように扱おうとした。しかし、フロリダ政治を詳しく見ていれば、2人の特長はかなり別物だとわかる

トランプ氏は「忘れられた有権者」を盛り上げ、投票するよう元気づける。トランプ氏とデサンティス氏の両方とかかわったフロリダ州ブロワード郡の州議会議員、リチャード・デナポリ氏はこう説明する。

対照的に、デサンティス氏は実際の政策に非常に詳しいのだという。

「政策の細かい部分にまでかかわってくる。ここフロリダで、彼がやってくるまで可決不可能だと思われていたような州法を、彼は成立させてみせる」

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世論調査会社メイソン・ディクソンでフロリダ州を担当するブラッド・コーカー氏は、今年9月にフロリダを直撃したハリケーン「イアン」の対応で、知事の支持率はかなり急増したと指摘する。

「ハリケーン対応で知事を評価した人は大勢いると思う。バイデン大統領と堂々と渡り合って、政治ゲームにしなかった。知事にふさわしい対応をした。あれをきっかけに、彼を支持するようになった民主党支持者もいたと思う」

一方で、デサンティス氏は周りを分断させる存在だという有権者もいる。たとえばデボラ・クラインさんは約1年前にフロリダに移住したばかりだが、知事は「憎悪をまき散らす」し、フロリダ州より自分の利益のために行動していると批判する。

この2年間でデサンティス氏は、次々と発表する政策で全国ニュースの注目を集めてきたし、その注目を楽しんできた。たとえば、州内の学校で性的自認について教えることを禁止した。人工中絶については、強姦や近親相姦による妊娠でも例外を認めず、妊娠15週以降の中絶をすべて禁止した。さらに最近では、大勢の移民をいきなり飛行機に乗せて、東海岸北部のマサチューセッツ州など民主党の支持基盤地域に何の説明もなく送り込み、そこで放置するなどした。

自分は「意識高い系のリベラル」が大切にしている政治テーマと「戦う」のだと、知事は常に支持者に繰り返しているし、こうした行動はそのイメージを裏打ちするものだった。


今回の対立候補、民主党のチャーリー・クリスト氏(元フロリダ州知事、元同州選出の下院議員)は、デサンティス氏を「最も危険で最も極端な候補」を批判する選挙戦を展開し、民主党支持者を盛り上げようとした。しかし結果的に、フロリダ州内にある67の郡で、クリスト氏が勝ったのは5郡だけだった。

共和党が抑えていた選挙区を民主党は何一つひっくり返すことができなかったし、民主党支持者の投票率は低く、2020年大統領選でバイデン氏に投票した無党派層の多くは、今回はデサンティス氏に投票した。

「クリスト氏はただともかく、政治的に格下だった」。前述の世論調査専門家、コーカー氏はこう言う。デサンティス氏が選挙につぎ込んだ政治資金はクリスト氏を上回り、クリスト氏はただ単純に、候補として力がなかったのだと。

民主党がホワイトハウスを維持するには、いくつかの主な有権者層の支持を必要としている。その有権者グループにおいて今回のデサンティス氏は、2020年のトランプ氏よりも健闘した。トランプ氏に比べてラティーノ女性の票を多く獲得したし、黒人有権者の票さえわずかに伸ばした。だからこそ、伝統的に民主党が有利な郡(パームビーチ、オセオラ、そしてもちろんマイアミ・デイドなど)で、逆転することができたのだ。

州内で最も人口が多く、最もヒスパニック系の多いマイアミ・デイド郡で勝った共和党所属の知事は、2002年以来初めてだった。同じヒスパニック系と言っても、伝統的に共和党支持者が多いキューバ系アメリカ人だけでなく、民主党に投票しがちな南米系やプエルトリコ系の有権者も、今回はデサンティス氏に入れた。

ジョー・バイデン大統領は2020年大統領選の時、トランプ氏に7ポイント差をつけてフロリダ州のラティーノ系票を獲得した。今回のデサンティス氏は、クリスト氏に15ポイント差をつけて同じラティーノ票を自分のものにした。今回のこうした結果は、今後何年にもわたりフロリダの政治に影響し続ける。今回の勝利演説で知事は、自分と支持者が「政治地図を塗り替えた」という言い方をした。

もはやフロリダ州が共和党の支持基盤となったのは、疑いようもない。これまでは、米大統領選で最も注目される大票田の「激戦州」のひとつで、同州の有権者が民主党候補と共和党候補のどちらを選ぶかで、大統領選の結果が大いに左右されてきたのだが。

今回の中間選挙の翌朝、かつてトランプ氏のお気に入りだった大衆紙ニューヨーク・ポストの一面は、デサンティス(DeSantis)氏を「デフューチャー(DeFuture)」、つまりは「未来の候補」と呼んだ。

フロリダを拠点に、米政治ニュースサイト「ヒル」に保守系コメンテーターとして寄稿するマイラ・アダムス氏は、デサンティス氏は共和党の候補指名を得るために戦う覚悟だと言う。なぜかといえば、デサンティス氏は自分こそが共和党の未来だと信じているからだと。

「デサンティスは、余計なお荷物のないトランプだとか、狂気の沙汰(さた)のないトランプだとか、いずれ起訴されたりしないトランプだとか、そういう冗談が飛び交っている」と、アダムス氏は話す。

デサンティス氏を支持するマイアミ住人の中にも、同じ意見の人たちはいる。「トランプよりデサンティスがいいと思う。トランプはもうやるだけやって、もう期限切れだと思う」と、事業主のアンドレ・フェラス・ロハさんは話す。

共和党に政治資金を寄付し続ける人たちも、デサンティス氏を真剣に検討し始めている。今回の選挙戦で同氏は、実に2億ドルを集めた。この額は、大統領退任後のトランプ氏が集めた総額よりも多い。

中間選挙までロン・デサンティスが何者か知らなかったアメリカの有権者も、今後はデサンティス氏についてかなり詳しくなっていくはずだ。

(追加取材: ホリー・ホンドリッチ)

(英語記事 Ron DeSantis: How the Republican governor conquered Florida

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63609327

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