2023年10月4日(水)

BBC News

2023年9月15日

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フランシス・マオ、BBCニュース

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記は、きらびやかな宇宙基地を並んで歩いた。後ろにいた側近たちも歩調を合わせた。

二人は発射台の上に立ち、ロケットの打ち上げに使われる穴をのぞき込んだ。

その日の豪華な晩さん会では赤ワインを傾けた。国際社会の大多数から嫌われている国同士の、乾杯だった。

そして別れる前に、2人はプレゼントを交感した。お互いの国製のライフルだ。

ロシアの極東で行われたプーチン氏と金氏のデートは、戦争の中で築かれている新しい関係を明示する見た目になっていた。

金氏はさらにロシアでの滞在を延長し、港湾や航空機工場、軍事施設などを数日かけて見て回る予定だ。

両首脳の会談には、開始以前から大きな注目が寄せられていた。金氏が装甲列車で何時間もかけて国境を越えていく様子を、世界のメディアは見つめ続けた。

金氏がロシア東端にあるヴォストチヌイ宇宙基地にたどり着くまで、西側では40時間にわたって憶測が飛び交った。その後も、両首脳がいったい何を話す予定なのかはわからないままだった。米ホワイトハウスは先週、北朝鮮がロシアに兵器を売る可能性があると警告している。

総書記の列車到着を出迎えるため、プーチン氏は出迎えの先遣隊を現地に派遣した。敷地内の線路の横に、赤じゅうたんが敷かれた手すり付きのステップが設置され、北朝鮮の指導者の列車の停車と、本人が降りてくるのを待ち構えていた。

プーチン氏は、リムジンに乗った金氏を宇宙基地の建物前で出迎えた。カメラのフラッシュがたかれる中で、二人は握手した。その様子はすぐさま、国営メディアによって報じられた。

どちらの首脳も、見世物と演出の力を熟知しているが、金総書記は特に、大掛かりな式典を好む。英シェフィールド大学の北朝鮮専門家サラ・サン博士は金氏について、「自分たちについて何世代もの神話を構築してきた一族」から出た、最高指導者の3代目なのだと指摘する。

「北朝鮮の人たちは、総書記のこの旅や会談の一部をテレビや新聞で目にすることになる。それだけに、総書記がありきたりの、任期限定の国家指導者と同じだと思われては、北朝鮮としては困る」のだと、サン氏は述べた。

「金総書記にとって、他国の首脳と一対一で会談することは、非常に重要だ。そうすれば全員の目が自分に集まるし、国際舞台で北朝鮮が実際よりも重要な存在なのだと、そういう見た目を演出できる」

「もちろん、国際社会による制裁は依然として極めて厳しい。それだけに、ロシアが武器を必要としている現状は、北朝鮮にとって相補的な2つの目的を実現するチャンスとなっている。つまり、国家への収入確保に加え、金氏は主要国の指導者に会えるだけの存在なのだと示すことが、その2つの目的だ」

両首脳が会談する1時間ほど前、北朝鮮は2発の弾道ミサイルを発射した。国家元首が国内にいない時に発射したのは初めてだった。

ソウルの梨花女子大学校のリーフ=エリック・イーズリー教授は、「この首脳会談は、欧州とアジアにおける嫌われ者国家の振る舞いを結びつける、挑戦的なものだった」と語った。

しかし、この会談がきらびやかな見た目と大げさな演出にとどまらず、具体的な取引につながったのかどうか、オブザーバーたちは疑問視している。その内容はほとんど公表されなかった。

ソウルの国民大学校で北朝鮮の軍事を研究するフョードル・テルティツキー氏は、「現時点では、公の場での実質的な進展はないようだ」と話した。

「我々が見たのは、二面的なイベントだった。主に海外向けに作られた壮大な見世物と、密室での非公開の合意。そして、合意の意義については不透明なままだ」

ウクライナにおけるロシアの戦力を北朝鮮が底上げしかねないと、西側は懸念している。この武器取引については、何も明かされていない。

また、食糧支援、経済支援、軍事協力、技術共有など、金氏が希望したはずの内容を北朝鮮が獲得したのかについても、何も言及がない。

唯一成果として明らかになっているのは、北朝鮮の宇宙開発や人工衛星打ち上げについてで、プーチン氏はロシアによる支援提供の可能性をちらりと口にした。

だからこそ宇宙基地が首脳会談の場所として選ばれたのだろうと、アナリストらは言う。両首脳は、ロシアの中でもモスクワとは遠く離れた場所にある、先進的な宇宙基地まで長距離を移動した。

