
ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は22日、同国製の戦車「レオパルト2」をポーランドがウクライナに供与する場合、それを「邪魔するようなことはしない」と、フランスメディアのインタビューで述べた。ポーランドは23日、ドイツに供与の承認を求めると表明した。
レオパルト2をめぐっては、ロシアと戦うウクライナが、勝利に貢献するとして、西側に供与を求めている。ポーランドが供与する意向を示しているが、ドイツの承認が必要となっている。
ドイツは国内の輸出法を理由に、まだ承認していない。
そうしたなかでベアボック氏は22日、フランスの放送局LCIのインタビューで、ポーランドから同戦車の輸出について承認は求められていないと説明。
「今のところ尋ねられていないが、もし尋ねられたら、邪魔するようなことはしない」と述べた。
ドイツ政府の報道官も23日、同戦車の供与に関する承認はどこからも要請されていないと話した。
ポーランドは未承認でも供与の方針
こうした状況で、ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は23日、レオパルト2供与の承認をドイツに求めると述べた。同時に、たとえ承認されなくても、ウクライナに戦車を送るとした。
モラヴィエツキ氏は、「最終的に同意が得られなくても、小規模連合の枠組みの中で(中略)私たちは他と共に戦車をウクライナに渡す」と表明した。
モラヴィエツキ氏は先週、レオパルト2を14台、ウクライナに提供する用意があると述べている。
ポーランド大統領の外交顧問、マルチン・プシダッチ氏は23日、ベアボック独外相の発言を歓迎するものの、オラフ・ショルツ独首相による方針表明を望むと、ポーランドのラジオで述べた。
プシダッチ氏は、「協議と外交を通し、ポーランドはドイツの立場を変えられることが分かった」と話した。
ポーランドは、戦車14台ではウクライナの戦闘能力の向上が限定的だとし、ドイツやその他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国にも、レオパルト2の供与を求めている。
ウクライナ外相が同盟国に呼びかけ
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は23日、BBCのインタビューで、レオパード2を提供する意思があるすべての国に対し、「直ちにドイツ政府に承認を正式に要請」するよう呼びかけた。
そして、「これは全体状況を明確にする動きで、ドイツの対応を見守るものだ。すぐに実行される必要があり、すべてが明白になる」と述べた。
また、ドイツには「多くのウクライナ兵の命を救う」力があるとした。
クレバ氏は同日の国営放送のインタビューでは、ドイツが最終的に戦車を供給すると「確信」していると語った。
<関連記事>
一方、欧州連合(EU)のジョゼップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は、EU諸国によるレオパルト2の輸出を、ドイツが制止することはないだろうとの見方を示した。
ボレル氏はまた、ウクライナ支援をめぐっては、戦車だけが議論の対象にされるべきではないと付け加えた。
「レオパルト2」とは
レオパルト2は、ロシアがウクライナ侵攻で使っている「T-90」戦車に対抗する戦車として特別に設計された。世界に計2000台以上あるとされる。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、レオパルト2が300台ほどあればロシアに勝利できると述べている。
多くの西側同盟国は、ドイツがレオパルト2の供与を渋っていることに不満を募らせている。
現在の規定では、ドイツは自国で製造された戦車を他国が再輸出した場合、その国に制裁を科すことになっている。
20日に同盟国50カ国以上が参加したウクライナ支援に関する会合の後も、ドイツは戦車の供与や輸出許可を表明していない。ただ、戦車の輸出を一方的に阻止することはしないとしている。
エストニア、ラトヴィア、リトアニアの外相は21日に共同声明を出し、ドイツに「今すぐウクライナにレオパルト戦車を供与」するよう求めた。
ドイツ首相は懐疑的
ドイツのショルツ首相は、ドイツが軍事紛争に関わることに従来から懐疑的だ。ロシアの反応をエスカレートさせることを懸念している。
ショルツ氏は先週末、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と会談し、両国の同盟関係をあらためて確認した。
フランスはすでに、ウクライナへの軽戦車の供与を約束している。マクロン氏は、フランス製の重戦車「ルクレール」をウクライナに送る可能性も示唆した。
その他の国々も、ウクライナへの戦車の供与を表明している。イギリスは陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」を14台送るとしている。
<解説> なぜレオパルト戦車をそれほど望むのか――クリス・パートリッジ、BBC兵器アナリスト
レオパルト2戦車は、10数カ国が使っている世界的な兵器だ。
ウクライナは、ロシア軍に対する防衛で戦車が重要だとしている。レオパルトは、アフガニスタンやシリアでの戦闘で実際に使われてきた。
ウクライナにとってレオパルトが特に魅力的なのは、全生産台数の3分の2近くがヨーロッパにあるからだ。そのため、戦闘への投入が比較的簡単だ。どんな兵器にも欠かせないメンテナンスや修理も容易になる。
さらに、ドイツはウクライナに対し、IRIS-Tやパトリオット地対空ミサイルなどの防空システム、装甲兵員輸送車なども供与していることも忘れてはならない。