
イスラエル軍の攻撃が続くパレスチナ自治区ガザ地区では8日も、北部のガザ市から多くの住民が退避した。同軍はガザ地区の南北をつなぐ道路を、避難のために一時開放。約5万人が退避したとしている。
イスラエル軍は7日、ガザ市を包囲し、ガザ地区を南北に分断したと発表。8日、同地区を実効支配するイスラム組織ハマスについて、北部の「コントロールを失った」とした。
一方、ハマスが運営するガザ地区の当局によると、8日も北部と南部でイスラエル軍による空爆が続いた。この日だけで新たに200人が殺害され、10月7日以降の死者は1万569人になったという。
ハマスは10月7日にイスラエルを襲撃し、1400人以上を殺害、240人以上を人質として連れ去った。イスラエルはそれ以降、ガザ地区に空爆を行っており、地上での作戦も進めている。
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イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官は8日、パレスチナ人5万人がガザ市から退避したと発表した。
同軍はこの日、ガザ市からガザ地区南部へ続く主要道路「サラ・エル・ディン道路」を5時間開放した。7日よりも1時間長かったという。
ハガリ氏は、停戦はしておらず、人々が南へ移動できるようにするための「人道的一時停止」に過ぎないと述べた。イスラエル軍は現在、アメリカ政府高官が数日前から提唱しているような限定的な一時停止を実施しているとみられている。米政府高官は、これはガザ住民への援助の提供を容易にし、人質を解放する余地を与えるためのものだと述べている。
ハガリ氏はまた、ハマスは民間人の背後に隠れていると非難。ガザ市民らが退避しているのは、「ハマスがガザ地区北部の支配を失い、南部の方が安全で治安が良く、水も食料も薬も手に入ることを理解しているからだ」と述べた。
ガザ市や、周辺にあるシャティ難民キャンプ、ジャバリア難民キャンプなどに残っている民間人の数は定かではない。米当局は数日前、多ければ30万~40万人がとどまっているとみているとしていた。
イスラエル軍は8日、ガザ地区にある少なくとも130カ所のトンネル坑道を破壊したと発表した。
イスラエル軍はメッセージアプリ「テレグラム」で、「ガザで戦っている戦闘エンジニアたちは、敵の武器を破壊し、トンネルの坑道を発見し、暴露し、爆発させている」と述べた。
別の投稿では、北東部のベイト・ハヌーン地区の学校近くのトンネルを兵士が「破壊した」と述べた。
BBCのジェレミー・ボウエン国際編集長とフレッド・スコット・カメラマンはこの日、イスラエル軍と共にガザ地区を取材。イスラエル軍は場所の特定を防ぐため、映像を検閲する条件でこの取材を許可した。
ボウエン編集長は、「ひどく損害を受けたり破壊されたりしていない建物はなかった」、「1カ月で、ガザ地区は荒れ地になった」と伝えた。
編集長らは家族向けの集合住宅も取材。イスラエル軍から、同じ場所に武器製造の作業場があったと説明を受けたとした。
人質解放の協議進展か、イスラエル首相は否定
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、国連がハマスの人質の解放に向けた協議に参加していることを明らかにした。ロイター通信が伝えた。
グテーレス氏は、「人質の解放のために可能な限りのことをする義務が我々にはある」と発言。また、「我々がハマスに対して影響力を行使することはできないが、影響力を行使できる国もある」と述べた。
「エジプトは非常に積極的だ。他の国も最善を尽くしている。我々はイスラエル当局とも連絡を取り合っている」
「すべての人質が直ちに無条件で解放されることが絶対に必要だ」
こうした中、3日間の人道的一時休戦と引き換えに、12人の人質(うち半分はアメリカ人)を解放する可能性について話し合いが行われていると、情報筋がBBCに話した。
情報筋によると、協議は戦闘停止期間やガザ地区北部の状況などをめぐって紛糾しているという。
しかしAFP通信によると、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は「あらゆる方向から聞こえてくるさまざまなデマを一掃する」とし、協議が行われていることを否定した。
ネタニヤフ首相は、「ひとつ明確なことを繰り返したい。人質の解放なくして停戦はない」と述べた。
紛争当事者の合意に基づく停戦とは異なり、人道的な戦闘停止は期間も短く、目的も人道的なものに限られる。
人道的休戦の可能性をめぐっては、ネタニヤフ氏は7日、「ここで1時間、あそこで1時間といった戦術的な小休止に関しては、以前にもあった。人道的な物資の搬入や、人質の退去を可能にするために、我々は状況を確認することになるだろう」と述べていた。
イスラエルは戦後「ガザを再占領できない」=米高官
アントニー・ブリンケン米国務長官は8日、イスラエルはハマスとの戦争終結後にガザを再占領することはできないと警告した。
ブリンケン氏はまた、10月7日の攻撃が繰り返される危険があるため、ハマスがガザの支配を続けることもできないと主張した。
