2023年10月4日(水)

BBC News

2023年9月16日

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北アフリカのリビア東部で発生した洪水で、死亡した人の多くが自宅にとどまるよう指示されていたとの疑惑が浮上している。同地域を掌握する勢力は15日、これを否定した。

地中海に面するデルナでは、10日からの大雨で二つのダムが決壊したほか、四つの橋が破壊され、街の大半が浸水した。

リビアは対立する二つの政府によって国が分裂状態にあり、救助活動を複雑にしているとされている。デルナのある東部地域を支配する「東部政府」は、国際的にほとんど承認されていない。

その東部政府のオスマン・アブドゥル・ジャリル報道官は、同勢力の兵士はデルナ市の住民に避難するよう警告していたと、BBCに語った。

住民に避難をしないよう呼びかけた事実はないとしつつ、実際の危険性が誇張されていると感じた人はいるかもしれないと、報道官は認めた。

こうした中、デルナにはまだ援助隊は到着していないと、同市で取材するBBCのチームは報告している。


活動拠点となっているデルナ中心部には救助・救急隊が入り、鑑識チームが遺体の身元確認を行っている。一方で、主要な国際援助機関の姿はほとんど見られない。

リビアでの援助活動の調整は「悪夢」だと語る、援助団体の広報担当者もいる。

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)のトマッソ・デッラ・ロンガ氏は、「1週間前(洪水が発生する前)の時点で、リビアの状況はすでに複雑だった」と述べた。

洪水で道路や通信システムなどの重要なインフラが破壊され、状況はさらに複雑なものになった。

避難命令に疑問の声

決壊した二つのダムが、十分に保守管理されていなかったとの疑惑が広がっている。洪水がなぜこれほど壊滅的な被害をもたらしたのか、緊急の調査の実施を求める声が強まっている。

また、住民が自宅からの避難を指示されたタイミングについても、矛盾した報告があがっている。住民たちは、自宅にとどまるべきか離れるべきなのかについて、対立する二つの政府から矛盾するメッセージを受け取っていたと、BBCに語った。

リビアの学者で、タギエール党を率いるグマ・エル・ガマティ党首は14日、洪水が発生した地域の人々は避難すべきだったのに、「そうするどころか、家の中にとどまり、外に出ないよう指示されていた」と述べた。

しかし、デルナのアブドゥルメナム・アル・ガイティ市長はドバイのニュースチャンネル「アル・ハダス」に対し、「災害発生の3、4日前に個人的に避難を命じていた」と語った。BBCは市長の主張が事実かどうか確認できていない。

生存者たちは、天候が悪化するにつれて、警察や軍が家を離れて高台に避難するよう呼びかけていたと、BBCに語った。

ただ、住民の多くはその脅威を真剣に受け止めなかったようだ。

東部政府のジャリル報道官は、BBC番組「ニューズアワー」に対し、「多くの人は避難したが、残念ながら時には、『大げさに言っている、そんなことないかもしれないのに』と言う人もいた」と述べた。

当局者が10日夜にリビアのテレビ番組で、悪天候を理由に自宅にとどまるよう命じたという指摘も出ているが、ジャリル氏はこれを否定した。

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実際の被害規模は

被害の規模をめぐっては、さまざまな見方が出ている。約6000人から最大1万1000人が死亡した可能性があるとされる。数千人が行方不明になっている。デルナの市長は2万人が死亡した可能性があるとしている。

一部の遺体は海に流された後、デルナから100キロ以上離れた海岸に流れ着いたことが、BBCの取材で分かっている。

国連人道問題調整事務所(UNOCHA)のイェンス・レルケ報道官はBBCに対し、がれきの下にはまだ生存者と遺体が残されており、実際の犠牲者数を把握するにはまだ時間がかかるだろうと述べた。

「私たちは二次災害を起こさないように活動している。シェルターや清潔な水、食料を提供し、健康危機を防ぐことが重要だ」

国連の報告によると、これまでに1000人以上が集団で埋葬された。

世界保健機関(WHO)は、拙速な集団埋葬は、悲嘆に暮れる遺族の精神的苦痛を長引かせる可能性があるとして、災害対応にあたる人々にこれをやめるよう求めている。

産油国のリビアは、長年の最高指導者だったムアンマル・カダフィ大佐が2011年に失脚・殺害されて以降、政情の混乱が続いている。現在は、国際的に承認されている暫定政府が首都トリポリと西部を支配し、東部は別勢力が「東部政府」として支配している。

下の衛星写真では、中央の白い丸を左右に動かすことで、洪水に見舞われる以前の7月1日と、被災後の9月13日のデルナ市中心部の住宅地を比較できる。

今回の暴風雨の深刻さと、地球の温暖化を結びつけるのはまだ時期尚早だが、気候変動によって世界で最も勢力の強い嵐の発生頻度が増加していると考えられている。

英レディング大学の気候リスクとレジリエンスの専門家、リズ・スティーヴンス教授は、気候変動がこのような暴風雨に伴う降雨量を急増させていると、科学者たちは確信していると説明した。

国連のマーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)兼緊急援助調整官は15日、今回の災害は気候変動とそれがもたらす課題を「思い切り念押しする」ものだったと述べた。

(英語記事 Libyan official rejects blame for flood disaster

提供元:https://www.bbc.com/japanese/66829441


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