しかし、宇宙基地での会談はプーチン氏にとっても、意味のある姿を世界に示す機会だったと、専門家たちは言う。

第一に、プーチン氏は宇宙開発を支援するとちらりとだけ触れた。それはおそらく北朝鮮に提供できる範囲内にとどまった。

北朝鮮は今年2度、偵察衛星を宇宙に運ぶことに失敗している。北朝鮮の宇宙技術は、ロシアに何十年も遅れている。

北朝鮮が敵の監視に使える衛星を宇宙空間に置く手助けをすることと、国連安全保障理事会から長年にわたって非難され、禁止されている北朝鮮の核・ミサイル開発計画について、ロシアが実際の手助けに同意することとは、大きく異なる。

ウクライナ侵攻以前のロシアは、北朝鮮による軍縮の可能性について、何らかの仲介役として影響力を持つかもしれないとさえ、国際社会では見られていたこともある。

つまり、今回の会談は「プーチン氏が安保理決議を、せせら笑ったに等しい」と、イーズリー教授は指摘した。

「これは他のすべての国連加盟国に対して、対北朝鮮制裁の徹底に向けて、努力を今一度強化しなくてはならないと、警鐘を鳴らすものだ」

一方で、宇宙基地という場所はフェイントに過ぎないと見る向きもある。ウクライナ侵攻後にロシアとの関係を断ち、制裁を採用した西側諸国と韓国を不安にさせるのが狙いだと。

「プーチン氏は、今回の首脳会談を韓国へのテコとして利用するつもりなのかもしれない。ウクライナへの武器供与を思いとどまらせるための。韓国がウクライナに武器を提供するなら、ロシアは報復として北朝鮮に軍事技術を提供するぞと、暗に示唆しているのかもしれない」と、前出のテルティツキー氏は言う。

しかし、自分たちの最高峰の宇宙開発技術を北朝鮮に分け与えるつもりがロシアにあるのか、そもそも北朝鮮から受け取る武器を念のための予備以上に評価しているのか、どちらもかなり疑わしい。

テルティツキー氏は、「人工衛星技術に関しても、プーチン氏の発言は慎重で、援助を提供するという明確なコミットメントではなく、検討するかもしれないと強く示唆するものだった」と指摘する。

テルティツキー氏はまた、両国間にほとんどマネーフローがないと述べた。韓国の推計によれば、兵器をめぐる表向きの発言とは裏腹に、両国の貿易額はゼロに近い。北朝鮮は貿易収入の95%以上を、中国に依存している。

「そのため、今回の首脳会談が、成果ゼロだった前回2019年の会議よりも具体的な結果をもたらすかどうかは不透明だ」

だが前回の会談から4年がたっているだけに、金氏の珍しい外遊を過小評価するべきではないと、専門家たちは言う。今回は4年ぶりの外遊で、北朝鮮もまた、新型コロナウイルスのパンデミック後、世界に対して再び門戸を開き始めているのだ。

プーチン氏も、金氏をしっかり豪勢にもてなすよう注意を払っていたと、専門家たちは指摘する。

この会談はたとえば、プーチン氏肝いりの東方経済フォーラムの一部として、極東ウラジオストクで行われても良かったはずだ。同フォーラムにはかつて、中国や韓国の首脳も出席していた。

だがプーチン氏は全く別の場所を選び、金氏を目立つ舞台の中心に招いた。赤いカーペットに晩さん会。マーチングバンドをそろえ、自らもその場所までおもむいた。

「金氏への敬意を示したことになる。自分は尊重されていると、金氏に感じてもらうためのふるまいだったのだろう」と、テルティツキー氏は話す。

だが同時に、これは西側へのメッセージでもあるという。その詳細は不明でも、ロシアと北朝鮮の二国間関係について、西側が今まで以上に気にして、重視するようにさせるための。

しかしこの関係においては、両国が実際に何をするか、そこを中止するのが、きわめて重要だと、テルティツキー氏は言う。

「金氏もプーチン氏も欺くことに長けている。そして今もまた、二人の言葉よりも、その具体的な行動を精査することが不可欠だ」

(英語記事 Kim and Putin go public – but is it all a show?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66817151


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