
小型ボートなどで英仏海峡を渡ってイギリスに不法入国した人々をアフリカのルワンダに移送する、イギリス政府の計画について、同国の最高裁判所は15日、違法と判断した。
イギリスの最高裁は、この政策はルワンダに移送される人々を人権侵害にさらすとした控訴院の判決を支持した。
今回の判断は、不法入国者の移送政策を、政府が現在推進しているかたちでは実施できないことを意味する。
リシ・スーナク英首相は、英政府はルワンダとの新たな条約に取り組む方針で、イギリスの法律を変更する用意があると述べた。
物議を醸している、不法入国者をルワンダへ移送する計画は、2022年4月にボリス・ジョンソン首相(当時)が最初に発表した。以来、法的な異議申し立てに直面してきた。
英政府は、不法入国した人をルワンダに移送し、そこで亡命申請手続きを行わせるために、ルワンダ側に1億4000万ポンド(約262億5000万円)をすでに支払っている。
しかし昨年6月、不法移民をルワンダへ空路移送する第1便が、移送を差し止めるべきだとする欧州人権裁判所(ECtHR)の判断を受けて、出発直前にキャンセルされた。英控訴院は第1便の出発を許可していたが、英国内では現代における奴隷的待遇や人権の侵害を問題視する法的訴えが相次いだ。
ルワンダで「安全ではない場所に送られる恐れ」
不法入国者の移送をめぐっては、移送先のルワンダの亡命制度が不公平かつ恣意(しい)的であることを明確に示す証拠を政府が無視しているとの声があり、結果的に移民政策の再考を余儀なくされることとなった。
国際規範のノン・ルフールマン原則では、亡命希望者が危険な状況に陥る可能性がある場合、もとの国に戻すことを禁じている。
5人の最高裁判事は15日、ルワンダへの移送が安全かどうかについて適切な評価がなされていなかったとの控訴院の判断を、全員一で支持した。
この判断は不法入国者の他国への移送を禁止するものではない。しかし、ルワンダへの移送計画はずたずたとなり、これと同様の合意をイギリスと結んでくれる国がほかにあるのかも不明だ。
最高裁判事は、ルワンダに強制移送された人々が、ルワンダ政府によって安全ではない場所に送られる可能性があると信じるに足る「相当な根拠」があると指摘した。
また、ルワンダ政府は「誠意をもって」イギリスと協定を結んだとしつつ、ルワンダ政府が「少なくとも短期的には」同国の亡命制度の「欠陥」を修正し、「必要とされる手続きや理解、文化の変化の規模」を見届けるという「保証を履行する実践的な能力」に疑問を投げかける証拠があるとした。
ルワンダ政府の報道官は、移送計画の合法性は「最終的にはイギリスの司法制度が決定すること」だが、「ルワンダは安全な第三国ではないという判断には、我々は異論を唱える」と述べた。
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ルワンダとの「正式な条約」
英最高裁の判断により、大幅な修正なしに移送計画が実現する可能性は事実上断たれたといえる。
しかしスーナク首相は、ルワンダと正式な条約を締結する準備ができており、計画を復活させるために「国内の法的枠組みを見直す用意がある」と述べた。
英首相官邸は「近日中に」条約について発表するとしている。この条約は、イギリスとルワンダの不法入国者の移送をめぐる合意を、現在の「覚書」から格上げするもので、より強固な法的基盤を両国の合意に与えることになると、英政府は考えている。
英首相官邸の報道官は条約の内容について、最高裁が求めている必要な保証を提供するものになるとしている。
スーナク英首相、「堂々めぐり終わらせるべき」
スーナク氏は、最高裁の判断について、同意はしないが受け止めると述べた。
また、ルワンダとの正式な条約は、亡命希望者がルワンダから母国へ移送されることを防ぐものになるとした。しかし、ルワンダがこうした約束を守るかどうか懸念が生じている。
首相官邸での記者会見でスーナク氏は、法的な異議申し立ての「堂々めぐりを終わらせる必要がある」と述べた。
また、新たな条約と緊急事態法は、懸念に対処し、ルワンダが安全な国であることを確認するものだと説明した。
一方で、移送計画に対して、欧州人権裁判所(ECtHR)からさらなる申し立てを受ける可能性があるとした。
「(英)議会が国内の法律を変更しても、(フランス)ストラスブールにある欧州人権裁判所からの申し立てに直面する可能性がある。そういう事実があると、我々は正直に話さなけれなならない」
「私は、外国の裁判所が(不法入国者を乗せた)フライトを阻止することを認めない。ストラスブールの裁判所が(英)議会の意向に反して介入することを選択した場合、私には飛行機を離陸させるために必要なことをする用意がある」
英政府は不法入国者を乗せたルワンダ行きの便が「計画通り」来春までに離陸することを望んでいると、スーナク氏は述べた。
ただ、来年の実施が広く予想されている総選挙を前に、ルワンダ行きの便を出発させると約束することは慎重に避けた。
2018年以降、10万人以上がイギリスに不法入国している。ただ、今年は減少傾向にあるとみられる。
2022年には4万5000人が小型ボートに乗ってイギリスに渡った。今年は2万8000人(11月12日時点)と、昨年を下回るペースとなっている。
(英語記事 Supreme Court rules Rwanda asylum policy unlawful/We need to end Rwanda merry-go-round, says Sunak)