
クリス・メイソン政治編集長、BBCニュース
「キャメロンは現代の政治史上、最大のアップグレードだ」
ある閣僚経験者が、今やキャメロン卿となったデイヴィッド・キャメロン氏の政界復帰と外相就任を受け、このようにテキストメッセージを送ってきた。
そう、この文章は間違っていない。外務大臣、キャメロン卿なのだ。
政治というのは、本当になんともはや。
ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)という、イギリス外交におけるここ数世代で最大の出来事をうっかり扇動してしまった人物が、ブレグジットを支持する首相の下で、外交の顔となった。
そう、うっかりだ。思い出してほしい。キャメロン氏は2016年に行ったEU離脱をめぐる国民投票によって、自分が推進するEU残留が勝つと期待していた。しかしそうはならず、彼は政界を去った。少なくとも今までは。
いったい、なにごとなのか。
リシ・スーナク首相は、13日に発表した内閣改造によって、自分は保守党を一致団結させたいのだと主張することができる。
キャメロン氏もこれに言及し、ソーシャルメディアへの投稿に、「イギリスに貢献し、総選挙の際には国民にこうと示せるような、可能な限り最強のチームの一員になりたい」のだと書いた。
何ていうどんでん返しだろう。
キャメロン氏が首相だったころ、スーナク氏は若く野心的な無名の議員だった。ブレグジットを支持し、首相に反抗していた。そのスーナク氏が今や首相となり、キャメロン氏を自身の閣僚に任命したのだ。
政界復帰に当たって上院(貴族院)議員となったキャメロン卿は、新たな外相として役に立つだろう国際的な人脈を持ちあわせている。
総選挙に勝つためのアドバイスも持っているはずだ。
一方で、政界を去ってからの経歴というお荷物もついてくる。たとえば、2021年に破綻した金融会社グリーンシル・キャピタルへの関与などだ。
そしてブレグジットの国民投票後、その多くが2019年の総選挙に選出された保守党議員らは、キャメロン氏の復帰をどう見ているのだろうか?
「戦略的な失策」
ブレグジット後の、多くは2019年に当選した保守党議員の多くにとって、キャメロン卿はそれほど大きな存在ではない。EU残留を支持し、緊縮財政を実施した元首相は、多くの保守党議員とはいささか異なる存在だ。
最大野党・労働党の議員たちも、キャメロン氏の復帰に感心していない。
キャメロン氏の復帰について、「ぼうぜんとしてマーマレードを落としてしまうほどの大ニュースだからといって、それが良いアイデアとは限らない」と話す議員もいた。
つまり、これは「保守党政権13年間の失敗の発端となった首相を呼び戻すことで、与党が着地しようとしていた変革のメッセージを打ち消すという大きな戦略的失策」だと言うのだ。
確かについ1カ月ほど前、スーナク首相は自らを変革の候補者として描いていた。そのために、キャメロン氏のような人物と自分は対照的なのだと述べていた。
ルワンダ移送計画
そして、スエラ・ブラヴァマン前内相は今後どうなるのだろうか?
ブラヴァマン氏に忠実な人々は、これで終わりでは決してないと言う。
英最高裁は15日、欧州から英仏海峡を渡ってきた亡命希望者の一部を東アフリカのルワンダへ移送する政府の計画について判断をくだす。
もし政府内の多くの人が予想しているように、閣僚側が敗れ、最高裁がノーと言えば、ブラヴァマン氏はイギリスが欧州人権条約から脱退すべきだと主張することになるだろう。
ある幹部議員は、「これはブレグジット2.0のようなものになる」とはと私に語った。ブレグジットと同じように、保守党を分断する可能性があるということだ。
ブラヴァマン氏はいつか保守党党首になりたいと考えているだろう。13日夜には、ブラヴァマン氏を支持する議員らが議会で会議を開いた。
何とも大変な一日だった。
(英語記事 David Cameron returns: What is going on? )
提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-67411628