
イギリスで11日、パレスチナ自治区ガザ地区での停戦を求める大規模な抗議デモが各地であり、ロンドンでは対抗勢力が警官隊と衝突するなど、暴力沙汰が相次いだ。このためリシ・スーナク首相は、極右グループや「イスラム組織ハマスに同調する」抗議者による「暴力的で、まったく容認できない」行動を非難した。
ロンドンではこの日、親パレスチナ派の約30万人(警察発表)が市内中心部を行進し、ガザ地区での停戦を求めた。イスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃を機にイスラエル軍が続けているパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃をめぐり、イギリス国内では大規模なデモが週末ごとに続いている中、この日のデモは最大規模のものとなった。
11月11日は、第1次世界大戦の休戦協定締結の日で、イギリスでは戦没者追悼の日として、各地で記念式典が行われる。スーナク首相は当初、この日にパレスチナ支援行進をするのは中止すべきだと主張。行進の実施決定後も、「挑発的で敬意に欠ける」と批判していた。
ロンドン警視庁によると、市内中心部の「セノタフ(戦没者慰霊碑)」周辺やチャイナタウンで、デモ隊同士の衝突が報告されている。
警察によると、この日の逮捕者は126人に上り、その「大多数」は、停戦を求める抗議者に対抗する、いわゆるカウンター抗議勢力だった。逮捕理由のほとんどは、「公共の秩序侵害を防ぐ」ためのものだという。
スーナク首相はソーシャルメディアに投稿した声明で、極右団体や「ハマス同調者」による暴力行為を非難し、「すべての犯罪行為は、全面的かつ速やかに、法の裁きを受ける」と書いた。
首相は「イングランド防衛同盟(EDL)や関連団体、そして『パレスチナのための全国行進』に参加したハマス同調者たちによる、暴力的でまったく容認できない行動を非難する」と書いた。
「少数派によるおぞましい行動は、平和的な意見表明を選んだ人たちを損なうものだ」とスーナク氏は続けた。
さらに、この日の衝突は「我々の軍隊」の名誉を「まったく侮辱する」もので、「警官を攻撃しセノタフに侵入するEDLのならず者たち」についても、「反ユダヤ的なスローガンを連呼し、ハマス支持のプラカードを掲げたり、ハマス支持の服装でこの日のデモに参加した者たち」についても、同様だと批判した。
ロンドン警視庁のマット・ツイスト警視監によると、親パレスチナ行進に対抗するいわゆるカウンター勢力の多くが、「衝突と暴力を求めていたようだ」と話した。
ロンドン警視庁は、ユダヤ人に対する憎悪犯罪が疑われる3人の写真をソーシャルメディアで公開している。1人は、ユダヤ人のシンボル「ダヴィデの星」とナチス・ドイツのカギ十字を組み合わせたプラカードを持つ女性。別の男性2人も、行進中の姿を撮影した写真が公開された。
警視庁によると、10月7日にイスラエルとハマスの戦争が始まって以来、ロンドンでの憎悪(ヘイト)犯罪による逮捕は188件。そのほとんどが、反ユダヤ的な内容だという。
右派と警官隊が衝突
白地に赤十字のイングランドの聖ジョージ旗を掲げる集団が、テムズ河岸から官庁街ホワイトホールを通り、「セノタフ」へ向かって行進するのを、午前10時すぎに警官隊が制止したことから、この日最初の衝突が起きた。
ロンドン警視庁によると、警察と衝突したこのカウンター勢力には、極右集団も参加していたという。
「死ぬまでイングランド」というスローガンを連呼していたこのグループは、警察が設けたフェンスを押し返した。中には「やっつけろ」などと叫ぶ者もいたという。
ただし、第1次世界大戦の休戦協定締結を記念し戦没者を追悼する式典がセノタフで行われた際には、警察によると2分間の黙とうは「敬意をもって」ささげられた。
ロンドン警視庁は市内のチャイナタウンで起きた、別の右派グループと警官隊との衝突の動画をソーシャルメディアで公開。警官を押したり小突いたりする男たちが、「お前らはイギリス人じゃない、イギリス人じゃない、もうイギリス人じゃない」などと連呼している。警察によると、チャイナタウンに移動したグループが「警官たちに対抗し、物を投げつけた」のだという。
警察によると、親パレスチナ派の行進に接近しようとした右派勢力80人以上が、「公共の秩序を侵害しようとした疑い」で逮捕された。さらに、攻撃用武器の所持、乱闘、薬物所持などの疑いで10人が逮捕されたという。
ロンドン警視庁によると、逮捕されたカウンター勢力の多くはサッカー・フーリガン行動に関連しており、その一部はサッカー関連の暴力事件で逮捕され有罪判決を受けているという。
「この日こそ行進にふさわしい」
この日の親パレスチナ派の行進は、在英組織「パレスチナ連帯キャンペーン」が主催。その行列の全長は一時、約4キロになった。主催者発表によると参加者は80万人だが、警察は約30万人と推定している。
参加した1人はBBCニュースに、「停戦してもらいたい。大勢が苦しんで、がれきの下で子供たちが死んでいるのに、誰も気にしていないみたいだ」と話した。
この参加者はさらに、この日の行進が第1次世界大戦の休戦記念日に行われることについて、スーナク首相が「失礼だ」と発言したことを批判。「子供たちが死ぬのを見逃していることこそ、失礼だ」と述べた。
別の参加者は、「むしろこの日こそ、このデモにぴったりだと思う。というのも、それこそ休戦の日だから。停戦を求めて、戦争を止めるよう求めているので」と述べた。
ソーシャルメディアでは、与党・保守党幹部のマイケル・ゴーヴ地域活性化・住宅・コミュニティ担当相がロンドンのヴィクトリア駅で親パレスチナ派のデモ隊に囲まれる映像が拡散した。デモ隊はゴーヴ氏に向かって、「恥を知れ」と連呼している。
ゴーヴ氏に近い消息筋によると、ゴーヴ氏は地元選挙区からロンドンに戻ったところだった。デモ隊に囲まれた後、警察車両でこの場を離れたという。
(英語記事 Rishi Sunak condemns violence on day of protests in London)