
不法滞在者の強制送還を発表したパキスタンから出国するため、多くのアフガニスタン人が国境に押し寄せている。2021年に武装勢力タリバンがアフガニスタンで実権を握って以来、多数の同国民がパキスタンに逃れている。
パキスタン政府は10月初め、不法入国者の強制送還を実施すると発表。11月1日午前0時までに出国しなかった場合、拘束され、強制送還されるとしている。
期限はすでに過ぎているが、現地メディアによると、出国のための移動は同日の間であれば続けることが許可されているという。
パキスタンは、国内に170万人の不法滞在者がいるとしている。その大半がアフガニスタン出身だ。
若い女性サディアさんは、タリバン政権が自らの厳格なイスラム法に基づいて女子教育を停止したのを受け、2年前にパキスタン北西部ペシャワールにやってきた。
「私はパキスタンで学んでいるし、ここで学業を続けたい。強制送還になれば、アフガニスタンでは勉強を続けられない。両親やきょうだいも将来を不安がっている」と、サディアさんはBBCウルドゥー語に語った。
パキスタンとアフガニスタンの間では、国境をまたいでの攻撃が増加しており、緊張が高まっている。パキスタン政府は、アフガニスタンに拠点を置く武装組織を非難している。
一方のタリバン政権は、パキスタンを標的としている武装組織に居場所を与えていることを否定。同国に不法滞在しているアフガニスタン人の強制送還は「受け入れられない」としている。
期限前日の10月31日には、衣服や家具を満載したトラックに乗った大勢の難民が、アフガニスタンとの国境に殺到した。
パキスタンによると30日までにアフガニスタン人20万人が自国に戻った。31日には2万人が国境へと移動したと報じられている。
国連の報告によると、アフガニスタンに戻った10人のうち8人が、パキスタンにとどまって逮捕されることを恐れていると述べたという。
難民の多くは、タリバンの復権を受けてアフガニスタンから逃げた。こうした人々は、自分たちの夢と生活が再びつぶされることを恐れている。
しかし、ここ数年、経済危機に苦しんでいるパキスタンも、こらえ続けることはできなかった。通貨ルピーは今年7月、対ドルで1998年10月以来の大幅下落となった。
国連の人権当局はパキスタン政府に対し、「人権の大惨事」を防ぐために強制送還を避けるよう訴えている。
「強制送還に直面する人々の多くが、アフガニスタンに戻された場合、恣意(しい)的な逮捕や拘束、拷問、残酷な扱いなど、人権侵害の重大なリスクにさらされるとみられる」と、ラヴィナ・シャムダサニ報道官は指摘した。
女性の権利を抑圧
タリバン政権は、女性に就労や教育の権利を与えるという以前の約束を破っており、アフガニスタンにおける女性の権利は世界で最も抑圧されている。
同国では現在、女子は小学校までしか就学できない。女性は公園やジム、プールなどを利用できない。美容室はすべて閉鎖され、女性は頭からかかとまでを覆う衣服を着るよう義務づけられている。
タリバン当局はまた、音楽は「道徳の腐敗を招く」として、楽器を燃やしている。
歌手のソハリさんは、2021年8月にタリバンが実権を握った当日、「わずかな衣服」だけを持って、アフガニスタンの首都カブールから逃げてきた。音楽一家であるソハリさんの家族は、ペシャワールで生計を立てようとしていた。
「アフガニスタンではミュージシャンとして暮らせない」とソハリさんは話した。
「私たちは危機にひんしている。他に選択肢もないし、タリバンはアフガニスタンで音楽を受け入れない。他に生計の立てようがない」
タリバン政権は、アフガニスタンに戻ってきた国民に一時的な宿泊施設や医療サービスなどを供給するための委員会を設置したと述べている。
ザビフラフ・ムジャヒド報道官はソーシャルメディアで、「我々は人々が何の心配もなく母国に戻り、尊厳ある生活を送ることを保証する」と述べた。
パキスタンは数十年にわたる戦争を通して、数多くのアフガニスタン難民を受け入れてきた。国連によると、約130万人が難民として登録されており、それとは別に88万人が在留資格を得ているという。
しかしパキスタンのサルフラズ・ブグティ内相は10月3日、強制送還を発表した際、これとは別に170万人が「不法」に国内に滞在していると述べた。
国連の推計では、200万人以上のアフガニスタン人が正式な書類のない状態でパキスタンに滞在している。そのうち60万人が、タリバンの復権以降に同国に入国したという。
パキスタンとアフガニスタンの国境ではこのところ、反政府武装勢力「パキスタンのタリバン運動」(TTP)や、武装組織「イスラム国(IS)」などによる暴力が急増している。
ブグティ内相は、パキスタンで今年発生した自爆攻撃「24件中14件」が、アフガニスタン人によるものだと述べた。
「我々がアフガニスタン国内から攻撃され、アフガニスタン国民がその攻撃に関与しているという意見に異論はない。我々には証拠がある」と、同内相は語った。
ブグティ氏は、違法難民は国外に退去しない場合、強制送還されるとしている。また、この施策は特定の国籍をもつ人を狙ったものではないと強調した一方で、影響を受けるのは主にアフガニスタン人だと認めている。
パキスタンでは今年9月に2件の自爆攻撃があり、少なくとも57人が殺害された。犯行声明は出されておらず、TTPは関与を否定している。しかしブグティ内相は、自爆した1人がアフガニスタン人だと特定されたと述べている。