
リシ・スーナク英首相の新内閣の顔ぶれが13日、出そろった。新たに外相となったデイヴィッド・キャメロン元首相は英メディアの代表取材に対し、スーナク首相を「大変な時」に支えたいと語った。
スーナク首相は同日朝、スエラ・ブラヴァマン内相を解任すると発表し、内閣改造に着手。内相の後任にはジェイムズ・クレヴァリー前外相が任命された。
また、外相を引き継いだキャメロン氏は2016年に政界を退いていたため、政府によって上院(貴族院)議員に推挙され、一代貴族の「キャメロン卿」となった。元首相が政府に復帰するのは、1970年代以降で初だという。
改造内閣ではこのほか、辞任したテレーズ・コフィー環境相の後任に保健相だったスティーヴ・バークリー議員が就任。新しい保健相には、初入閣のヴィクトリア・アトキンス氏が任命された。
一方、ジェレミー・ハント財務相、グランド・シャップス国防相などは留任となった。
内閣で最も力のある首相、財務相、外相、内相のいずれかに女性が入らない内閣は、2010年に与党・保守党が総選挙に勝利して以来、初となる。
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7年ぶりの政界復帰
キャメロン卿はインタビューで、元首相が「戻って来る」のは「普通のことではない」と認めた。
その上で、イギリスが中東とウクライナについて「大変な困難」に直面している中で、自分の経験がスーナク政権に活用できればいいと思っていると話した。
「リシ・スーナクは大変な時に難しい仕事に取り組んでいる、良い首相だと思う」ため、「このチームに入ろうと決めた」として、スーナク首相を「支えたい」と、キャメロン外相は述べた。
英外務省は、キャメロン外相が13日夜にアメリカのアントニー・ブリンケン国務長官と話し、「中東での紛争、イスラエルの自衛権、パレスチナ自治区ガザ地区に安全な支援の道を設けるための人道的休戦の必要性」について協議したと発表した。また、ウクライナへの支援継続や、英米関係の強化についても確認したという。
キャメロン卿は、2016年6月にブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)をめぐる国民投票で離脱が決まったことを受けて首相を辞任。7年ぶりの政界復帰となった。
スーナク政権についてはこれまで、高速鉄道「HS2」計画の廃案や支援予算の削減などについて批判していた。
しかし外相就任を受け、キャメロン卿はソーシャルメディアで、スーナク首相による「個々の判断には同意しなかった」こともあるものの、スーナク氏は「強力で有能なリーダー」だとたたえた。
「私はチームの一員で、それに伴う内閣の連帯責任を受け入れる」とも、外相は述べた。
スーナク氏は、毎年恒例の「ロード・メイヤー(シティ・オブ・ロンドン首長)の晩さん会」での演説で、世界は「非常に困難な時代」に直面しており、「このような出来事を形成するために全力を尽くすことが我々に課せられた使命だ」と述べた。
また、イギリス政府は「イギリスの外交において近年できわめて重要な1年を達成した」と述べ、クレヴァリー氏が外相としてウクライナ対策で功績を残したと称えた。
その上で、「昨年我々が達成した業績を基礎として、さらに成果を積み上げてくれる新しい外相を任命できて、うれしく思っている」と述べた。
党内の分断につながるとの声も
保守党の中道派はキャメロン卿の復帰を歓迎している。
一方で、党内右派に支持の厚いブラヴァマン氏を解任し、キャメロン卿を政界に復帰させたことで、スーナク氏は党内の分断を深めるリスクも負った。
元財務相のクルッダス卿は、スーナク首相の内閣改造はEU残留派との「クーデター」だと批判。同じく閣僚経験者のサー・ジェイコブ・リース=モグ議員は、「リフォームUKに票を奪われる危険性がある」と述べた。
リフォームUKは、ブレグジット推進派だったナイジェル・ファラージ氏が創設したポピュリスト政党。同党のリチャード・タイス党首はBBCのニュース番組内で、キャメロン卿の復帰を見て「これ以上ないほどうれしかった」と述べ、「今日の出来事を受けて、我が党の本部ではシャンパンが登場する」と語った。
野党・自由民主党は、キャメロン氏が貴族となることに反対する方針を示した。破綻した金融会社グリーンシル・キャピタルのために、キャメロン氏がロビー活動を行っていたことをその理由としている。
最大野党・労働党のパット・マクファデン議員は、「13年間にわたる保守党の失敗に対して、自分は変化を提供するという首相の笑えない主張に、これで一気に終止符が打たれた」と話した。
キャメロン卿は外相就任に伴い、アルツハイマー型認知症協会など、首相辞任後に関わっていた慈善団体や事業の職務から撤退する。
グリーンシル・キャピタルについては、「過去の問題」であり「対応は済んだ」としている。
ブラヴァマン氏とスーナク首相に「流儀の違い」
今回の内閣改造は、ブラヴァマン氏の内相解任から始まった。ブラヴァマン氏をめぐっては、特に警察への批判発言が波紋を呼んでいた。
ブラヴァマン氏は、イスラエル・ガザ戦争が始まりロンドンなどで週末ごとに即時停戦を求めて行われている親パレスチナ派デモについて、「これはヘイトの行進」だと発言。警察に厳しい取り締まりを要求する発言を重ねていた。
8日には英紙タイムズへの寄稿で、ロンドン警視庁が抗議運動で「二重規範」による取り締まりを行っていると指摘。右翼やナショナリストの抗議者は「厳しい対応を取られる」のに対し、「親パレスチナ派の暴徒」による違法行為は「ほとんど見過ごされている」と述べた。この寄稿内容は事前に官邸の了承を得ていなかった。また、タイムズ紙によると、官邸が求めた修正をブラヴァマン氏が拒否し、そのまま掲載したという。
30万人が参加(警察発表)したという11日のロンドンでのデモでは、停戦を求める行進に対抗する右派勢力が警官隊と衝突。暴力沙汰が相次ぎ、多くの逮捕者が出た。右派と警察との衝突については、ロンドンのサディク・カーン市長(労働党)をはじめ大勢が、極右団体が勢いづいたのは「ブラヴァマン氏の発言の直接的な結果だ」と批判していた。
首相報道官は内閣改造に際し、「一致団結したチーム」の重要性を強調。ブラヴァマン氏とスーナク首相には「流儀の違い」があったことを認めた。