
イスラエル軍が攻撃を続けるパレスチナ自治区ガザ地区の病院で人道危機が深まるなか、病院関係者や国連組織などは12日、燃料不足などで病院が機能せず、大勢が死の寸前にあると訴えた。一方、イスラエル側は病院への攻撃を否定すると共に、病院は機能していると主張した。
イスラエルは、ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスを壊滅するとして、ガザ北部を中心に空爆や地上作戦を実施している。攻撃は病院の近くでも報告されている。
ガザ市にあるガザ地区最大の病院、アル・シファ病院のマルワン・アブ・サアダ外科部長によると、早産で生まれた赤ちゃんが腸炎で死亡し、早産児の死者は3人になったという。
同病院では11日時点で、停電のため新生児集中治療室が機能しておらず、早産児2人が死亡し、37人が深刻な危険にあるとされていた。
新生児は心臓病の手術室に移されたという。少なくとも20人の赤ちゃんが毛布にくるまれ大人用のベッドに並べられている写真と、「すべての赤ちゃんの命が失われてしまう」と話すアブ・サーダ医師の音声が、BBCに送られてきた。
同医師によると、集中治療室と手術室は現在、太陽光発電のみで稼働させているという。電力不足のため、人工透析が必要な患者45人が2日間、透析を受けられない状態という。
同医師はさらに、この30日間で病院スタッフらが身元不明な死者のための集団墓地を4カ所掘ったと説明。救急病棟の外には現在、遺体100体近くが並べられており、「感染症の発生源となる」と話した。
アル・シファ病院の地下にハマスの司令部があるとするイスラエル側の主張については、同医師は「大うそ」だと強調。イスラエル部隊に病院に来て調べるよう求めた。また、病院内に「戦闘員は1人」もいないとした。
ハマスが運営するガザ保健当局は、世界保健機関(WHO)への最新報告で、同病院には少なくとも2300人がいるとしている。内訳は、患者が600~650人、医療従事者が200~500人、避難者が約1500人だという。WHOがX(旧ツイッター)で公表した。
ガザ保健当局はまた、電力、水、食料の不足により、「人命が危機に直面している」としている。
WHOは、「即時停戦」と「民間人と医療の積極的な保護」を繰り返し求めている。
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ガザ市のアル・アハリ病院の整形外科医、ファデル・ナイム医師は、運ばれて来る患者数に「圧倒されている」とした。
同医師は同病院の状況を定期的にソーシャルメディアに投稿している。12日には、血液の備蓄が底をついたとし、医師たちは輸血なしで手術をせざるを得なくなっていると書いた。
同医師によると、アル・アハリ病院はガザで機能している最後の病院だという。ガザの2大病院、アル・シファ病院とアル・クッズ病院は、ともに燃料が尽きたとされている(イスラエルは、アル・シファ病院にはまだ燃料があると主張)。
同医師は、「困難な状況を目の当たりにしながら、どうにか自分を保とうとしている」、「だが今日は耐え切れなかった。心の底から泣いた」と記した。
アル・クッズ病院については、この5日間スタッフとほとんど連絡が取れていないと、パレスチナ赤新月社(PRCS)が説明している。
ヨルダン川西岸地区にいるPRCSの広報担当者は、「イスラエル軍の砲撃により、通信回線とインターネット回線が完全に破壊された」と米CNNに話した。
BBCも、ガザ地区の病院にいる人たちになかなか連絡が取れずにいる。WHOも、アル・シファ病院の情報提供者との通信が途絶えたとしていたが、12日夜になって、病院関係者との連絡が取れたと、テドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長がソーシャルメディアに書いた。
国際NGO「国境なき医師団」も12日、前夜からアル・シファ病院のスタッフと連絡が取れていないとソーシャルメディアで明らかにした。ガザ地区のスタッフからは、同病院の周辺で攻撃が続いているとの報告を受けているという。
今回の武力衝突が始まって以降のガザ地区での死者数について、ガザ保健当局は1万1180人に上ったと発表した。うち、子どもは4609人、女性は3100人で、他にけが人が2万8200人いるとした。
WHOはガザ保健当局が発表する死者数について、信頼できるとの認識を改めてBBCに示した。
一方、イスラエルは、先月7日のハマスの攻撃で約1200人が殺害され、200人以上が人質に取られたとしている。
イスラエルは病院への攻撃を否定
イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は12日のBBC番組で、イスラエルがガザ最大のアル・シファ病院を攻撃していることを否定した。
