
パレスチナ自治区ガザ地区で空爆と地上作戦を進めているイスラエル軍は5日、同地区を南北に分断したと発表した。同軍は北部にイスラム組織ハマスの本拠があるとし、住民らに南部に避難するよう通告している。同日、パレスチナ自治政府は、今回の衝突が始まって以降のガザ地区の死者が1万人近くに上っていると明らかにした。一方、中東を訪問中の米国務長官は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区とイラク・バグダッドを相次ぎ訪れ、提唱している人道的休戦の実現に向けて首脳会談に臨んだ。
イスラエル軍報道官のダニエル・ハガリ少将は記者会見で、同軍が北部ガザ市を包囲しており、部隊は海岸線まで到達したと説明。事実上、ガザ地区を「ガザ北部とガザ南部」に分断したとした。
また、「強力な攻撃と、ガザ地区北部とガザ市での地上作戦を強化していく」、「今夜、重要な攻撃が行われている」と強調。
同時に、ガザ地区北部とガザ市の住民が南部に移動するためのルートを引き続き確保していると主張した。
ガザ地区で取材するBBCのラシュディ・アブ・アルーフ記者は、5日夜の空爆が開戦以来もっとも激しかったように感じると伝えた。空爆はガザ北西部に集中し、シャティ難民キャンプ(別名ビーチ)が激しく爆撃されたという。
ガザ地区では、インターネットと電話が再びつながらなくなっている。
世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、停電と「激しい砲撃」を「非常に憂慮している」と表明。「緊急治療が必要な人が病院や救急車に連絡できない」、「すべての通信手段が直ちに復旧される必要がある」と訴えた。
インターネット監視グループ「ネットブロックス」によると、ガザ地区での停電はこの1カ月で3回目だという。
ガザ地区の死者1万人に迫る
ヨルダン川西岸地区を拠点とするパレスチナ自治政府の保健省は5日、今回の戦争のガザ地区への影響について、以下の新たな数字を発表した。
- 住宅の50%以上が破壊された
- 人口の70%近くが避難生活を強いられている
- 入院が可能な病院35カ所のうち16カ所が機能しなくなっている
- 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の建物42棟が損壊した
- 少なくとも7カ所の教会と55カ所のモスク(イスラム教礼拝所)が損壊した
ハマスが運営するガザ地区の保健当局は、先月7日からのイスラエルによる攻撃で、同地区で殺害されたパレスチナ人が9770人に上ったと発表した。うち4000人以上が子どもだという。
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イスラエルは、先月7日のハマスによる急襲で、同国の1400人が殺害され、約240人が人質に取られたとしている。また、同日以降、ガザ地区の「テロ組織に属する標的」を1万1000カ所以上攻撃し、ガザ市だけで爆弾1万発以上を投下したとしている。
イスラエル、レバノンを爆撃
イスラエルの北にあるレバノンの国営メディアによると、同国南部でイスラエル軍による車両への爆撃があり、子ども3人とその祖母が殺された。子どもは10、12、14歳だったという。
イスラエル軍のハガリ報道官は5日の記者会見で、レバノンのイスラム武装組織ヒズボラを、国境をまたいで攻撃したと明らかにした。
ハガリ氏は、レバノンの報道には直接は言及しなかった。一方で、「イスラエル軍はレバノン南部にあるヒズボラのテロリストの標的を攻撃した。これは、対戦車ミサイルによってイスラエル市民が殺害されたことへの対抗だ」と述べた。
さらに、「テロリストのインフラ、テロリスト集団、テロリスト集団が運転する車両に対して数回の追加攻撃を実施した」と説明した。
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空爆はイスラエルに向けても実施されたもよう。
イスラエル軍によると、ガザ地区からロケット弾が発射され、イスラエル中部全域で空襲警報のサイレンが鳴ったという。
同軍は、「何百万人ものイスラエル国民がシェルターに逃げ込んでいる」とX(旧ツイッター)に投稿した。
同軍は最近、10月7日以降で8000発のロケット弾がイスラエルに向けて発射されたと発表している。
米国務長官が活発外交
中東を訪問中のアメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は5日、ヨルダン川西岸地区のラマラを訪れ、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長と会談した。
米国務省によると、両者はヨルダン川西岸の「平穏と安定を取り戻す」ための努力について話し合った。
ブリンケン氏は、パレスチナ人が「強制的に避難させられてはならない」と強調したという。また、「パレスチナ人の国家樹立という正当な願望の実現」に向け、アメリカが取り組んで行くことも表明したという。
アッバス氏は中東諸国の首脳らと同様、「即時停戦」を要求した。
ブリンケン氏は同日夜、事前予告なしでイラクの首都バグダッドに移動。ムハンマド・シーア・アル・スダニ首相と会談した。
その後、同氏はさらにトルコへと移動した。ハーカン・フィダン外相と会談の予定。
ブリンケン氏に同行取材しているBBCのアンソニー・ザーカー北米特派員は、ブリンケン氏の今回の中東訪問について、各地で課題を突き付けられ、状況の改善に向けた進展はあまりないと悲観させるものとなっていると解説。妥協点が存在しない現在において、それを見いだそうとしていることが、同氏が現在直面する主要な難題だとした。
(英語記事 LIVE : US pushes for pause in fighting as Israel says it has cut Gaza in two/Few reasons for optimism after US diplomatic dash)