
イギリスのリシ・スーナク首相は13日、数々の発言が与野党や政府内外から批判されていたスエラ・ブラヴァマン内相を解任し、後任にジェイムズ・クレヴァリー外相を任命した。外相の後任には、デイヴィッド・キャメロン元首相が選ばれた。
首相官邸はソーシャルメディアで、クレヴァリー新内相とキャメロン新外相の任命を相次いで発表した。
更迭されたブラヴァマン氏は、「内務大臣として務めることは、人生最大の栄誉でした」とコメント。「今後さらに発言するつもりです」と述べた。
ブラヴァマン氏は、英紙タイムズへの8日付寄稿で、ロンドン警視庁が抗議運動で「二重規範」による取り締まりを行っていると指摘。右翼やナショナリストの抗議者は「厳しい対応を取られる」のに対し、「親パレスチナ派の暴徒」による違法行為は「ほとんど見過ごされている」と述べた。内相の投稿内容は事前に官邸の了承を得ていなかった。また、タイムズ紙によると、官邸が求めた修正を内相が拒否し、そのまま掲載したという。
クレヴァリー氏はソーシャルメディアで、「内相に任命され、光栄です。目標ははっきりしています。私の仕事はこの国の人たちの安全を守ることです」とコメントを発表した。
キャメロン氏はソーシャルメディアで、「外相として仕えるよう総理大臣に求められ、喜んで応じた」と書き、「ウクライナでの戦争と中東での危機を含む、途方もない国際的な課題に直面している」と指摘。「大変な世界的変化が起きている今、この国が仲間の国々と共に立ち、協力関係を強化し、我々の声が確実に届くようにすることは、めったにないほど重要だ」と書いた。
「この7年間、政治の最前線からは離れていたものの、保守党党首として11年間、そして首相として6年間務めたこれまでの経験が、現在の重要な課題において首相を支えるにあたり、私を助けてくれると願っている」ともしている。
さらに、スーナク首相による「個々の判断には同意しなかった」こともあるものの、スーナク氏は「強力で有能なリーダー」だとたたえた。
キャメロン氏は2016年6月にブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)をめぐる国民投票で離脱が決まったことを受けて首相を辞任し、同年9月には下院議員も引退していた。そのため、外相就任にあたり13日に政府によって上院(貴族院)議員に推挙され、世襲ではない一代貴族の「キャメロン卿」となった。
下院ではなく上院の議員が外相を務めるのは、初めてのことではない。サッチャー政権では1979年から1982年にかけて、キャリントン卿ピーター・キャリントン氏が外相だった。
野党・自由民主党は、キャメロン氏が貴族となることに反対する方針を示した。破綻した金融会社グリーンシル・キャピタルのために、キャメロン氏がロビー活動を行っていたことをその理由としている。
最大野党・労働党のジェス・フィリップス下院議員は、「これほど変化と未来を表すものもない……デイヴィッド・キャメロンほど」とソーシャルメディアに書き、「もう13年もやったでしょ!とみんなに歌ってもらいたいかのようだ」と、あてこすった。
ジェレミー・ハント財務相は留任が決まった。ハント氏は、ブラヴァマン氏のタイムズ紙への寄稿内容について、「私自身はあのような言葉を使わなかったはずだ」と述べていた。
テレーズ・コフィー環境相は辞任を発表した。
発言や政策に相次ぎ批判
BBCのクリス・メイソン政治編集長によると、スーナク首相はブラヴァマン氏に対し、内相解任だけでなく、政府そのものから身を引くよう告げたのだという。
ブラヴァマン氏は昨年9月6日、当時のリズ・トラス新首相に選ばれ内相に就任したものの、政府資料を本来受け取る権限のない人物に送ったことが議員の倫理規定違反とされ、10月19日に辞任。しかし、その6日後には新首相となったスーナク氏によって、内相に返り咲いていた。
メイソン政治編集長によると、トラス氏の首相辞任後、保守党党首選で優勢だったスーナク氏が、ボリス・ジョンソン元首相との一騎打ちになりそうになった際、ブラヴァマン氏はスーナク氏支持に回ったのだという。
辞任直前の2022年10月18日には、温暖化対策として化石燃料の使用削減を求める環境団体がロンドン市内の道路を占拠することに関連し、「この国の道路が混乱しているのは、労働党と自由民主党と、混乱の連帯と、(英紙)ガーディアンを読んで豆腐を食べるような『意識高い系』の連中のせいだ」などと述べ、野党やリベラル勢から強く批判された。
ブラヴァマン氏は内相就任後、ボリス・ジョンソン元政権が決定した、欧州から英仏海峡を渡ってきた亡命希望者の一部を東アフリカのルワンダへ移送する計画を推進した。この計画は欧州人権裁判所から差し止め判断を受けたほか、イギリス国内でも数々の訴訟が提起され、近く最高裁が判断を示す予定。
この亡命希望者のルワンダ移送について、ブラヴァマン氏は今年10月、「ルワンダ行きの飛行機の写真が(英紙)テレグラフの一面を飾ってくれれば、本当にうれしい。それが私の夢で、こだわり」だと発言していた。
欧州から小さいゴムボートなどでイギリスに渡航してくる亡命希望者については、2022年10月に「この国の南岸への侵略」と呼んだ。また今年9月には「多文化主義は失敗」したとも述べるほか、国連の「難民の地位に関する条約」は時代遅れでもはや目的にそぐわないと発言した。
最近では、ホームレス状態の人々のテントの使用を制限する新しい法案を議会に提出した際、路上生活は多くの場合、当人が「選んだライフスタイル」だとソーシャルメディアに書いたことも批判されていた。
それに加えて、イスラエル・ガザ戦争が始まりロンドンなどで週末ごとに即時停戦を求めて行われている親パレスチナ派デモについて、「これはヘイトの行進」だと発言。警察に厳しい取り締まりを要求する発言を重ねた末、8日のタイムズ紙への寄稿に至った。
10日のタイムズ紙によると、首相官邸は内相の寄稿について、休戦記念日のデモでは「緩い対応」をしないよう警察に忠告する個所と、警察幹部が偏向している「証拠は十分ある」という主張を、早い段階での原稿から削除するよう要求。これは、警察幹部が「一部の抗議参加者をひいきすると見られている」などの表現に修正された。スーナク首相の発言を直接批判した個所も削除された。
ただし、親パレスチナ派のデモに参加する一部団体が「ハマスを含むテロ組織と結びつきがあるという指摘」に言及し、これは北アイルランドでの抗議デモを連想させると書いた個所については、削除要求を内相は拒否したのだと、タイムズ紙は伝えた。
30万人が参加(警察発表)したという11日のロンドンでのデモでは、停戦を求める行進に対抗する右派勢力が警官隊と衝突。暴力沙汰が相次ぎ、多くの逮捕者が出た。右派と警察との衝突については、ロンドンのサディク・カーン市長(労働党)をはじめ大勢が、極右団体が勢いづいたのは「内相の発言の直接的な結果だ」と批判していた。
ブラヴァマン氏の解任について、野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は、「スエラ・ブラヴァマンはそもそも、内相にふさわしくなかった。リシ・スーナクはそれを知っていたが、それでも彼女を選んだ。これほど長い間、彼女をとどめておいたのは、ひたすら首相の臆病のせいだ。早くこのみじめな状態を終わらせて、今すぐに総選挙の実施を宣言するべきだ」と述べた。
(英語記事 David Cameron made foreign secretary in shock return to government / Rishi Sunak sacks Suella Braverman as home secretary / Eight things Suella Braverman said that made headlines)