2023年11月28日(火)

BBC News

2023年11月9日

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オーラ・ゲリン、BBCニュース(ベイルート)

レバノンに拠点があり、イランが支援する強力な武装勢力ヒズボラの副指導者シェイク・ナイム・カッセム氏が8日、BBCのインタビューに応じた。パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルによる民間人の殺害は、中東での広範な紛争につながる危険性があると述べた。

シェイク・ナイム・カッセム氏は、「非常に深刻で非常に危険な展開がこの地域で起こりうる。誰もその衝撃を止めることはできないだろう」とBBCに語った。

ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスは10月7日、イスラエルを奇襲し、1400人以上を殺害した。このうち1000人は民間人だった。以来、イスラエルの報復攻撃が続いている。

ハマスが運営するガザ地区の保健省は、イスラエルの攻撃により同地区で1万人以上が殺害されたとしている。こうした中、ヒズボラのナンバー2がレバノンの首都ベイルートでインタビューに応じた。

「危険な状況が現実味を帯びている」と、カッセム氏は述べた。「イスラエルが民間人への攻撃を強め、さらに多くの女性や子供を殺害しているからだ。この地域に真の危険をもたらすことなく、これ(戦闘)を継続し、強めることが可能だろうか? 私はそうは思わない」。

そして、いかなるエスカレーションもイスラエルの行動と関連していると主張した。「あらゆる可能性には対応策がある」。

アラビア語で「神の党」を意味するヒズボラは、多くの可能性を秘めている。

イギリスやアメリカ、アラブ連合からテロ組織に指定されているこのイスラム教シーア派武装組織は、レバノン最大の政治・軍事勢力だ。

これまでのところ、ガザ地区での戦闘に対しては、警告を増幅させつつもその行動を慎重に調整している。

5日にレバノン南部で、イスラエルの空爆によって女性1人と子供3人が殺された際、ヒズボラは今回の紛争が始まって初めて、多連装ロケットシステム「グラード」を使用。イスラエルの民間人1人を殺害した。

ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師は、レバノンで民間人が死ぬたびに、国境を越えて新たな犠牲者が出ると警告している。しかし特筆すべきは、イスラエルに対して全面戦争になりうるとは脅していないことだ。

「すべての選択肢がテーブルの上にある」と強調する一方で、ヒズボラは国境をはさんだ攻撃にとどめ、主に軍事的な標的を狙っている。戦闘員は60人以上死亡したが、それに代わる戦闘経験豊富な支持者は大勢いる。今週ベイルートで埋葬された戦闘員は、代々ヒズボラのために戦ってきた一族の出身で、戦いで命を落としたのは彼が一族で5人目だった。

BBCのインタビュー中、カッセム氏はヒズボラを防衛的な組織として見せようとした。イスラエルを破壊しようとする動きに関与し、2006年には国境を越えてイスラエルに侵入して兵士2人を拉致し、イスラエルとの戦闘を引き起こしたにもかかわらずだ。

ハマスのイスラエル攻撃を擁護

カッセム氏はイスラエルが「おぞましい方法でガザ地区への侵略を開始した」と主張した。

10月7日に最初に攻撃を仕掛けたのはハマスの方だとBBCが指摘すると、同氏はイスラエルがパレスチナ人の土地を占領したことに対する避けられない対応だと、ハマスの攻撃を擁護した。

また、多くのイスラエル市民を殺害したのはハマスではなくイスラエル軍だという根拠のない主張を繰り返した。しかし、ハマス戦闘員がかぶっていたヘルメットのカメラには、イスラエル人を何人も殺害している様子が映っていたではないか?

そう問うと、カッセム氏は話をはぐらかした。「イスラエルがガザ地区内で何をしてきたかを見てはどうだろうか。彼ら(イスラエル軍)は民間人を殺し、住宅を破壊している」。

ハマスの攻撃については、「パレスチナの抵抗勢力にとって素晴らしい成果」だとし、裏目に出たとの指摘を否定した。では、この攻撃をきっかけに始まったイスラエルの報復攻撃で殺された1万人以上の人についてはどう思っているのか?

「イスラエルによる大虐殺によってパレスチナ人はますます結集し、自分たちの土地にしがみつこうとしている」と、カッセム氏は答えた。

イスラエルとヒズボラの全面戦争は

カッセム氏はイランがヒズボラを「支援し、資金を提供している」ことは認めたが、イランから命令は受けていないと主張した。しかし複数の専門家は、主導権を握っているのはイラン政府で、全面戦争に踏み切るかどうかを決定するのもイラン政府だと指摘している。

イスラエル軍にとってヒズボラと第二戦線で戦闘するということは、大半の国よりも多くの武器を保有する敵と戦うことを意味する。推定15万発のロケット弾とミサイルを保有するヒズボラは、軍事力でハマスを大きく上回る。

ベイルートを拠点に数十年にわたりヒズボラを研究してきた防衛・安全保障コンサルタントのニコラス・ブランフォード氏によると、ヒズボラは特殊部隊、通常の戦闘員、予備部隊を含めて最大6万人の戦闘員を擁しているという。

2006年、ヒズボラはイスラエルと戦い、同国を行き詰まらせたが、レバノン側にはずっと多くの死者が出た。1000人以上が殺害され、そのほとんどが民間人だった。ヒズボラの活動拠点は、地域全体が壊滅状態となった。イスラエル側は兵士121人と民間人44人を失った。

以来、レバノンは次々と危機に見舞われている。2020年にベイルートの港で起きた壊滅的な爆発事故、経済破綻、政治体制の崩壊などだ。この国で戦争を望む人がほとんどいないのも、不思議ではない。

ヒズボラが越境してイスラエルを攻撃すれば、戦争をする余裕のないレバノン全体を戦争に引きずり込むのではないかと、多くの人が心配している。カッセム氏は臆面もなく言う。「戦争を恐れるのはどんなレバノン人にとっても当然の権利だ」と。「それが普通だ。誰も戦争は好まない。戦闘が拡大しないように侵略行為を止めるよう、イスラエル側に言えばいい」。

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ヒズボラとイスラエルとの全面戦争とまではいかなくとも、この先、さまざまな様相のエスカレーションが起きる可能性がある。しかし、もしそうなれば、至る所に壊滅的な打撃をもたらすことになると、前出のブランフォード氏は言う。

「ガザ地区で起きていることが、大したことないように見えるだろう」と、ブランフォード氏はBBCに述べた。

「イスラエルは紛争が続く間、封鎖されるだろう。国民のほとんどは防空シェルターに閉じこもらなければならなくなる」

「民間航空機の運航も海上交通も途絶えるだろう。ヒズボラの大型誘導ミサイルは、イスラエル中の軍事目標を攻撃する可能性がある」

レバノンはどうなるかといえば、イスラエルが「駐車場」にしてしまうだろうと、同氏は話した。

いまのところは、ヒズボラもイスラエルもイランも手をこまねいている。古くからの敵同士が、新たな現実を見極めようとしている。

だからといって全面戦争が起こらないとは限らない。意図的ではないにせよ、誤算でそうなる可能性はある。

これは、血にまみれた地域における危険な新章の始まりだ。10月7日以降、確実に起きると言えるのは、さらなる苦悩と死と破壊だけのようだ。

(英語記事 Hezbollah warns of regional war if Gaza bombing goes on

提供元:https://www.bbc.com/japanese/67365149


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