
ドイツのロベルト・ハーベック副首相が、増える反ユダヤ主義に断固として対応すると宣言した動画が、国内で大きな反響を呼んでいる。
動画の中でハーベック氏は、イスラム原理主義者や極右、そして「一部の政治左派」による反ユダヤ主義を批判。4日までに1000万回以上再生されている。
10月7日にパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエル南部を襲撃して以降、ドイツでは反ユダヤ主義や反イスラエル的な事件が増加している。
ハマスはこの襲撃でイスラエル人1400人を殺害し、240人以上を人質として連れ去った。イスラエルはその後、報復措置としてガザ地区への空爆や地上からの攻撃を開始。ハマスが運営する保健省は、これまでに9000人以上が殺されたと発表している。
気持ちのこもった10分近い動画でハーベック氏は、ホロコーストから80年近くたった今になって、ユダヤ人コミュニティ―は特定の場所に近づかないようにしなければならなくなったと語った。
ドイツの一部の政治家からは、まるで国家元首による所信表明演説のようだという称賛の声もあがっている。政府で反ユダヤ主義対策に取り組むフェリックス・クライン氏は、ユダヤ人の安全のために立ち上がるという責任をドイツにいる全員が担っており、副首相はそれについて明確かつ慎重に訴えたと評価した。
ドイツでは、他国の国旗を燃やすことは違法。ハベック氏は、イスラエルの国旗を燃やしたり、ハマスの行動を称賛したりする行為は犯罪になるとあらためて示唆した。
そうした行動に出た「ドイツ人は、全員が法廷で責任を問われることになる」と、副首相は強調。同様の行動をとった「ドイツ人でない者は、在留資格を失うリスクもある。まだ滞在資格のない者は、これが強制送還の根拠となる」とも述べた。
ハーベック氏はまた、一部のムスリム(イスラム教徒)団体が、ハマスや反ユダヤ主義から距離を置くことを「ためらいすぎている」と述べた。また、左派の若い活動家が「反植民地主義」を語ることへの懸念を語った。
しかし、副首相の発言への批判も出ている。元議員の1人は、欧州に反ユダヤ主義を持ち込んだのはムスリムの移民や難民だと副首相がほのめかしたとして、嫌悪感を示した。
ドイツのムスリム中央評議会代表、アイマン・マジエク氏は、反ユダヤ主義を罪として非難した上で、ドイツにいるムスリム500万人をひとくくりにすべきではないと強調した。また、イスラエルによるガザ地区空爆を戦争犯罪として非難した。
10月7日にハマスの武装集団がイスラエル人居住区を奇襲攻撃したとき、ドイツでは一部の活動家がベルリンのノイケルン地区の路上で、通行人に菓子を配って祝った。これに、ドイツの大半の人は激怒した。
ドイツのナンシー・フェーザー内相は2日、ハマスに関係する活動を全面禁止すると発表。菓子を配っていた団体「サミドゥン」もこれに含まれている。
フェーザー内相は、サミドゥンは、各国の囚人釈放のための「連帯組織」として活動しているように見せかけて、イスラエルとユダヤ人に対するプロパガンダを広めていたと指摘。「テロ組織ハマスはイスラエル国家の破壊という目標を追求している」と述べた。
ハマスは英米のほか欧州連合(EU)でテロ組織に認定され、活動が禁止されているため、ドイツではすでに禁止されている。フェーザー氏は、その活動を違法化することで、当局は禁止範囲を広げることができ、支持者集会への介入も容易になると述べた。
情報当局によると、ドイツ国内にはハマス構成員が450人おり、その多くはドイツ国籍だという。
ハマスの襲撃後、ドイツでの反ユダヤ主義的な事件は、2022年の同時期と比べて240%増加した。
ベルリンのユダヤ人コミュニティーセンターに手製のガソリン爆弾が投げ込まれたほか、ユダヤ人が所有する住宅に反ユダヤ主義的なスローガンが落書きされたりしている。
ドイツのユダヤ人中央評議会のトップ、ヨゼフ・シュスター氏は、内相が発表した禁止措置歓迎。「他のヘイト組織」に対しても対策を取るよう訴えた。
隣国オーストリアでも、反ユダヤ主義的な事件が増加している。
10月31日には、ウィーン中央霊園のユダヤ教区画が襲撃された。壁にかぎ十字が落書きされ、ホールで火の手があがった。
出火の原因は不明だが、ユダヤ教コミュニティーを主導するオスカル・ドイチュ氏はソーシャルメディアに、この火事で価値のある古い書物と聖櫃(せいひつ)が破壊されたと述べた。
フランスでは、パリでは、ユダヤ人を象徴する「ダヴィデの星」の落書きが相次いで見つかっており、警察がモルドヴァ人のカップルを拘束した。
パリ14区では10月30日夜、ユダヤ人コミュニティーの建物の壁に「ダビデの星」が数十個、スプレーで落書きされた。このカップルはそれ以前の27日に逮捕されており、第三者の代わりに落書きを行ったと述べていた。2人は国外追放となっている。
検察当局は、この落書きがユダヤ人を中傷する目的で描かれたのか不透明だとしている。一方で、別のカップルが別件について捜索されているという未確認情報もある。