
複数の戦闘員が、ウクライナから国境を越えてロシア西部ベルゴロド州に侵入した。クレムリン(ロシア大統領府)はこれらの戦闘員を「破壊工作員」と呼び、「対テロ」作戦を発動する事態となった。
2日間にわたる戦闘の末、ロシアは反乱軍を包囲して70人以上を殺害し、残りの戦闘員をウクライナ側へ押し戻したと発表した。これらの戦闘員について、ロシアはウクライナの武装勢力だと主張している。しかしウクライナ政府は、ロシア政府と敵対する2つのロシア準軍事組織に属する戦闘員だとしている。
ウクライナ当局によると、彼らはウクライナ人のための「安全地帯」の設置を目指す、準軍事集団「自由ロシア軍団」と「ロシア義勇軍団(RVC)」に属するロシア人だという。
両集団は過去に、ウクライナの領土防衛に関わる国際部隊(外国人部隊)の一員と称されたことがある。
ウクライナ軍情報当局のアンドリイ・ユソフ氏は、両集団は「ロシア領内で自律的に」活動しており、ウクライナ人は関与していないと述べた。ウクライナのテレビ放送では、民兵と「ロシア人義勇兵」で構成されていると報じられた。
ロシア義勇軍団
今年3月、ウクライナから国境を越えてロシア・ブリャンスク州に侵入した武装集団によって、襲撃事件が起きた。45人が関与したとされるこの襲撃に加わっていたロシア義勇軍団(RDK)は、これを機に注目されるようになった。
未確認のロシア側の報告によると、銃撃が起き、死傷者が出たり、人質になった人がいた。一方でRDKは、ロシア人に政府への反抗を呼びかけるために越境したとし、人質をとらずに安全にウクライナ領内に撤退したという。
RDKのリーダーは、デニス・カプースチンまたはデニス・ニキーチンの名で知られるロシア人ナショナリスト。同集団は公然と、ロシアは単一民族国家だという考えを信奉している。
ウクライナの調査ウェブサイトは2020年、デニス氏がネオ・ナチ系グループとつながっていると主張した。同氏は過去に、サッカーのフーリガン運動に自分が属していると語っていた。
RDKは、ロシアの主な野党がウクライナ戦争について傍観していると非難している。
「フォルトゥナ」と名乗る別のRDKメンバーは昨年11月、ウクライナ・メディアに対し、戦闘員の数が120人に達したと話した。「我々は自発的な部隊で、ウクライナ市民のような徴集兵や契約軍人ではない」。
自由ロシア軍団
自由ロシア軍団(FRL)は、ウクライナ部隊とともにロシア軍と戦う、全く異なる組織だ。ロシアの敵対勢力の一部は、FRLが使用する白青白の旗を「自由ロシア」を示す旗とみなしている。
RDKリーダーのデニス・ニキーチン氏は、いずれの集団も「プーチン政権を打倒すること」を目指しているが、FRLの戦闘員は中道派を自称する傾向が強いとした。
しかし、FRLは5月22日、ウクライナ国境を越えてベルゴロド州の南西にあるコジンカ村を「解放」したと発表。「FRLとRDKは、ベルゴロド州の解放を続けている」と主張した。
「またしても、ロシア市民は安全でロシア連邦は強いという神話は破壊された」
FRLはその後、モスクワ上空にFRLの旗が付いた気球が上がっている様子の動画を投稿した。
FRLの規模は不明だが、「ウクライナ軍との全面的な協力およびウクライナ軍司令部の指導のもと、戦っている」と、同集団のウェブサイトは主張している。
「カエサル」の名で呼ばれる、FRLでおそらく最も有名な兵士は、「FRLには強制的に加入させられた者はいない」とし、メンバーは全員、ウクライナの外国人部隊と契約した兵士だと語った。
メンバーの中には、ウクライナ軍に投降したロシア兵もわずかながら含まれるという。こうした兵士は、ウクライナの味方になるために投降したのだと、カエサル氏は述べた。
FRLは、ロシア政府から「テロ組織」のレッテルを貼られたことに反発している。
軍事的重要性は
RDKとFRLの軍事的重要性については疑問の声もあがっている。ウクライナの政治学者ウォロディミル・フェセンコ氏は、2つの集団にはさまざまな部隊があり、実際の活動よりも広報活動を重視しているようだと話す。
ウクライナで亡命生活を送る、ロシアの元下院議員で現在はウクライナ国籍のイリヤ・ポナマレフ氏は2022年8月、FRLとRDK、そして国民共和国軍(NRA)が、「ウラジーミル・プーチン大統領の支配からロシアを解放する」という共通の目標に同意する宣言に署名したと、フェイスブックに投稿している。
取材:BBCモニタリング
(英語記事 Who are the fighters infiltrating Russia from Ukraine?)
提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-65692517