
テッサ・ウォン、BBCニュース
中国の王毅外相は18日、モスクワを訪れ、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相と会談した。ロシア国営メディアによると、両外相は会談後、ウクライナでの戦争を終わらせる取り組みは、ロシアの利益を考慮する必要があると述べた。
ロシアのメディアは、王外相のロシア訪問を通じて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による中国訪問の調整が行われると伝えた。
これに先立ち中国外務省は同日、王毅外相が「戦略的安全保障協議」のため18日から4日間の日程でロシアを訪問していると発表。
ロシア国営タス通信は同国政府関係者の話として、王外相とラヴロフ外相、ウクライナでの戦争や北大西洋条約機構(NATO)軍の拡大、アジア・太平洋地域のインフラ、国連など国際協議の場での協力などを話し合うと伝えていた。
今月初めにプーチン氏は、中国の習近平国家主席と会う予定だと言及したが、具体的な時期には触れなかった。
今年3月に国際刑事裁判所がウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、プーチン大統領らに逮捕状を出して以来、プーチン氏は国外に出ていないとされている。昨年12月にベラルーシとキルギスタンを訪れたのが、プーチン氏の最後の外国訪問とされる。
ロシアと近い関係にある中国政府は、間接的にロシアの対ウクライナ戦争を支援していると西側から批判されている。中国はそのような支援を否定している。
シンクタンク、アジア・ソサイエティ政策研究所のローリー・ダニエルズ氏は、中国は欧州との関係改善のためにもウクライナでの戦争の終わりを望んでいるものの、ロシアに対しても同情的なため、「(戦争終結の)結果と、戦争の責任追及を切り離したい」のだと指摘する。
「プーチンの中国招待はロシアに支持を表明する方法だが、それはロシアを交渉のテーブルに着かせるための正当な取り組みという文脈に位置付ける必要がある。中国が欧州諸国との関係を悪化させないためにも」と、ダニエルズ氏は言う。
王外相の訪ロに先立ち、プーチン大統領は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記を歓迎。ロシアと北朝鮮は、「軍事協力」のほか、北朝鮮の人工衛星打ち上げ事業への協力などについて両首脳が話し合ったと発表した。
長引くウクライナ侵攻で武器や砲弾が不足しているロシアに、北朝鮮が武器を提供する取引をしたのだろうと、アメリカは指摘している。
プーチン大統領と金総書記の会談について聞かれ、中国外務省は、「両国の間のことだ」とのみ答え、コメントを避けた。
ただし、中国がロシアと北朝鮮の双方と緊密な関係を維持していることから、金総書記のロシア訪問について中国はあらかじめ承知、場合によっては承認していただろうと、一部の専門家は話す。
中国と北朝鮮の関係は、政治思想や西側への不信という共通点を超えている。中国はかねて貿易を通じて北朝鮮の経済的生命線であり続けてきた。それと同様、昨年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始して以降は、中国はロシアの原油や天然ガスを買い支えてきたため、今や中国はロシアの経済的生命線にもなりつつある。
「ロシアと北朝鮮の間で何が起きているにせよ、中国のあずかり知らないところで起きているはずがない」、「中国政府の了解なくして、ロシアと北朝鮮が軍事的に協力するなど、ありえないと思う」と、豪ニューサウスウェールズ大学で中ロ関係を専門とするアレクサンダー・コロレフ博士は言う。
ウクライナ侵攻で自分たちに代わってロシアを支援するのに、北朝鮮は便利な代理役だとさえ、中国が考えている可能性もあると、コロレフ博士は話す。
「北朝鮮に、ロシアと軍事協力してもいいよと青信号を出すだけで、中国は自分たちの評価をほとんど落とすことなく、ロシアを助けることができる。自分たちに何の関係もない北朝鮮のならずもの政府がやることだと、中国は北朝鮮のせいにできるだろう。もしそうなら、頭のいいやり方だ」
前日には米大統領補佐官と会談
中国の王外相は17日には、地中海のマルタで、アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談したばかり。両政府の発表によると、両氏は二国間関係について協議したほか、地域の安全保障とウクライナに対する戦争についても話し合った。
北朝鮮によるロシアへの協力をやめさせるため、中国から北朝鮮に圧力をかけるよう働きかけることが、マルタ会談のアメリカ側の狙いだったかもしれないが、中国がそれに応じる可能性は低いと、コロレフ博士は言う。
「アメリカ流に応じるつもりが中国にあるなら」、中国は「1年以上前から」ロシアとウクライナの停戦に向けて動くことができたはずだが、そうしなかったと、博士は指摘する。
ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、中国は経済的に、さらには重要技術提供の形で、ロシアを支援してきたと、アメリカは非難している。
今年7月に公表されたアメリカ国家情報長官の報告書によると、「西側の制裁や輸出規制の打撃を緩和するため、中国はロシアに対して、さまざな経済支援の仕組みを推進している」のだという。
同報告書は、中国はロシア産エネルギーの購入を増やし、ロシアとの間で人民元建ての取引を増やしたほか、ウクライナでの使用を念頭にドローンなど軍民両用技術を「おそらく」提供していると指摘した。
中国はこうした指摘を一貫して否定し、ロシアのウクライナ侵攻について自分たちは客観的な立場を維持していると主張してきた。
中国は今年2月に独自のウクライナ和平案を提案。王外相はそれに先駆け欧州各国を歴訪したのち、モスクワを訪れ、プーチン大統領と会談している。
追加取材:エフゲニー・プドフキン(BBCモニタリング)
(英語記事 China sends top envoy Wang Yi to Russia for security talks)