
ゾーイ・クラインマン、テクノロジー編集長
生成AI(人工知能)のチャットGPTを開発した米企業オープンAIの最高経営責任者(CEO)を解任されたサム・アルトマン氏(38)が、米マイクロソフトに入社することになった。同社が19日、明らかにした。一方、オープンAIの多くの社員は20日、アルトマン氏の復帰と取締役の総退陣を求め、受け入れられなければ同社を去るとしている。何が起きているのか。
世界を救うとも滅ぼすともいわれる未来の技術を保有する、巨額の価値がある企業の取締役会で、争いが繰り広げられた。
世界の指導者らが話を聞きたいと願う最高経営責任者(CEO)に対し、他の取締役らが敵意をむき出しにし、その地位から引きずり下ろした。
これは決して、私がネットフリックスに提案したいドラマの案ではない。実際にオープンAIでここ数日の間に、起きていたことを要約するとこうなる。
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テクノロジージャーナリスト、熱狂的ファン、投資家らは、この展開を食い入るように見てきた。ただ、これが果たして本格的なスリラーなのか、それとも滑稽劇なのかは、意見が分かれるところだ。
発端は?
オープンAIの最上層部で突如として争いが起きたのは、17日のことだ。取締役会が、同社共同創業者のアルトマンCEO(当時)を解任したと発表した。
取締役会はアルトマン氏について、「一貫して率直なコミュニケーション」を取らなかったと、ブログ投稿で非難。彼のリーダーシップに対して「信頼を失った」とした。
同社の取締役会は6人しかいない。その中にはアルトマン氏と、同社共同創業者のグレッグ・ブロックマン氏が含まれている。ブロックマン氏は、アルトマン氏の解任後に辞任した。
つまり、アルトマン氏と同社のことをよく知る他の4人が限界点に達し、あまりに事態が深刻なため、即座に行動を起こしたわけだ。この動きはテクノロジー業界全体を驚かした。同社に投資している人たちにとっても、寝耳に水だったとされる。
オープンAIの共同創業者でもあるイーロン・マスク氏は、「とても心配している」とX(旧ツイッター)に書いた。
そして、オープンAIの科学主任で取締役のイリヤ・サツキーヴァー氏について、「このような極端な行動は、絶対に必要だと感じない限り、彼は取らないはずだ」とした。
サツキーヴァー氏自身は現在、後悔の念を明らかにしている。また、アルトマン氏とブロックマン氏の復帰を求めて取締役会に宛てられた激しい内容の手紙に、他の多くの人々と共に署名。2人の復帰が認められなければ、自分たち全員がオープンAIを去る可能性があるとしている。
原因は?
この雪だるま式に拡大した急展開は、何が原因だったのか。実のところ、まだわかっていない。しかし、いくつかの可能性が考えられる。
アルトマン氏は、AIチップの資金拠出や開発など、ハードウェアのプロジェクトをいくつか検討していたとされる。これはオープンAIを大きく方向転換させるものだっとみられる。アルトマン氏は取締役会の知らないところで、何らかのコミットメントをしたのだろうか。
それとも、結局のところは、昔ながらの人間的な争いの種――つまりお金――に行き着くのだろうか。
すでに多くのメディアが報じている内部メモの中で、取締役会はアルトマン氏について、「財務上の不正行為」があったわけではないと強調している。
しかし、オープンAIは非営利団体として設立された。これは、同社が金もうけを目的としないことを意味する。売り上げから運転費用を賄うのに十分なだけを取り置き、余りは事業に投資する。ほとんどの慈善団体も、こうした非営利団体として活動している。
オープンAIは2019年、新たな部門を設立した。営利に関連した部門だった。同社はこれらを共存させようとした。営利部門は非営利部門が主導するとし、投資家が手にする利益には上限を課すとした。
これを誰もが歓迎したわけではなかった。マスク氏がオープンAIから離れたのは、これが主な理由だったとされる。
ところが、オープンAIは現在、とてつもなく大きな価値をもつ企業となっている。社員らがもっている未公開の株式をすべて売却すれば、860億ドル(約12兆7000億円)になると報じられている。
営利企業としての側面をもっと強化ようという、そうした野望があったのだろうか。
結末は?
オープンAIは、汎用(はんよう)人工知能(AGI)の開発を目指している。まだ存在していないもので、恐怖と畏怖の両方を呼んでいる。基本的に、人間(つまり私たち)が現在できるのと同じように、あるいはそれ以上に、多くの作業をこなせるAIツールをいつか登場させようとしている。
これが登場すれば、私たちの行動をそっくり変える可能性がある。機械が様々なことを代わりにできるようになれば、仕事、お金、教育などすべてのやり方が一から変わる。信じられないほどパワフルな道具だ。現存はしないが、少なくともそうなるだろうと言われている。
オープンAIは私たちが思っている以上に、その実現に近づいていてるのだろうか。そしてアルトマン氏は、そのことをわかっているのだろうか。同氏はつい最近の講演で、来年には現在のチャットGPTは「古くさい親類」のように思えるだろうと話した。
だが、そうなる可能性は低そうだ。オープンAIの新たな暫定CEOとなったエメット・シアー氏は、「取締役会は安全性に関する特定の意見の違いを理由にサムを解任したのではない」とXに投稿した。
シアー氏は、何が起こったのか調査するとしている。
オープンAIの最大の出資者マイクロソフトは、アルトマン氏がこの技術を他所に持ち出すのを防ぐことにした。シアトルに本拠を置く巨大ハイテク企業のマイクロソフトは、アルトマン氏が入社し、これから創設するAI研究チームを率いると発表した。ブロックマン氏も一緒に入社し、オープンAI社員のXへの投稿から判断すると、同社の優秀な人材も何人か連れて行くことになりそうだ。
多くのオープンAI社員が、Xで同じ投稿をシェアしている。「人なくしてオープンAIなし」というものだ。
これはシアー氏へ、人を採用する必要があるだろうと告げる警告だろうか。サンフランシスコのオープンAI本社前にいるBBCの同僚によると、現地20日午前9時半(日本時間21日午前2時半)時点では、出社する人の気配はなかったという。
それとも、世界を再構築するテクノロジーをめぐる物語ではあるものの、結局は非常に人間くさいドラマだと思い起こさせるものなのだろうか。
(英語記事 Sam Altman: What on earth is happening at OpenAI?/OpenAI staff demand board quit over Altman sacking)
提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-67482515