
ヤロスラフ・ルキフ、BBCニュース
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4日、イスラエル・ガザ戦争によって世界の注目がウクライナでの戦争から離れていると認めた。キーウを訪れた欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長との共同記者会見で、発言した。
ゼレンスキー氏は記者会見で、「中東での戦争のため、注目が(ウクライナから)外れているのは明らかだ」と述べた。そして、世界がウクライナでの戦争に注目しなくなることは、ロシアの「目標の一つ」だと指摘した。
ウクライナ軍がロシア軍に対して6月から続けている南部での反転攻勢は、今のところ目立った成果につながっていない。
このためウクライナを支援する西側諸国の間では、戦争疲れの懸念が高まっている。一部の西側政府では、ウクライナに高性能の兵器や資金を提供し続けることへの抵抗感が募っているとも言われる。
「手詰まりではない」=ゼレンスキー氏
ゼレンスキー大統領は記者会見で、ロシアとの戦争が膠着状態に達したという見方を否定した。ロシアは世界の注目が「弱まる」ことを期待しているが、「すべては今も我々の力の及ぶところにある」と強調した。
2022年2月にウクライナ全面侵攻を開始したロシアとの戦争について、ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は11月1日付の英誌エコノミストに対して、ウクライナとロシアの両軍が前線で行き詰っており、「手詰まり」の状態に達したと発言。「おそらく深く美しい前線突破はないだろう」とも、司令官は述べていた。
ザルジニー総司令官は、ロシアとの戦争が今ではお互いの位置を維持するための静的な段階に移行しつつあり、これによってロシアは「軍事力再建の猶予を得る」ことになるとも述べていた。
これについて質問されたゼレンスキー大統領は、「誰もがくたびれているし、いろいろな意見がある」と答え、さらに「しかし、手詰まり状態ではない」と言明した。
ロシアが「制空権を握っている」とゼレンスキー氏は認め、状況を変えるにはウクライナはアメリカ製のF16戦闘機や最先端の防空システムを喫緊に必要としていると強調した。
さらに、昨年にもウクライナでの戦争について「手詰まり」「膠着」といった話がしきりに飛び交ったものの、ウクライナ軍が北東部ハルキウ州や南部ヘルソン州で大きな戦果を挙げたのはその後のことだったと、ゼレンスキー氏は指摘した。
ロシアと停戦交渉に臨むよう圧力が高まっているとの報道についても、ゼレンスキー氏は否定した。
「欧州連合にもアメリカにも、どのパートナー諸国にも、ロシアと交渉し、何かをロシアに与えるよう、いま我々に圧力をかけている人は誰もいない。そんなことにはならない」
「全目標の実現が必要」=ロシア政府
これに先立ちロシア政府は2日の時点で、戦場が「手詰まり」状態にあるというザルジニー総司令官の評価に反論していた。
クレムリン(ロシア大統領府)のドミトリー・ペスコフ報道官は、「当初定められたすべての(戦争)目標は実現されなくてはならない」として、「キエフ(キーウのロシア語読み)の政権が戦場で勝てるなど、そのような可能性に言及することさえ、ばかげている」とも述べた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこれまでに、ウクライナの反転攻勢は失敗したと繰り返している。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は今週、北大西洋条約機構(NATO)同盟諸国から新しい兵器を受け取っているにもかかわらず、ウクライナは戦争に負けつつあると発言している。
前線の状況は
ウクライナのルステム・ウメロフ国防相は4日、南部ザポリッジャ州で3日に第128機械化旅団「ザカルパッチャ」の兵士が複数、死亡したと認め、この「悲劇」について全面的な調査を行うと述べた。
ウクライナ軍によると、ロシアのミサイル攻撃で犠牲が出たという。
ウクライナ・メディアやロシア軍事ブロガーによると、前線に近い村で行われていた勲章授与式でウクライナ兵20人以上が死亡したという。
これとは別にウクライナ軍は4日、クリミアの造船所攻撃に成功し、「開運・港湾インフラ」を破壊したと発表した。クリミア半島は2014年にロシアが併合している。
これについてロシア国営メディアはロシア国防省の発表として、クリミア東部ケルチの造船所にウクライナが撃ち込んだミサイル15発のうち13発を迎撃したものの、ロシア艦1隻が被害を受けたと伝えた。
イギリス国防省は4日の戦況分析で、ロシアが「東部ドンバス地域の町アウディイウカを襲撃する中で、おそらく装甲車約200台を失った」と指摘した。
「2023年10月初めから、この町の周辺でロシア兵数千人が死傷している可能性が高い」ともしている。
「ロシア軍指導部は引き続き、微小な領土制圧と引き換えに大量の人員を失ってもかまわないという姿勢を示し続けている」と、英国防省は述べている。
ロシア軍はこのところウクライナ東部と北東部で進軍しようとしているものの、ウクライナ軍はすべて押し戻しているという。
ロシアとウクライナ双方の言い分は、第三者による客観的な検証を受けていない。
(英語記事 Ukraine war: Zelensky says Israel-Gaza conflict taking focus away from fighting)