
ウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相は20日、同国がロシア軍に対抗するために緊急に供与要請しているドイツ製戦車「レオパルト2」について、ドイツ側と「率直な議論」を行ったと明らかにした。
ドイツにある米軍のラムシュタイン空軍基地では20日、アメリカなど西側諸国の代表による、ウクライナへの軍事支援に関する会合が開かれた。
会合では、ウクライナに装甲車や防空システム、弾薬を追加供与することで合意した。
ウクライナはドイツ以外の多くの北大西洋条約機構(NATO)加盟国から、兵器を確保できることになる。
レズニコフ国防相は会合後、「我々はレオパルト2について率直な議論を行った。今後も議論は続く」と述べた。
現時点ではポーランドとフィンランドが、所有するレオパルト戦車をウクライナに供与すると表明している。ただ、実行するには製造国ドイツの承認が必要。
ドイツ政府は、レオパルト戦車をウクライナへ供与するか、第三国が供与するのを認めるよう、国内外から圧力を受けているが、これまでのところいずれの判断も示していない。
レオパルト2はウクライナにとって、形勢逆転につながる「ゲームチェンジャー」になる可能性があると考えられている。整備が容易なのに加え、ウクライナ侵攻に投入されているロシアのT-90戦車への対抗手段として、特別に設計されているためだ。
ドイツのボリス・ピストリウス国防相は、レオパルト戦車の供与をめぐって意見が分かれているとし、独政府がそうした動きを妨げているわけではないとした。
ドイツの輸出法では、同戦車の供与を表明しているポーランドやフィンランドなどの国々は、独政府の許可が出ない限り実際に供与することはできない。
「決断を下さなければならない」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はNATOのパートナー国の軍事支援を称賛しつつ、「近代的な戦車を供給してもらうためにはまだ戦わなければならないだろう」と述べた。
「代替手段はない。そして戦車について決断を下さなければならない。これを我々は連日、より明白に示している」
ウクライナが現在使用する戦車のほとんどは旧ソ連型で、その数や火力でロシア軍に劣っている。
欧州各地の倉庫には2000台以上のレオパルトが保管されている。ゼレンスキー大統領は、そのうち約300台がロシアを倒すのに役立つと考えている。
ドイツのピストリウス国防相は、独政府は同盟国間で合意に至った場合に迅速に行動できるよう準備をしているとしたが、戦車に関する決定がいつ下るのかは分からないと述べた。
ドイツはかつて、紛争地に武器を送らないという政策をとっていたが、昨年2月にロシアのウクライナ侵攻を受けてそれが一変した。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は昨年末、ドイツは現在、大砲や防空システム、マルダー歩兵戦闘車などを供給し、「ウクライナに最も多くの軍事的、財政的および人道的支援を提供している同盟国の1つ」となっていると述べた。
ただ、レオパルト戦車については、アメリカの強力なM1エイブラムス戦車を含む、より幅広いNATOの支援パッケージの一部として供与することが望ましいとして、難色を示している。アメリカ側は、エイブラムス戦車はメンテナンスが難しくコストもかかるため、ウクライナ軍には実用的でないとして供与を拒否している。
ドイツに戦車を供与させるため、アメリカに戦車を送るよう圧力をかける動きもある。
ロイド・オースティン米国防長官は、独政府はアメリカが先に動くのを待っているわけではないとし、「私の考えでは、ロックを解除するという概念が問題なのではない」と述べた。
ドイツも第2次世界大戦でのナチス時代の惨状にとらわれており、オラフ・ショルツ独首相はウクライナでの状況のエスカレーションに関わることには慎重だと考えられている。
独野党・キリスト教民主同盟(CDU)のヨハン・ヴァーデプール氏は、レオパルトに関する政府の「拒否政策」はドイツの国際的評判に影響を及ぼすと非難。「ショルツは何を待っているのか」と述べた。
ポーランドのズビグニェフ・ラウ外相も、ドイツの消極的な姿勢を批判した。
「ロシアの侵略を撃退するためにウクライナを武装することは、ある種の意思決定作業ではない。実際にウクライナ人の血が流れている。レオパルトの供与をためらったことの代償だ。我々はいま行動を起こす必要がある」と、ラウ外相はツイートした。
西側諸国は他の兵器支援に数十億ドルを投入している。しかし、戦車へのドイツのコミットメントがなければ、ウクライナが期待する結果にはつながらない。
各国の支援
イギリスは陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」14台をウクライナへ送る予定。
アメリカは19日、ウクライナに対し25億ドル(約3215億円)相当の追加軍事支援を行うと発表した。ブラッドレー装甲車59台、ストライカー兵員輸送車90台、アヴェンジャー防空システムなどを供与する。
欧州11カ国は19日、ウクライナ支援に関する会合をエストニアで開き、追加の兵器供与を表明した。ウクライナへの追加の軍事支援を表明したのは9カ国。支援内容は次の通り――。
- イギリス - ブリムストーン・ミサイル600発
- デンマーク - フランス製カエサル自走榴弾(りゅうだん)砲19基
- エストニア - 榴弾砲、弾薬、支援車両、対戦車グレネードランチャー
- ラトヴィア - スティンガー防空システム、ヘリコプター2機、ドローン
- リトアニア - 高射砲、ヘリコプター2機
- ポーランド - S-60高射砲、弾薬7万発
- チェコ - 榴弾砲、装甲兵員輸送車(APC)、大口径の弾薬の増産