
アントワネット・ラドフォード、ジョナサン・ビール防衛担当編集委員、BBCニュース
米軍の無人航空機(ドローン)が黒海に墜落した件で、ロシアは15日、同機の残骸の回収を試みると明らかにした。
大型ドローン「MQ9リーパー」は14日朝に墜落した。
アメリカは、ドローンのプロペラがロシアの戦闘機に接触して「飛行不能」になったため、損傷したドローンを墜落させたと発表した。ロシアはこの主張を否定している。
ロシア安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記は国営テレビで、同国が墜落機を捜索していると説明。「回収できるか分からないが、やらなければならない」と述べた。
また、黒海上空を米軍のドローンが飛行していたのは、アメリカがウクライナでの戦争に直接関与していることを「確認」させるものだとした。
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、アメリカも墜落機を捜索していると説明。仮にロシアに先を越されても、「ロシアが有用な情報を利用する能力はかなり小さい」と強調した。
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長も、墜落機を無価値なものにするための措置を取ったとした。
ミリー氏はまた、墜落した場所の水深は1200~1500メートルだとし、回収は困難だとの見方を示した。
米ロの国防トップが電話協議
米軍によると、ドローンとロシア戦闘機の接近は30~40分ほど続いたという。
アメリカは声明で、ロシア戦闘機が衝突前に数回、ドローンに燃料を浴びせたとした。国防総省のパット・ライダー報道官は、ロシア機も損傷した可能性が高いと述べた。
ロシアは、同国軍の戦闘機「スホイ27」2機が米軍のドローンと接触したことを否定している。
ロシア国防省はドローンについて、「急な方向転換」をして墜落したと説明。トランスポンダー(通信装置)をオフにして飛行していたと述べた。
アメリカのロイド・オースティン国防長官は、ドローン墜落の翌日にロシアのセルゲイ・ショイグ国防相と電話協議をしたことを明らかにした。
ロシア国防省は電話協議の後に声明を出し、ショイグ氏が今回の件について「ロシア連邦の国益に対する偵察活動の増加」が原因だと述べたとした。また、クリミア沖での米軍ドローンの飛行を「挑発的」だとした。
墜落機回収の努力
アメリカとイギリスは自国軍機が墜落した場合、技術の流出を避けるため、機体の回収に多大な努力を払ってきた。
ステルス戦闘機F-35が南シナ海に墜落した際には、海底から残骸を回収した。
しかし、米国防総省は今回のドローンを失うことについて、過去の墜落ケースよりリラックスしているようだ。「リーパー」に使われている古い技術はこれまで数多く失われてきた。
ロシアの船舶や潜水艦がパトロールし、戦争地帯に隣接している深海で回収しようとすれば、事態をさらにエスカレートさせる危険性もある。
2014年にロシアがウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合して以降、黒海をめぐる緊張は高まっている。
ドローン飛行に関して米側は
ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始したことを受け、アメリカとイギリスは偵察・監視飛行を強化している。ただ、その活動は常に国際空域内にとどまっている。
墜落したドローンは、レーダー放射などの電子データを収集できる監視ポッドを搭載していた可能性がある。
米国防総省は報道発表で、監視飛行はヨーロッパの安全保障の向上に役立つ情報を収集し、「同盟パートナー」を支援するためのものだとした。
アメリカはこれまで、ウクライナと情報を共有していると報じられている。ウクライナが黒海でロシア船を沈没させた際などに、情報提供をしたとされる。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は、今回の米軍ドローン墜落のような事案は「ロシアがクリミアを支配している限り避けられない」と、BBCのジェイムズ・ランデイル記者に話した。
大多数の国は今なお、クリミアはウクライナの一部だと認めている。
クレバ氏は、今回のドローン墜落でアメリカや他の同盟国がより慎重になる可能性があるかと問われると、「西側諸国が弱さを示したいのであれば、確かに慎重さを示すべきだが、各国にそうした雰囲気は感じられない」と答えた。
オースティン米国防長官は、国際法が許す場所である限り、米軍は「飛行と活動を継続する」と宣言した。
ロシアのアナトリー・アントノフ駐米大使は、米政府から呼び出された後、ロシア政府は今回のドローンをめぐる事案を「挑発行為」だと捉えていると述べた。
アントノフ氏はまた、「私たちの国境付近における米軍の容認できない活動が懸念を引き起こしている」と付け加えた。
ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は15日、今回の件に関して米ロ間のハイレベルな接触はないと述べた。
ただ、ロシアは建設的な対話を拒否することはないとした。