
パレスチナ自治区ガザ地区で攻撃を続けるイスラエル軍は16日、同地区最大のアル・シファ病院の近くで、人質に取られていた女性の遺体を発見したと発表した。他の人質も同病院にいたとみられるとし、院内での作戦を続けているとした。一方、同病院の院長は、酸素も水もなくなり、患者らが苦しんでいると訴えた。
イスラエル軍によると、北部ガザ市のアル・シファ病院に近い住宅で、イエフディト・ワイスさん(65)の遺体を発見した。先月7日にガザ地区のイスラム組織ハマスがイスラエルを襲撃した際、ベエリの自宅で拉致されたいう。
人質の帰還を求める団体によると、ワイスさんは乳がんで療養中だったが、連れ去られたときには薬を持っていなかったという。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は16日、ハマスに人質に取られた人々がアル・シファ病院にいたことを「強くうかがわせるもの」があったと米CBSの番組で説明。「それが私たちが病院に入った理由の一つだ」述べた。
イスラエルは、ハマスが同病院の地下に主要拠点を置いていると繰り返し主張している。ハマスはこれを否定している。
ネタニヤフ氏は、イスラエル軍が15日に病院に入った時には、人質はもうそこにはいなかったとし、「連れ出された」との見方を示した。
また、イスラエル政府は「人質に関する情報」をもっているが、「言及しないほうがいい」とした。
このインタビューでネタニヤフ氏はさらに、イスラエルの目標はガザの占領ではなく、「テロの再発防止」だと主張。「ガザを非武装化し、非過激化しなければならない」と訴えた。
イスラエルがガザを支配することについては、アメリカのジョー・バイデン大統領が「大きな間違い」になると警告している。
トンネルの縦穴発見と
イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官は16日の記者会見で、アル・シファ病院でトンネルの縦穴を発見したとし、映像を公開した。
また、「10月7日の大虐殺のために用意された、大量の武器や弾薬を積んだ仕掛けつきの車両が見つかった」とした。
そして、イスラエル軍は同病院での「標的を絞った活動」を続けているとした。
ハマスは同病院での活動を否定している。BBCはいずれの主張も独自に検証できていない。
イスラエルは15日にも、アル・シファ病院で撮影したとする映像を公開。武器や防弾ベスト、パソコンなどが見つかったとし、病院地下に司令センターが置かれていた証拠だと主張した。
これに対し、レバノンにいるハマス幹部のオサマ・ハムダン氏は、イスラエル兵が武器などを持ち込んだと根拠を示さずに反論。ハマスは病院から離れた場所にいたと述べた。
BBC取材班は、アメリカの放送局のチームと共に15日、イスラエル軍の案内でアル・シファ病院に入った。同病院に同軍が突入して以降で、メディアが病院内を取材したのはこれが初めて。
病院を制圧した翌日にメディアを入れたのは、この場所にイスラエル軍がいる理由を世界に示したいという、イスラエル側の意欲を物語るものだと、BBCのルーシー・ウィリアムソン記者は伝えた。
アル・シファ病院の状況
アル・シファ病院のムハンマド・アブ・サルミヤ院長は16日、同病院で酸素と水が不足しているとする声明を発表。「状況は悲惨で、病院にいる人々は喉が渇いて悲鳴を上げている」とした。
同院長によると、病院は戦車に取り囲まれており、上空ではドローン(無人機)が飛んでいるという。院内では救急病棟などでイスラエル兵が動いており、主要な水道管を爆破したという。
BBCは病院の現状を独自に確認できていない。
院内には患者650人以上、医療スタッフ500人、避難者5000人以上がいるという。医師は現在、診療科の間を移動できなくなっているという。
「狙撃作戦が続いており、建物から建物への移動ができない」と同院長は説明した。
ハマスが運営するガザ保健当局は、アル・シファ病院でイスラエル軍が「放射線科を破壊し、やけどと腎臓病の診療科を爆破した」と主張。「医師、けが人、避難者らを調べている」とした。
イスラエル軍は同病院での行動について、兵士らが「建物を1棟ずつ進み、各階を捜索している」としている。
同病院にいるジャーナリストのカデル氏は、「兵士があちこちにいて、あらゆる方向に発砲している」と、ガザ地区南部で取材するBBCのラシュディ・アブ・アルーフ記者に電話で話した。
カデル氏によると、兵士たちは「すべての診療科」を襲い、病院の南側の壁と車両数十台を破壊したという。
燃料不足で停電
ガザ地区では16日夜、すべての通信が途絶えた。インターネットも携帯電話のキャリア2社のサービスも利用できなくなった。
原因は燃料不足とされ、再開までにはかなりの時間がかかるとみられている。通信会社パルテルは先に、燃料がなくなりかけていると発表していた。
ガザ地区では現在、燃料の搬入は約2万5000リットルしか認められていない。この燃料はすべて、国連がエジプトからガザに必要不可欠な援助物資を輸送するために使われている。
通信が機能しなくなっているため、ガザ地区の情報を得るのが非常に難しくなっている。
ガザ住民の危機
ガザ住民の生活環境がいっそう危機的になっている。
世界保健機関(WHO)のマーガレット・ハリス報道官は、「ガザの人々は爆弾で殺されないとしても、病気で殺されてしまう」とBBCのラジオ番組で話した。
ハリス氏によると、ガザ住民らは「まん延する胃腸炎」、清潔な水の少なさ、降りしきる雨、機能しない下水システム、テント暮らしの人々の多さ――などの問題に直面しているという。
「公衆衛生の専門家でなくとも、どれだけ悲惨かわかる」とハリス氏は言い、現在の状況は「破滅的な事態」だとした。
一方、ガザ地区で最大の人道支援活動を行っている国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、燃料不足のため17日から、エジプトからガザに支援物資をトラックで運べなくなるとBBCに語った。
UNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長は、燃料不足によって活動を全面的に停止せざるを得なくなるかもしれないと説明。活動が意図的に抑え込まれていると訴えた。
ガザ地区への燃料供給をめぐっては、ハマスによる軍事転用の恐れがあるとして、イスラエルが認めてこなかった。
南部の住民に避難勧告
ロイター通信などによると、イスラエル軍はガザ南部ハンユニス地域にビラを投下し、四つの町の住民に自宅からシェルターに避難するよう警告した。
ビラには、「安全のため、直ちに居住場所から避難し、避難所に向かう必要がある。テロリストやその施設の近くにいる人は、命の危険にさらされる。テロリストが使用している家はすべて標的にされる」と書かれていたという。
同様のビラは、数週間前にガザ北部で投下され、その後にイスラエル軍が地上攻撃を実施した。
ハンユニスは人口約40万人だったが、北部からの避難者が押し寄せ、現在は100万人以上になっている。多くの人々が仮設キャンプや病院、学校の校庭で暮らしている。
(英語記事 LIVE Israel says body of hostage found as communications go down in Gaza)