2023年3月30日(木)

BBC News

2023年3月16日

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スイス金融大手クレディ・スイスは16日、財務強化のため、スイス国立銀行(SNB、中央銀行)から最大500億スイスフラン(約7兆1000億円)を借り入れると発表した。「先手を打って流動性を強化するため、断固とした措置を取る」としている。

SNBと規制当局は必要であれば、問題を抱えた巨大銀行を支援するために介入する用意があるとしていた。

アメリカで2銀行が経営破綻したことですでに動揺している投資家たちは、クレディ・スイスの状況に懸念を抱いている。クレディ・スイスの窮状は、銀行危機が拡大することへの不安を増大させている。

クレディ・スイスが財務報告に「弱点」が見つかったと発表すると、同行の株価は15日、24%急落して過去最安値を記録した。

この懸念は株式市場全体に広がり、主要な株価指数はすべて急落した。

クレディ・スイスは今回の借り入れ措置について「顧客やその他のステークホルダーに価値を提供するために戦略的転換を続けるクレディ・スイスを強化する断固とした措置を示すもの」だとしている。

同行のウルリッヒ・ケルナー最高経営責任者(CEO)は声明で、「私のチームと私は、顧客のニーズを中心に据えたよりシンプルかつより焦点を絞った銀行を実現するために、迅速に前進することを決意した」と述べた。

「必要であれば」規制当局が介入も

スイス国立銀行(SNB)とスイス金融市場監査局は投資家の不安を和らげるため、必要であればクレディ・スイスを支援する用意があるとしている。

「銀行市場の混乱による、スイスの金融機関への直接的な伝染のリスクがあることを示す兆候はない」と、SNBとスイス金融市場監査局は共同声明で説明。

スイスの金融機関には「安定性を確保する」ための厳格な規則が適用されており、クレディ・スイスはシステム上重要な銀行とみなされる要件を満たしているとしている。

「必要であれば、SNBは(クレディ・スイス)に流動性を提供する」

BBCの取材では、 英イングランド銀行(中央銀行)がスイス当局やクレディ・スイスと連絡を取り合い、状況を注視していることがわかっている。

欧州株が大幅下落

クレディ・スイスのような国際的金融機関のぜい弱性への懸念から15日、ストックス欧州600指数は7%下落した。

ロンドン株式市場ではFTSE100種総合株価指数が3.8%下落。1日の下げ幅としては2020年のパンデミック初期以来最大だった。

ドイツのダックス指数は3%以上、フランスのCAC40指数は約3.5%、スペインのIBEX35指数は4%以上、それぞれ下落した。

アメリカではダウ平均株価が約0.9%、S&P500指数が0.7%下落した。ナスダック総合指数はほぼ横ばいで推移した。

英調査会社キャピタル・エコノミクスのアンドリュー・ケニンガム氏は、「クレディ・スイスをめぐる問題は、これが世界的危機の始まりなのか、それとも単なる『特異な』ケースなのかという疑問を、再び投げかけている」と指摘した。

金融セクターの問題

金融セクターにおける問題は先週、アメリカで16番目に大きな銀行だったシリコンヴァレー・バンク(SVB)の破綻から始まった。

テクノロジー企業への融資を専門としていたSVBは10日、規制当局に資産を差し押さえられ、閉鎖された。アメリカの銀行としては、2008年の金融危機以来で最大の経営破綻となった。SVBの英国部門は英最大の投資銀行HSBCに1ポンドで買収された。

12日には、ニューヨーク州に拠点を置く米シグネチャー・バンクも破綻。米規制当局が両行の全預金を保証することとなった。

それでも、ほかの銀行も同様の問題に直面するのではないかとの懸念は根強く、今週に入って銀行株の売買は不安定な状態になっている。

米投資大手ブラックロックのローレンス・フィンク最高経営責任者(CEO)は、投資家向けの年次書簡の中で、「被害がどの程度広がっているかを把握するには時期尚早だ」とした。「規制当局の対応はいまのところ迅速で、断固とした措置が伝染リスクを食い止めるのに役立っている。しかし市場は依然として緊張状態にある」。

何があったのか

1856年創業のクレディ・スイスは近年、マネーロンダリング(資金洗浄)で有罪判決を受けるなど、相次ぐ不祥事に直面している。

2021年と2022年には、2008年の金融危機以来で最悪の損失を計上。2024年まで黒字になる見込みはないと警告している。

同行の株価は、今週以前からすでに深刻な打撃を受けていた。顧客の間で資金を引き揚げる動きがあり、同行の価値は昨年、約3分の2に減少していた。

14日に財務報告管理における「重要な弱点」がみつかったと公表したことで、再び懸念が強まった。筆頭株主のサウジ国立銀行は、クレディ・スイスに追加出資しないと表明した。

クレディ・スイスは、財務状況に懸念はないと強調。同行のケルナーCEOは手元資金について、「依然として非常に堅調」だとした。

しかし、ほかの銀行がクレディ・スイスへのエクスポージャー(リスクにさらされている資産の比率)を急いで減らそうとしているほか、スペインとフランスの首脳が同行について言及し、懸念を和らげようとしたことなどから、同行の株価はその日のうちに24%下落した。

他行への影響は

独銀行バーダー・バンクの資本市場責任者ロバート・ハルヴァー氏は、「この銀行危機はアメリカから波及したものだ。現在人々は、この状況全体が欧州でも問題を引き起こす可能性があることに注目している」と述べた。

SVBの場合、資金調達のために保有していた債券を売却せざるを得なかったことが、破綻に陥った要因の1つだった。

米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制を目的とした借り入れコストの引き上げにより、これらの債券の価値はこの1年で低下していた。

イングランド銀行を含む他の多くの中央銀行も金利を引き上げている。利上げに伴い、債券ポートフォリオの価値は低下する。

つまり、多くの銀行が多額の潜在的損失を抱えている可能性があるということになる。ただ、顧客資金の大幅流出などにより、保有債券の売却を余儀なくされない限り、通常は価値の変動が問題になることはない。

「懸念されるのは、債券ポートフォリオに多額の含み損を抱えている銀行が、預金の急速な引き揚げがあった場合に十分な余力を確保できないかもしれないということだ」と、金融サービス、ハーグリーヴス・ランズダウンの金融・市場部門責任者スザンナ・ストリーター氏は述べた。

「大手金融機関は、多額の自己資本と安定した預金のおかげでリスクはないと判断されている。それでも、神経質になっているのは明らかだ」

(英語記事 Credit Suisse to borrow $54bn to shore up finances

提供元:https://www.bbc.com/japanese/64960802


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