2023年10月4日(水)

BBC News

2023年9月15日

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アメリカの検察当局はこのほど、オーストリアの画家エゴン・シーレの作品を、米国内の複数の美術館から押収した。第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人などの大虐殺(ホロコースト)の際に盗まれたものだという主張を受けた措置。

ニューヨークのマンハッタン地区検事事務所は今回、シカゴとピッツバーグ、オハイオの美術館が所有していた計3点を押収した。

これらの作品は、ユダヤ系オーストリア人のフリッツ・グリュンバウム氏の子孫が探しているものだという。美術収集家兼キャバレー・パフォーマーだったグリュンバウム氏は、ナチズムを声高に批判していた。

美術館側は、美術品の法的所有権を確信しているとしている。

1941年にダッハウ強制収容所で死亡したグリュンバウム氏は、シーレの作品を81点所有していた。

先行する裁判の関係書類によると、これらの作品は同氏の400点以上に上る美術品コレクションの一部だったという。

書類によると、グリュンバウム氏は1938年ごろ、強制収容所にいた際に、妻への委任状に署名するようナチスに強制された。その後、同氏所有の美術品は略奪され、散逸したという。

シカゴ美術館はBBCの取材に対し、マンハッタン地区検事事務所がシーレの「ロシアの捕虜」を押収したことを認めた。同作品は125万ドル(約1億8500万円)の価値があるという。

同美術館の広報担当者は、「我々はこの作品を合法的に入手し、法的所有権を持っていることを確信している」と述べた。「この作品は連邦裁判所で民事訴訟の対象となっており、適切に争われており、私たちも法的所有権を主張している」

絵画は「その場で」押収された。つまり、なお同美術館に保管されている。しかしBBCが確認した令状は、60日後にニューヨークに移動できるとしている。

このほか、ピッツバーグのカーネギー美術館からは、「男の肖像画」というデッサン画が押収された。令状によると、同作品の価値は約100万ドル。

カーネギー美術館の広報担当者は、「我々は倫理的、法的、専門的な要件や規範に従って行動することで、芸術と科学の資源を保護するという使命に深くコミットしている」と述べた。

その上で、「関係当局の調べには当然、全面的に協力する」としている。

オハイオ州オーバリン大学のアレン記念美術館が所蔵し、150万ドルの価値がある「黒髪の少女」も押収された。

同美術館の広報担当者は、「オーバリン大学は1958年にエゴン・シーレの『黒髪の少女』を合法的に入手し、合法的に所有していると確信している」と述べた。

また、「マンハッタン地方検事の犯罪捜査に協力している」と説明。一方で、「オーバリン大学がこの件に関するマンハッタン検事の犯罪捜査の対象ではないと信じている。捜索令状により、美術品は正式に押収され、大学は令状を発行したニューヨークの裁判所に代わり、それを保管している」とした。

ニューヨーク州最高裁判所は令状で、これらの美術品が盗品であると「信じるに足る合理的な理由がある」としている。

マンハッタン地区検事事務所は、コメントを拒否した。

グリュンバウム氏の子孫らは長年、シーレ作品の行方を追っている。

このうち、ティモシー・リーフ氏やダヴィド・フランケル氏などは、シーレ作品の奪還に成功した。

2人は2015年、ロンドンを拠点とする美術商リチャード・ナギー氏を訴え、数年後に「黒いピナフォアの女」と「顔を隠す女」を取り戻した。

ナギー氏は判決を不服として控訴したが、ニューヨーク控訴裁判所は一審の判断を支持した。

(英語記事 Egon Schiele art seized in US over Holocaust claim

提供元:https://www.bbc.com/japanese/66817153


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