イスラエルのネタニヤフ首相は6日、イスラエルはガザ地区の「全面的な安全保障の責任」を無期限で負っていると発言していた。
ブリンケン氏は日本で行われた主要7カ国(G7)外相会議の記者会見で、紛争後のガザ地区について、バイデン政権の見解を説明。パレスチナ人強制移住や地区の封鎖、縮小はあってはならず、ヨルダン川西岸地区を拠点とするパレスチナ自治政府が統治すべきだと述べた。
また、「ガザ復興のための持続的な仕組みと、イスラエル人とパレスチナ人が、安全、自由、機会、尊厳を等しく享受しながら、自分たちの国家で肩を並べて暮らすための道筋が含まれていなければならない」とした。
ネタニヤフ氏の発言については7日、イスラエル政府高官がBBCに対し、「ハマスがいなくなった後のガザ地区で、テロの脅威が再び出現しないようにするためには、安全保障上の責任が最優先される」という意味だと説明している。また、イスラエルには「長い間」ガザ地区の再占領や統治をする意図はないと述べた。
G7外相らは、イスラエル・ガザ戦争について、「緊急に必要な支援、一般市民の移動及び人質の解放を促進するための(戦闘の)人道的休止及び人道回廊」を支持すると宣言した。しかし、停戦を呼びかけるまでには至らなかった。
「双方が戦争犯罪」と国連高官
国連のフォルカー・トゥルク人権高等弁務官は、イスラエルとハマス双方が戦争犯罪を犯していると非難した。
ロイター通信によると、トゥルク氏はハマスの襲撃について、「10月7日にパレスチナの武装集団が行った残虐行為は凶悪であり、戦争犯罪だ。人質を取り続けていることも」と述べた。
一方で、「イスラエルによるパレスチナ市民への集団的懲罰も、違法な市民強制避難と共に、戦争犯罪だ」とした。
トゥルク氏は現在、5日間にわたって中東各国を訪問している。8日には、ガザ地区とエジプトの境界にあるラファ検問所をエジプト側から訪れた。
国連のグテーレス事務総長も、ガザ地区の民間人の死者数を見れば、イスラエルの軍事作戦が「明らかに間違っている」ことが分かると発言した。
グテーレス氏はまた、「パレスチナの人々が人道支援を必要としている恐ろしい状況の画像」が毎日出てくることは、「世界の世論との関係において、イスラエルの助けにならない」と述べた。
一方で、ハマスが民間人を人間の盾として使っていると指摘した。
同氏によると、この紛争で国連職員92人が殺されている。
国連はまた、ヨルダン川西岸地区の状況についても懸念を示している。
マーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)によると、10月7日以降、同地区では158人が殺害され、うち45人が子供だった。また、2400人以上が負傷し、1000人超が家を失ったという。
ヨルダン川西岸地区では、入植したイスラエル人によるパレスチナ人への襲撃が増えており、国連によるとこれまでに200件以上が報告されている。
アル・シファ病院に2度目の支援物資
国連と国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、世界保健機関(WHO)と共同で、ガザ市のアル・シファ病院に緊急医療物資と医薬品を積んだトラックを送り込んだと発表した。ハマスとイスラエルの紛争が激化して以来、同病院に重要な援助物資が届いたのは2度目となる。
しかしUNRWAとWHOは、「ガザ地区の膨大なニーズに応えるには、物資の量は到底足りない」としている。
両機関は声明で、アル・シファ病院の医療状況は「悲惨」だと指摘。ガザ地区の人道支援機関に燃料を届けるよう再度要請した。
「燃料がなければ、病院や、海水淡水化プラントやパン屋などの重要な施設は操業できず、その結果、より多くの人々が間違いなく命を落とすだろう」
アル・シファ病院には、ガザ市の破壊で家を追われた人々が避難している。その多くが病院の敷地内にテントを張ったり、廊下にマットレスを敷いたりして暮らしている。
この病院で娘を亡くし、現在は病院内に避難しているラマさんは、「私たちの状況を見てください、これが私たち人生なのでしょうか?」と言う。
「食べ物もなく、電気も水もない。廊下で毛布もかけずに寝ています。とても寒い。これでは生活できません」
ファシヤ・シェビルさんは、「私は子どもたち全員を失った。さよならも言えなかった。もう話すこともできない。私たちは1カ月間、アル・シファ病院の木の下や車の間に避難しています」と語った。
イスラエル軍は、この病院の地下にハマスの司令本部があると主張している。
一方、米国務省のヴェーダント・パテル報道官によると、支援物資の玄関口となっているラファ検問所が8日、特定できない「安全上の状況 」によって閉鎖された。
ラファ検問所は、10月7日以降に機能している唯一のガザの出入口。援助物資を運ぶ数百台のトラックが出入りしているほか、負傷者や外国人パスポート保持者の出国を許可するために断続的に開放されてきた。
パテル氏は、アメリカはエジプトとイスラエルと共に、再開に向けて動いているとしている。
(英語記事 Live Page/US warns Israel against reoccupying Gaza after war)