また、同病院は「電気があり、全面的に機能している」と主張。燃料不足で手術ができず、早産児の保育器も動かせないとの報告については、「すべて否定する。ハマスがかなり脚色している」と述べた。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は同日、米NBCのインタビューでアル・シファ病院について、「私たちは昨夜、病院を機能させ、保育器などを動かすのに十分な燃料を提供すると申し出た」と主張。しかし、燃料は拒まれたとした。
首相はまた、「明らかに、私たちは患者や民間人とは戦っていない。民間人の死、赤ん坊の死はすべて悲劇だと思っている」と述べた。さらに、野戦病院の建設を検討していると述べた。
イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官は同日の記者会見で、ガザ北部の病院から南部への「指定ルートを開設した」と説明。「病人や負傷者を安全に搬送するための支援」の提供について、アル・シファ病院の関係者と話し合っていると述べた。
また、同病院で治療を受けている赤ちゃん数十人を別の病院に避難させるための「支援を用意している」と付け加えた。
報道官はさらに、イスラエル軍が燃料300リットルを病院近くに置いたが、ハマスが「病院に圧力をかけ(回収を)阻止した」と主張した。
ハマスは、病院職員による回収を阻止したことはないとしている。
同病院のアブ・サアダ外科部長は、発電機を1日動かすには燃料2万4000リットルが必要で、300リットルでは30分動かせるだけだとBBCに話した。
「世界は沈黙してはならない」とWHO
WHOのテドロス事務局長は12日、ガザ地区の状況について、「絶え間ない銃撃と爆撃が、すでに危機的な状況を悪化させている」、「死亡する患者が著しく増加している」、「悲惨かつ非常に危険」だとソーシャルメディアに書いた。
「安全な避難所であるべき病院が死、荒廃、絶望の光景に変わっているのに、世界が沈黙することは許されない」
赤十字国際委員会は、「避難しようとしているか、その場にとどまっているかにかかわらず、戦闘に巻き込まれたガザ住民の保護」が必要だと訴えた。
また、イスラエル軍とハマスの軍事衝突は、人口密集地や「病院周辺」でも起きていると行われているとし、「私たちの目の前で耐え難い人間の悲劇が繰り広げられている」とした。
さらに、多くの住民が避難しているガザ南部について、「設備が整っていない」と指摘。人道支援が「全般的に不十分」で、避難者たちは「避難場所、食料、水、衛生などが不足している」とした。
そして、状況は「急速に人道上の大惨事になりつつある」と付け加えた。
ガザ南部やヨルダン国境付近でも攻撃
ガザ地区で取材するBBCのラシュディ・アブ・アルーフ記者は、ガザ市の国連事務所で夜間に攻撃を受けた人に話を聞いた。
事務所が入っている建物は、アル・シファ病院から約250メートルの距離にあり、アル・シャティ難民キャンプ周辺の戦闘から逃れてきた数百人が避難していたという。
建物内で爆発が起こり、数人が負傷したという。付近にはイスラエル軍の戦車と装甲車が約40台いたという。
一方、イスラエル軍のリチャード・ヘクト報道官は、ガザ北部から南部に避難する人々を攻撃したことをBBCに認めた。ただ、それらはハマスのメンバーだったと主張した。
ガザ南部でも空爆が続いており、ハンユニスでは20人以上が死亡したと報告されている。
イスラエルとレバノン南部の国境付近でも戦闘が続いている。
イスラエル軍によると、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラから12日、対戦車ミサイルが発射され、イスラエル側の民間の標的に命中したという。
イスラエル軍は、砲撃で報復しているという。
イスラエルのメディアは、救急関係者の話として、1人が重傷、他に3~5人が負傷したと伝えた。
ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師は11日、国境付近におけるイスラエルとの戦いを続けていくと宣言していた。
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レバノンに駐留する国連レバノン暫定軍(UNIFIL)によると、イスラエルとの国境に近いレバノン南部で夜間、平和維持活動に当たっていた兵員が銃撃された。
兵員の身元は明らかにされていない。回復に向かっており、容体は安定しているという。
UNIFILは、誰が銃撃したのかは不明で、調査を開始したとした。
(英語記事 LIVE World Health Organization says Gaza's main hospital no longer functioning/Israel's president denies strikes on Gaza hospital)