
ウィル・ヴァーノン(モスクワ)、サミュエル・ホーティ(ロンドン)、BBCニュース
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5日、セルゲイ・ショイグ国防相に対し、ウクライナの前線で6日から36時間の停戦を実施するよう命じた。
停戦はモスクワ時間6日正午(日本時間同日午後6時)開始の予定。ロシア正教会のクリスマスに合わせたものとなる。
プーチン氏はウクライナに同調を求めた。だが、ウクライナは早々にこれを拒んだ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は停戦について、ウクライナ軍の前進を食い止めるための試みだと述べた。
ロシアはこの日、声明を発表。プーチン氏が戦闘停止を命じたのは、攻撃の手を緩めるためではなく(プーチン氏は手を緩めたりしない)、ロシア正教会トップの訴えを聞き入れたためだと強調するような内容だった。
ロシア正教会のキリル総主教はこの日、信者たちが正教会のクリスマス礼拝に参加できるよう、休戦を要望していた。
ロシア正教会はユリウス暦に沿って、1月7日にクリスマスを祝う。
態勢整えようとしていると非難
ロシアは声明で、「(キリル総主教の)呼びかけを考慮し、大統領はロシア連邦の国防相に対し、ウクライナのすべての前線で停戦を実施するよう指示する」と表明。停戦期間は36時間だとした。
また、ウクライナに同調を要求。目的は「敵対行為がみられる地域に住む多くの正教徒」が、6日のクリスマスイブと7日のクリスマスを祝えるようにするためだとした。
これに対しゼレンスキー氏は、毎夜恒例のビデオ演説で、ロシアが休戦を言い訳に、東部ドンバス地方でのウクライナの前進を止めるとともに、人員と装備をさらに投入しようとしていると述べた。
そして、通常のウクライナ語からロシア語に切り替えて、「それで(ロシアは)何を得るのか。損失の総計が増えるだけだ」と話した。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は、これまでゼレンスキー氏が和平の提案をしてきたのに、ロシアは無視し続けたと主張。宗教的な祝日だろうとロシアは敵対行為を停止しないとし、昨年12月24日のヘルソンの砲撃や大みそかの空爆が、そのことを証明しているとした。
一方、アメリカのジョー・バイデン大統領は、プーチン氏が「息をつこうとしている」だけとの見方を示した。
ロシアの停戦は、主に国内向けに発せられている説明の文脈にうまく合致する。この場合の文脈とは、ロシア人は善人であり、ウクライナと西側諸国がロシアを脅かしている――というものだ。
停戦はまた、ウクライナを悪者に仕立てるのにも有用だ。ウクライナが提案を拒めば、ロシアはウクライナが信者たちを尊重せず、平和を望んでいないと主張するだろう。
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、ロシア軍がすべての占領地から撤退するまで「一時的な停戦」はあり得ないと主張。ロシアの動きを「プロパガンダのジェスチャー」、「つまらない策略」と批判した。そして、ロシアが「人道的」だと装うことで、ヨーロッパ諸国にウクライナへ圧力をかけさせようとするものだと述べた。
<関連記事>
- 【解説】 ロシア兵の携帯電話使用で位置を特定し得たのか ウクライナの砲撃
- ウクライナ東部でミサイル砲撃死ロシア兵は89人に、兵の携帯電話利用が原因とロシア軍
- ロシアはドローン攻撃の長期化意図とゼレンスキー氏 ウクライナ東部ではロシア側に犠牲多数
忘れてはならないのは、隣国を一方的に侵略し、この戦争を始めたのはロシアだということだ。
また、今回の動きのわずか数日前には、ロシア占領下のウクライナ東部マキイウカのロシア軍臨時兵舎をウクライナ軍が攻撃し、多数のロシア兵が死亡していた。
ロシア国防省は、この攻撃による死者を89人と発表。戦争開始以降にロシアが公表した単一事案の死者数としては最多となった。
死者の親族や一部の政治家、コメンテーターらは、マキイウカでの出来事に怒り心頭となり、無能な軍関係者を非難した。この一件があったのは、ロシア暦で最も重要な祝日の大みそかだった。
政治アナリストのタティアナ・スタノヴァヤ氏は、ロシアの重要な祝日にこれ以上、大きな犠牲が出ないようにしたいと、ロシア政府が望んでいる可能性があるとみている。
「プーチンは正教会のクリスマスに同じことを繰り返したくないと心から思っている」と同氏は書いた。
これに先立ち、トルコのレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領はプーチン氏に対し、ウクライナで「一方的」な停戦を宣言し、双方が交渉できる環境をつくるよう求めた。
キリスト教の東方正教会の中では、ロシア正教会が圧倒的に規模が大きい。ただ、別の宗派もある。
ウクライナでは、クリスマスを12月25日に祝う人もいれば、1月7日に祝う人もいる。両日とも同国では祝日だ。
ウクライナ正教会は昨年、信者が12月25日にクリスマスを祝うことを初めて認めると発表した。ウクライナ西部の他のいくつかの教派も同様の発表をした。
ウクライナ正教会は2018年に、同じような名称のウクライナ正教会(UOC)と分裂した。
UOCはロシアの侵攻が始まるまで、ロシアの宗教指導者と結びつきがあった。幹部の一部は今も、ひそかにロシアを支持していると非難されている。
ロシアが停戦を発表した数時間後、ドイツはアメリカに続き、ウクライナに防空ミサイルシステム「パトリオット」を供与すると発表した。ドイツはまた、アメリカと共同声明を出し、両国が装甲車を送る予定だとした。
フランスは4日に、装甲戦闘車両を送ると発表している。
ロシアの侵略が続く中、ウクライナは同盟国からの支援増強を繰り返し要求している。