2023年12月9日(土)

BBC News

2023年11月21日

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パレスチナ自治区ガザ地区北部のインドネシアン病院で20日、イスラエル軍による空爆があり、少なくとも12人が死亡した。ガザ地区のイスラム組織ハマスが運営する保健省が発表した。

BBCは、この病院にイスラエル軍の戦車が近づいていく様子の映像を確認・検証した。

イスラエル軍は、病院の「敷地内」から攻撃を受けたと説明。「敵の特定の攻撃地点を直接標的にした」が、病院に向かっては爆撃しなかったとしている。

イスラエル軍はかねて、この病院は「ハマスが地下の司令部を隠すために使って」おり、病院自体が既存の「テロ・インフラ」の上に建てられたのだと主張していた。

北部ジャバリア難民キャンプの近くにあるインドネシアン病院は、「MER-C」という組織が設立し、インドネシアからの寄付で運営されている。病床数は110。

ガザ地区の保健省によると、攻撃前、同病院には負傷者や医療スタッフを含めて700人がいた。

同保健省は、空爆によって12人が亡くなったと発表。イスラエルが「インドネシアン病院を完全に機能停止に追い込もうとしている」と述べた。

インドネシアン病院のマルワン・アル=スルタン院長は先に、イスラエル軍が病院から20メートルのところまで来ていると説明。銃声があちこちから聞こえ、術後ケア部門が攻撃されたと述べていた。

また、攻撃が報じられた後にもBBCに対し、「断続的に銃声」が聞こえると話し、500人がなお院内にいると述べた。その上で、この攻撃はイスラエルによる致命的な爆撃だと語った。

ガザ地区の保健省は、インドネシアン病院から患者200人が避難したと発表。患者らはバスで同地区南部ハンユニスのナセル病院に搬送されたという。また、赤十字が残りの患者400人の避難を助けているとした。

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10月7日にハマスがイスラエルを襲撃して以来、イスラエルは空爆や地上部隊を使ってガザ地区を攻撃。先にはガザ地区最大のアル・シファ病院にも、ハマスの拠点があるとして攻撃を行った

ガザ地区の保健省は11月20日、これまでに1万3300人がイスラエルの攻撃によって殺され、うち少なくとも5600人が子供だと発表した。

イスラエルによると、ハマスのイスラエル襲撃では約1200人が殺害され、240人以上が人質として連れ去られた。

イスラエルは病院爆撃を否定、WHOやインドネシアは批判

イスラエル軍は声明で、「19日の夜、テロリストがガザ地区のインドネシアン病院内から、病院の外で活動するイスラエル国防軍に向かって発砲した」と説明。

「これに対しイスラエル部隊は、敵の特定の攻撃地点を直接標的にした。病院に向かっては爆撃しなかった」と述べた。

また、「病院を拠点に活動するテロ組織」と戦うという困難な状況にもかかわらず、イスラエル軍は国際法を順守し、「非戦闘員への被害を最小限に抑えるために数多くの手段」を講じたのだと述べた。

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、インドネシアン病院への攻撃は「とんでもないことだ」とソーシャルメディアに投稿。この攻撃で「患者を含む12人の死者と、重体や命にかかわるものを含む数十人の負傷者」が出たと報じられていると述べた。

その上で、「医療従事者や一般市民がこのような恐怖にさらされることがあってはならない。特に病院内では」と付け加えた。

インドネシアのレトノ・マルスディ外相は、イスラエルがインドネシアン病院に空爆を行った疑惑について非難。「この攻撃は明らかに国際人道法違反だ」と指摘した。

マルスディ外相は、「全ての国、特にイスラエルと近しい国々は、あらゆる影響力と能力を使って、残虐行為を止めるようイスラエルに働きかけるべきだ」と述べた。

MER-Cのトップは17日の時点で、インドネシアン病院が「悲惨な状況にある」と説明していた。また、病院にハマスの施設があるというイスラエルの主張は、「今後の攻撃を正当化するため」につくられたのだと話していた。

BBC検証チームが映像確認

パレスチナのテレグラムアカウントは20日午前7時23分、戦車がインドネシアン病院に近づいていく様子をとらえた映像を投稿した。

BBCヴェリファイ(検証チーム)はこの映像から、この場所がインドネシアン病院から北東に240メートルの地点だと確認した。

映像では、大通りの左側に高層ビル群やコンクリートの壁、赤い屋根の低い建物が確認できる。また、建物から通りの反対側には空き地があることから、戦車の位置が特定できた。

