
イスラエル軍が攻撃を続けるパレスチナ自治区ガザ地区の病院で、惨状がさらに悪化している。燃料や物資の不足で、必要な治療を受けられずに死亡する患者が増えており、国連機関は13日、ガザ最大の病院について「ほとんど墓地」だと警告した。米英両国も民間人の保護が必要だとしている。一方、イスラエルは病院の地下にイスラム組織ハマスの施設があるとして、付近での攻撃を続ける方針を示している。
北部ガザ市にあるガザ地区最大のアル・シファ病院では、周囲で戦闘が続いており、数千人が病院内に閉じ込められているとみられる。
世界保健機関(WHO)は同病院について、停電と燃料の不足によって「ほとんど墓地」の状態だとして対応を求めた。
同病院の院長は、病院が「封鎖」状態に置かれており、敷地内に放置されたままの遺体を犬が食べ出していると話した。
ガザ市ではここ数日、イスラエル軍と、ガザ地区のイスラム組織ハマスが激しい戦闘を繰り広げている。アル・シファ病院では門のすぐそばまで戦車や装甲車が迫っているとの報告もある。
イスラエルは同病院の地下にハマスの司令部があるとしているが、ハマスと病院はこれを否定している。イスラエル軍は、病院に対しては攻撃も包囲もしていないとし、中にいる人の退避は可能だとしている。
ガザ地区当局によると、軍事衝突が始まった10月7日以降の同地区の死者は1万1240人に上っている。うち4630人は子どもで、3130人は女性だという。WHOは、これらハマス側の発表は信頼できるとしている。
病院敷地内で遺体が腐敗
WHOは、アル・シファ病院に約600人が残っており、さらに廊下にも多くの人が避難しているとしている。クリスティアン・リンドマイヤー報道官は、「病院周辺には、埋葬や死体安置所への移動もままならない死体がある」、「病院は本来の機能をまったく果たしていない。ほとんど墓地だ」と話した。
一方、ハマスが運営するガザ地区保健当局は、同病院には少なくとも2300人が残っているとしている。内訳は患者が最大650人、医療従事者が200~500人、避難者が約1500人。
アル・シファ病院のモハメド・アブ・セルミア院長は、遺体150体ほどが腐敗しており、「不快な臭いがしている」とBBCに話した。イスラエル当局が遺体の埋葬を許可しておらず、犬が遺体を食べ始めているという。
院長はまた、ここ数日で院内で32人が死亡したと説明。うち3人は早産児で、7人は酸欠が原因だったとした。人工透析ができなくなっており、「今後2、3日」で死亡する危険性がある患者もいるとした。
別の病院でも危機的な状況は続いている。
ガザ北部のアル・アウダ病院では、主な発電機を動かせず、3日間電気も燃料もない状態になっている。反貧困運動団体「アクションエイド」(本部・南アフリカ)が医師の話として明らかにした。
同病院ではバッテリーの電力と明かりで治療などに当たっており、12日には帝王切開で赤ちゃん16人が産まれたという。
医師は、「アル・アウダ病院は北部で唯一機能している病院だ」、「毎日18~20人の出産を受け入れている。人々がガザ市からやって来るので、この数は今後増えるだろう」と話した。
一方、ハマスが運営するガザ保健当局は、北部のすべての病院が「機能していない」とAFP通信に話した。
あるパレスチナ人女性はBBCに、イスラエル軍がガザ市西部の診療所に入り込み、避難していた800人に退去するよう命じたと話した。その際、若い男性は他から引き離したという。
イスラエル軍はこの件について調査するとしている。
病院地下だとする映像を公開
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の上級顧問で、元駐英イスラエル大使のマーク・レゲフ氏は、アル・シファ病院における早産児の危機について、ハマスがイスラエルが提供した燃料不足解消の手段を受け取らず、「写真で危機をアピールしようとしている」と主張。「赤ちゃんを盾にして軍事マシーンを守ろうとしている」とした。
同氏はまた、ハマスがアル・シファ病院を「戦場」に変えたと非難。病院の下に軍事施設を「意図的に構築した」と述べた。ハマスと病院はこれを否定している。
同氏はさらに、イスラエル軍は病院を攻撃目標にはしていないとする、従来からのイスラエルの主張を繰り返した。
イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官は13日の記者会見で、ガザ市のランティシ病院にハマスのインフラがある証拠だとする映像を公開した。
映像には、ハマスの爆発物、自爆ベスト、イスラエル襲撃に使ったオートバイだとされるものが映っており、それらは病院の地下に隠されていたとハガリ氏は説明。
哺乳瓶や簡易トイレ、小さな台所も地下で見つかったとし、ハマスがこの場所で人質を拘束していたことを示しているとした。
ハガリ氏はまた、学校と病院のすぐわきにあるトンネルの入り口だとする映像も公開。地下に伸びるシャフトとはしごが映っており、「テロのトンネル以外の何物でもない」と述べた。
同氏はさらに、ここ数日間でハマスの軍事情報部門の元トップを含む、多くのハマス幹部を殺害したとした。
「ハマスはガザの支配を失った」
イスラエルのヨアヴ・ガラント国防は13日、「ハマスがガザの支配を失った」と述べた。AFP通信が伝えた。
ガラント氏はイスラエル主要テレビ局が放送した映像で、「テロリストは南へと逃げている。民間人がハマスの基地で略奪をしている」、「人々はもう(ハマスによる)政府を信頼していない」と述べた。
同氏はまた、アメリカが先週発表したイスラエル軍による1日4時間の「人道的戦闘休止」について、「ガザ市から南に向かうパレスチナ住民の退避を可能にするため、局地的でピンポイントの措置を取っている」と説明。「これらは、戦闘を妨げるものではない」と述べた。
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イスラエル軍はこの日、8日から実施してきたとする戦闘休止の8地点を示す地図を示した。ほとんどはガザ市の北東部で、13日にはガザ地区南部ラファで4時間実施したとした。
国連は12日、ガザ北部の数万人が、イスラエル軍が指定した避難ルートを通って避難を続けていると発表した。ただ、北部にはまだ数十万人が残っており、生き延びるのが困難な状況だとした。
米英首脳が民間人保護を要求
イスラエルを支持し、同国に影響力をもつアメリカのジョー・バイデン大統領は13日、ガザ市のアル・シファ病院について、「保護されなければならない」と主張。病院は「侵入度が小さい行動」が取られることを望むと、記者団に述べた。
バイデン氏はまた、同病院に関して「イスラエル側と連絡を取っている」と付け加えた。
一方、イギリスのリシ・スーナク首相は同日、イスラエルを攻撃したハマスの動機について、「憎しみ」だけでなく、イスラエルが近隣諸国との関係正常化など、中東で新たな関係を築こうとしていることへの不安もあるとの見方を示した。
スーナク氏はまた、イスラエルの「テロに対する自衛」の権利を支持すると改めて表明。同時に、民間人の安全を守るためにさらなる措置が必要だと述べた。
そのうえで、イスラエルには「国際法の範囲内で行動する」責任があると主張。「病院を含め、罪のない市民を守るためのあらゆる方策を、イスラエルは講じなければならない。ヨルダン川西岸地区で過激派の暴力を止め、ガザへの支援を許可しなくてはならない」と述べた。
スーナク氏はさらに、イギリスはガザへの支援を倍増させていると説明。「人道的アクセスを妨げず、緊急かつ実質的な人道的戦闘休止」を実現させるため、国連とイスラエルに直接かけ合っているとした。
(英語記事 LIVE WHO says Gaza's biggest hospital becoming a cemetery/WHO says Gaza hospital unable to bury dead bodies)