
アメリカ連邦議会下院(定数435)の議長選が3日にあり、多数党・共和党のケヴィン・マカーシー院内総務(カリフォルニア州選出)が立候補したものの、3回の投票を経ても必要な過半数票を得られず、議長選は4日に持ち越されることになった。共和党議員20人が造反したため。下院議長が1回目の投票で決まらないのは、1923年以来。
歴史的な敗北は、ただちにマカーシー氏の議長就任を不可能にするものではないが、20人もの造反からどのように回復できるかは不透明。昨年11月の中間選挙の結果を受けて3日に招集された新しい顔ぶれの下院では、共和党議員は222人。過半数218票を得るには、造反は4人までにとどめなくてはならない。5時間に及んだこの日の投票で、1回目と2回目にマカーシー院内総務を支持したのは203人で、3回目には202人に減った。
民主党の下院議員212人は全員、自党のハキーム・ジェフリーズ院内総務(ニューヨーク州選出)に投票した。
議長が決まるまで
下院は、過半数の票を得た議長が決まるまで投票を続ける。議長が決まるまでは、新人議員の宣誓就任も行えず、新規則や法案の採決などの議事にも着手できない。
1回目の投票で議長が決まらなかった1923年には、投票9回を経て数日かけてようやく新議長が決まった。
4日以降の投票でたとえマカーシー院内総務が過半数を得て議長になったとしても、下院の共和党は任期満了までの2年間、穏健派と強硬右派が激しい対立を続ける可能性があると、多くのアナリストが警告している。
共和党内から造反
マカーシー院内総務の議長就任に反対したのは、党内の強硬右派。11月の中間選挙で共和党は僅差で下院多数党になったため、マカーシー院内総務が議長の席を確保するには、党内の支持を固める必要があった。その状況で強硬右派は、院内総務の議長就任を駆け引き材料に、さまざまな要求を突き付けていた。
思想的な理由から、あるいは個人的な理由からマカーシー院内総務に反対する造反議員たちの中心にいるのは、アリゾナ州選出のアンディー・ビッグス議員で、自ら議長に立候補している。2020年末以来、性的人身売買の疑いで司法省の捜査対象になっているマット・ゲイツ議員(フロリダ州選出)も議長候補に名乗りをあげ、1回目の投票では10人の支持を得た。
2回目の投票では、マカーシー議員を議長に推薦していたジム・ジョーダン議員(オハイオ州選出)が19票を獲得。3回目の投票では、ジョーダン議員の獲得票が20票に増えた。
下院は4日にまた集まり4回目の投票に臨むが、マカーシー院内総務が過半数を得られるのかは定かではない。
造反した共和党右派の1人、ローレン・ボーバート議員(コロラド州)は記者団に、「マカーシーから何も新しいことを聞かされていないので、このまま同じことを続けるのだと思う」と話した。
この間、212人全員が民主党院内総務に投票した民主党議員の中には、共和党内の混乱をからかうかのように、大量のポップコーンを用意した写真をツイッターに投稿する人たちもいた。
https://twitter.com/RubenGallego/status/1610350219094556672
「交渉したせいで弱く見えた」
党内の分裂は中間選挙前から起きていたと、複数の共和党ウォッチャーは指摘する。
「ケヴィン・マカーシーはもう長いこと、議員団の一部に友人を作らずにいた。むしろ、たくさんの敵を作ってきた」。共和党系ロビイストの一人は、この日の議長選について率直に話すために匿名を希望した上で、こう述べた。
「政治的な理由から、あるいは個人的な理由から、彼を嫌っている人たちがいる」
党内の造反勢力はマカーシー議員が、中道寄り過ぎる、あるいは権力志向過ぎると批判していた。これに対してマカーシー氏はそうした議員たちの支持を得ようと、現職議長を解任するための手続き簡素化を受け入れるなど、大きく譲歩する姿勢を見せていた。
「そもそも共和党内でそんな交渉をしていたこと自体、必死すぎるという印象を与えて、彼の立場を非常に弱くした」と、上述の共和党系ロビイストは述べた。
今後の可能性は
複数の米政界ウォッチャーが今後の展望についてさまざまに予測している。
「最後にはマカーシー氏が勝つが、とことん弱い議長になる」という予測や、「マカーシー氏は辞退し、同党下院ナンバー2のスティーヴ・スカリス院内幹事を支持する」という予測が、あり得る可能性として取りざたされている。
さらには可能性は極めて低いものの、「共和党議員5人が民主党のジェフリーズ院内総務に投票し、民主党が下院議長の席を維持する」という奇想天外なシナリオも飛び交っている。
シカゴ大学のルース・ブロック・ルービン准教授(アメリカ政治専門)は、マカーシー院内総務は「党内の片方の人質になっているのが現状」だと話す。
院内総務はこれ以上譲歩するつもりはないと述べているものの、議長に就任するにはほかに手段がないかもしれず、造反議員たちに委員会ポストや党内の重要ポストを提供する可能性もある。
共和党系ロビイストのアーロン・カトラー氏は、「自分に反対した議員たちに、何か獲物を与えないわけにはいかない」と指摘した。
一方、前出の匿名ロビイストは「勝利への道などまったく、何もない」と断言した。
(英語記事 It's not over for Kevin McCarthy's House Speaker bid - here's why / US House in chaos after Kevin McCarthy loses speaker votes)