
ジェレミー・ボウエン、BBC国際編集長
アル・シファ病院は、パレスチナ自治区ガザ地区北部ガザ市にある主要病院で、私も何度か行ったことがある。広大な敷地のこの病院は安全だろうと、ガザ市民が避難して、テントを張るなどして寝泊りした。
この病院が今や、戦争で対照的に交錯する攻撃と被害の象徴と化している。イスラエル軍によるガザ侵攻は多数の死傷者を出し、病院内は人道上の危機に直面しているのだ。
イスラエル側は、イスラム組織ハマスの司令部を捜索するだけでなく、燃料や保育器も院内に運び込んだと力説している。アル・シファ病院にいた早産児を保育器から出さなくてはならなかったと言われ、広く懸念されているからだ。
しかし、問題なのは、保育器ではなく燃料の不足だ。イスラエルは15日まで、ガザ地区への燃料の搬入を認めてこなかった。ハマスが燃料を盗んで戦闘に使用する可能性があるからだと。
15日には約2万3000リットル分の燃料の搬入が許可されたが、使えるのは国連の援助トラックだけだ。国連によると、この量は人道支援活動に必要な量のほんの一部に過ぎず、病院や水道施設、衛生施設の発電機を動かすための燃料の搬入は依然として禁止されている。
イスラエルは、ハマスが独自に備蓄している燃料を、病院の電気システムのための発電機に使うべきだとしている。
アル・シファ病院で16日朝に見られた展開には、さまざまな要素が絡み合っている。しかし、これが戦争のすべてではない。現在のイスラエルによる作戦が終わっても、こうした状況は続くだろう。
こうした中、イスラエルの攻撃をめぐり、国際社会がここ数日で立場を硬化させている。アメリカやイギリス、フランスはこれまでの論調を変えるような言葉を用いている。それが最もよく表れているのは、おそらく、先週末のアントニー・ブリンケン米国務長官の発言だろう。「あまりにも多くの」パレスチナ市民が殺された、そうブリンケン氏は述べた。
あとどれくらい時間をかけるのか
イスラエルは、協力国の間でこうした変化が起きることを分かっていた。イスラエルの軍事作戦をめぐり、これまでに何度も同じパターンが繰り返されてきたからだ。そして、軍事作戦の最中には常に、複数の時計が時を刻んでいるものだとイスラエルは言う。
一つは軍事的な時間の流れ。二つ目は外交的な時間だ。イスラエルが自分たちの軍事目標を達成するまでに、どれだけの時間が必要になるのだろうか。支援国から「人を、民間人を、もう十分殺したのだから、今すぐやめてくれ」と言われる前に、イスラエルは作戦を実行することの正当性をどれだけの時間保てるのだろうか。
10月7日のハマスの攻撃ではとてつもない人数の死傷者が出た。それゆえに、イスラエルは軍事作戦に使える時間はいつもよりあると感じているようだ。ガザ地区での死傷者の規模からわかるように、イスラエルは非常に強力な武力行使に出たと、私は思う。
イスラエル国防軍(IDF)が、あと数週間はこのようなかたちで活動を続けるのか、予測をいくつか目にした。しかし私は、この軍事作戦の性質を変える必要があると訴える力が、支援国の間で集まりつつあるとみている。
だからといって、これが作戦停止の訴えにつながるかというと、必ずしもそうではない。イギリスやアメリカからは、停戦を求める声はまだ聞こえてこない。
(英語記事 Bowen: Hospital raid comes as tone shifts on Israel)
提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-67447020