
パレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を続けるイスラエル軍について、アメリカの高官は9日、ガザ北部で1日4時間の戦闘休止を実施すると話した。多数の住民が残っているとされるガザ市と周辺では、病院付近でも激しい戦闘が続いているもようで、避難のための人道的な戦闘休止を求める声が高まっている。こうしたなか、同地区の武装組織は、人質2人の映像を公開した。
イスラエル軍の時限休戦については、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報担当調整官が記者団に説明した。
カービー氏は、「戦闘休止中、これらの地域で軍事行動をしないとイスラエル側から聞いている。これは今日始まる」と説明。戦闘休止は実施3時間前に発表されるとした。
アメリカのジョー・バイデン大統領は、戦闘休止を含む人道的休止を「正しい方向への一歩」だとした。また、人々が戦闘地域から離れるための二つの「人道的通路」 が設置されるとした。
イスラエル軍は同日、「ガザ住民への人道支援のための戦術的、局所的な休止」を実施するとX(旧ツイッター)で発表。時間や場所については「限定される」としただけで、具体的には明らかにしなかった。また、「停戦はない」と強調した。
こうした発表を受け、国連のステファン・デュジャリック報道官は、人道目的の戦闘休止は当事者全員の合意が必要だと指摘。「真に効果的なものにするためには」国連との調整を経て実施されるのが理想だと述べた。
人質2人の映像を公開
ガザ地区の武装組織イスラム聖戦機構は9日、イスラエル人の人質2人の映像を公開した。
一人はハンナ・カツィアさん(77)で、車椅子に座っている。もう一人は13歳の少年。ともに10月7日にイスラエルのキブツ(農業共同体)ニール・オズから、ガザ地区のイスラム組織ハマスに拉致された。
女性の背景はぼやけている。続く少年の映像は、別の場所で撮影されたとみられる。どちらも大幅に編集されている。
2人とも、よい扱いを受けていると話し、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を激しく批判している。用意された台本を読んでいるのかは不明。
映像は約3分。強要して撮影した可能性があるため、BBCは公開しない。
イスラエル軍は、ガザ地区で242人が人質になっているとしている。これまで人質4人が解放されており、別の1人をイスラエル軍が救出した。
イスラム聖戦機構は声明を出し、人道的・医療的な理由から2人を解放する用意があると主張。ただし、「適切な措置」が取られた場合に限って解放するとした。
イスラエル軍報道官のダニエル・ハガリ少将は、映像から「生命の兆候」がうかがえると述べた。
同時に、拘束している側は「心理的恐怖」を利用していると主張。人質解放の可能性についてはコメントせず、「本当の情報が入れば、家族に知らせる」とした。
双方が「戦果」を説明
イスラエル軍は9日、ガザ地区北部ジャバリアの西にある「ハマス拠点」を、10時間の戦闘の末に制圧したと発表した。
同軍によると、ここ数日はハマスの軍事拠点があるガザ市の中心部で作戦を実施しているという。「激しい戦闘」でハマスの戦闘員約50人を殺害または捕虜にしたという。
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一方、ハマスの軍事部門アル・カッサム旅団は、ガザ北部のアル・シャティ(ビーチ)難民キャンプ付近で、イスラエル軍の車両3台とブルドーザー1台を破壊したと発表。ガザ市やその北でもイスラエル軍の戦車を破壊したとした。
イスラム聖戦機構の武装部門アル・クッズ旅団も、ガザ市のでイスラエルの車両を爆破したと主張。さらに、イスラエルの都市アシュドドに向けてロケット弾を発射したとした。
ハマスが運営するガザ保健当局によると、10月7日以降にイスラエルの攻撃でガザ地区で殺害された人は1万812人に上っている。うち4412人は子どもだという。
イスラエルは、ハマスによる10月7日の奇襲攻撃によって約1400人が殺害されたとしている。
病院の近くで攻撃
イスラエル軍は9日、ガザ市北部にあるアル・シファ病院に近いハマスの「軍事地区」を急襲し、「テロリスト」50人を殺害したと発表した。
同病院はガザ市最大の医療施設で、患者約2000人と、避難者約5万人がいるとされる。院長はAP通信に、イスラエル軍が約3キロメートル先にいて、状況は「あらゆる意味で悲惨」だと話した。
ガザ地区南部ハンユニスで取材するBBCのラシュディ・アブ・アルーフ記者によると、イスラエル軍はガザ市のかなりの部分を包囲し、アル・クッズ病院がある地区へと前進している。
同病院には患者約100人と、避難者約1万4000人がいる。付近の道路が損壊しているため、患者を移動することができないという。
同病院の近くでは激しい戦闘が行われているもよう。同病院の向かいの建物から逃げ出したという男性は、「戦車4台とブルドーザーがいた。海岸から来ていた」、「近くの住宅に向かって激しく発砲していた。一斉射撃の中、私たちは裏通りから逃げた」とアブ・アルーフ記者に述べ、「奇跡的に」助かったのだと話した。
イスラエル軍は7日、「アル・クッズ病院に隣接する建物に立てこもっている多数のハマスのテロリストを発見した」と発表していた。
西岸地区でも攻撃
パレスチナ自治政府の保健省は9日、ヨルダン川西岸地区のジェニン難民キャンプがイスラエル軍の襲撃を受け、パレスチナ人14人が殺害され、少なくとも20人が負傷したと発表した。
住民によるとドローン(無人機)による空爆が2回あったという。
イスラエルはパレスチナ武装勢力への対抗だとして、ジェニン難民キャンプをたびたび襲撃している。
国連によると、ヨルダン川西岸では今年、400人以上のパレスチナ人(武装勢力と民間人の両方)がイスラエル軍や入植者によって殺害されている。これは国連が2005年に記録を取り始めて以降で最多だという。
(英語記事 LIVE Israel to begin daily four-hour military pauses in Gaza, US says/US says Israel to begin daily four-hour military pauses in Gaza/Israel sees 'sign of life' in Gaza hostage video)