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2022年11月21日

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ジェイムズ・ギャラガー、BBC健康・科学担当編集委員

「死ぬほど寒い」と言われると、私はひげからつららが伸びたホッキョクグマや、エヴェレスト登頂を目指す登山家を思う。凍傷で指が黒くなったり、凍えて低体温症になったりと、そういうことを思う。

なので、たかだか摂氏10度で寒さ実験を体験してみないかと言われても、半信半疑だった。そう、たかが10度で。

私に言わせれば、10度など大したことはない。ものすごい寒いというわけでもないし、北極の極寒とはわけが違う。体に負担がかかるほどの寒さといえば、もっとはるかに寒いはずだ。そうでしょう? 

そうではなかった。

「それほど寒そうには聞こえないけれども、生理学的には、本当に体に負担になっている」のだと、英サウスウェールズ大学のデミアン・ベイリー教授は話す。

住んでいる家が寒いと、体にどう影響するのか。そして10度などという、それほど寒くなさそうな気温でも、なぜ命にかかわることがあるのか。それを探るため、ベイリー教授は実験室に招き入れてくれた。

「暖房代が払えない人の家の平均気温が、摂氏10度」なのだと、ベイリー教授は言う。

そして10度というのは心臓と肺と脳に、多大な影響を及ぼす。それを私は身をもって知ることになる。

実験室の隅にある環境制御室に連れて行かれる。金属の壁がぴかぴかしていて、ドアは重くて分厚い。密閉されたこの部屋で、研究者は気温や湿度や酸素レベルを細かく設定できる。

私はまず21度の温かい風を浴びる。この実験は、気温を21度から10度まで下げていき、私の体の反応を計測するというものだ。

ありとあらゆる最先端機器が、体に取り付けられる。自分の体がこれほど精密に分析されるのは、初めてだ。

私の体温、心拍数、血圧を常時計測するため、胸や腕や脚のあちこちにモニターがつながれる。

「スター・ウォーズに出てくる何かみたいだ」と、ベイリー教授は言う。私の体についたセンサーやケーブルは、次々と増えていく。

額にじんわり汗をかき始めたころ、脳への血流をモニターするヘッドセットが頭に取り付けられる。超音波で首の頸動脈の様子を点検する(動脈がリズミカルに私の脳に血を、どくんどくんと流し込んでいる。その音に妙に安心させられた)。そして、私が巨大なチューブの中に息を吐くと、呼気の内容が分析される。

計測完了。快適な摂氏21度で私の体がどう機能するか、研究者たちは把握した。そこで、扇風機が作動し始める。涼風が次第次第に、室内の気温を下げていく。

「こうして話している今も、あなたの脳はあなたの血を味わっているし、気温を味わっている。それをもとにあなたの脳は今、体全体に信号を送っている」と、ベイリー教授は話す。

心臓や肝臓といった私の主要臓器を、約37度で維持することを、この実験は目指している。

この時点の私はまだ、自分の体内で大きな変化が起きていることに気づいていない。しかし、体の外ではすでに変化の兆候が出ていた。

室温が18度に下がったころには、私の汗は引いていたし、腕の毛は体を温めようと立ち上がっていた。

「18度が分岐点だと、科学的にわかっている。体は今は、その中心温度を守ろうとしている」。うなりを上げる扇風機の音にかき消されそうになりながら、ベイリー教授が叫ぶ。

続いて私の指が白く、冷たくなる。主要臓器への温かい血流を維持するため、手先の血管が収縮しているからだ。

私の性別が違っていたら、この現象はもっと早く起きる。

「女性の方が寒さを感じやすいのは、エストロゲンの影響で、手足の血管が収縮しやすいから。(中略)私たちが冷えやすいのはそのせい」なのだと、英ポーツマス大学のクレア・エグリン博士は話す。

室温が11.5度になって、最初の震えがやってくる。熱を作り出すため、筋肉が震え始めるのだ。

室温が10度まで下がると、扇風機は止まる。私は凍えてはいないが、決して快適ではない。全身のデータをまたとる。10度では体は影響を受けないなどと私が思っていたのは、間違いだった。

「10度になると、体はとてもがんばっている」と、ベイリー教授は言う。


脳への血流の変化が、私には衝撃だった。物を形でグループ分けするゲームを終わらせるのに、いつもよりずっと時間がかかった。

つまり、寒い部屋で学校の宿題をやるのは大変だ。そんな状態にはなりたくない。あるいは、認知症など脳の疾患が、寒さで悪化するのも困る。

「脳への血流が減るので、脳に入る酸素や糖の量が減る。その結果、脳の知的活動に悪影響が出る」と、ベイリー教授は説明する。

それでも私の体は、体の中心温度を一定に維持するという一番の目標は果たしている。ただそのために、いつもよりがんばらなくてはならないのだ。

私の心臓はいつもより速く脈打ち、温かい血液を体のあちこちにいつもより勢いよく送り込んでいる。血圧も急上昇している。

「血圧の急上昇は、脳梗塞(のうこうそく)を引き起こすリスク要因だし、心臓発作のリスク要因でもある」と、ベイリー教授は言う。

血液そのものも変化している。「まるで糖蜜のように」なるのだと教授は言う。そして、いつもより粘度の高い、べたついた血液が、危険な血栓を作るリスクも高まる。

だからこそ冬には心臓発作や脳卒中が増えるのだ。

幸いにして、教授によると私はもともと「見事な血管系」の持ち主なのだそうだ。しかし、体内のこうした変化は、もともと心臓疾患がある人や高齢者には、リスクとなる。

ベイリー教授は「暑さより寒さの方が人体にとって危険だと、データは明確に示している」と言う。「熱波が原因で亡くなる人より、寒波で亡くなる人の方が多い」。

「なので寒さに伴う危険について、もっと認識が広まる必要があると、私は強く思っている」

寒いとウイルスも有利

気温が低いと、冬季に増殖しやすいウイルスの感染症が広がりやすくなる。たとえばインフルエンザがそのひとつだ。感染から肺が炎症を起こす肺炎も、寒波の後に症例が増える

気温が寒いとウイルス感染が拡大しやすいのは、屋内で、窓を閉めた状態で他人と接する機会が増えるからだ。新鮮な空気が入ってこなければ、ウイルスは吹き飛びにくくなる。

加えて外気温が低ければ、ウイルスは人体の外で生き延びやすくなるし、冷気は乾燥しがちなため、ウイルスが吸着する水分が少ない。

空気が乾いていると、ウイルスはそれだけ遠くまで移動することができると、米イェール大学の岩崎明子教授は言う。免疫学が専門の岩崎教授は、冷たい空気の中で呼吸していると鼻の中の免疫系に影響が出ることも、実験で確認している。

「気温が低いと免疫反応が活発でなくなり、そのせいで鼻の中でウイルスが増殖しやすくなる」と、岩崎教授は話す。

では何をどうすればいい?

理想の世界なら、少なくとも18度になるまで部屋を暖めるべきだ。しかしそういうわけにいかない場合はどうか。

「山登りの準備に似ている」とベイリー教授は助言する。

  • 保温性の優れた衣服を主に着る。たとえばウールなどの
  • 帽子よりも手袋と温かい靴下が大事(ただし毛糸の帽子も役に立つ)
  • 炭水化物を多く含む食事に切り替える
  • 椅子に座ってテレビを見ているだけではなく、動き回り、体がふだんより熱をたくさん作りだすようにする

(英語記事 Staying warm: What does an unheated room do to your body?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63694181

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