BBCはこの映像から3枚の画像を抽出し、逆引き検索を行った。グーグルにはこれらの画像が過去に存在した形跡はなく、この映像が最近アップロードされた可能性がきわめて高い。

映像内の曇り空や、映像左下の木からわかる、強い東寄りの風も、20日朝のガザ地区の天候と一致している。

ハマス幹部「停戦合意近い」と発言、人質解放にも光か

亡命中のハマス指導者イスマイル・ハニヤ氏は21日、「カタールの兄弟と仲介者に回答を伝え、停戦合意に近づいている」と述べた。各通信社やパレスチナのニュースメディアが伝えた。

アメリカのジョー・バイデン大統領も20日、イスラエルの攻撃停止と引き換えにハマスからの人質解放を確保する取引は近いと考えていると述べた。

バイデン氏は毎年恒例の感謝祭のイベントに出席。合意が近いという報道について記者に尋ねられると、「うまくいきますように」など期待の意味を持つ、人差し指と中指を交差させるジェスチャーをして「そう思う」と述べた。

イスラエルのマーク・レゲヴ首相上級顧問もこの日、合意はイスラエル軍がハマスにかける圧力にかかっているとの見解を示した。

「多くの人が前より少し明るくなった理由は、ハマスが停戦を必要としているからだ。ハマスは休息と再編成の時間を必要としている」と、レゲヴ氏はBBCに語った。

その上で、「人質の解放が、停戦には不可欠だ」と話した。

ハマスの人質となった人々の解放交渉に進展があるとの見方が、ここ数日で高まっている。

イスラエルのマイケル・ヘルツォグ駐米大使は19日、ハマスに連れ去られた多数の人質の解放をめぐる合意が、「数日中に」まとまることに期待していると語った。

解放交渉を仲介するカタールも、合意を実現できるところまで来ているとしている。

人質をめぐってはこれまでに、アメリカ人母娘イスラエル人女性2人が解放されている。

BBCのトム・ベイトマン中東特派員は、双方は段階的な人質解放を検討しているのではないかと指摘。停戦と並行しして少ない人数の人質を解放し、停戦が維持されれば、より多くの人質が解放される可能性があると報じた。

他にも、イスラエルが拘束しているパレスチナ人受刑者の一部(おそらく女性や未成年者)の解放も、合意の一部となる可能性があるという。

赤十字国際委員会がハマスと会談

赤十字国際委員会(ICRC)は20日、ミリアナ・スポリアリッチ事務局長がカタールを訪問し、「イスラエルとガザの武力紛争に関する人道問題を進展させるため」ハマスとカタール政府の代表と会談したと発表した。

ICRCは、人質解放交渉には不参加を強調しているが、合意内容の実施に協力する姿勢を示している。今回のカタール訪問とハマスとの会談により、人質解放の交渉が加速するとの憶測も出ている。

一方、イスラエル国内からは、なぜICRCはガザの人質を訪問しないのかとの声も上がっている。ICRCはこれに対し、「ICRCがこの活動を安全に遂行できるような合意に達する必要がある」と説明した。

「ICRCは、人質が拘束されている場所に強制的に立ち入ることはできないし、その居場所もわからない」

アル・シファ病院になお患者=WHO

ハマスの運営するガザ地区の保健省は20日、イスラエル軍の攻撃を受けたアル・シファ病院について、患者259人を含む700人がとどまっていると発表した。

ガザ市などで攻撃を続けるイスラエル軍は、ハマスがアル・シファ病院の地下に大規模な司令部を構えていたと主張し、攻撃を続けた。同病院は現在、イスラエル軍の管理下にある。

世界保健機関(WHO)は、同病院の状況を「死の地帯」だと呼んでいた。

アル・シファ病院からは、患者ら数百人が18日、避難した。19日には赤新月社が、国連と連携して早産児31人を避難させている

しかし保健省報道官はテレグラムで、「足止めされている人の避難」に進展がないと発言した。

WHOのリック・ブレナン氏はBBCに対し、最も移動が難しい人々が同病院に残っていると説明。脊椎損傷の患者が29人、腎臓疾患の患者が22人いるほか、「複雑な戦傷、ひどい骨折、四肢の切断、ひどいやけど」を持つ人々がおり、「その多くが深刻な傷口からの感染を併発している」と語った。

燃料や医療設備が到着

米ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報担当調整官は20日、ガザ地区に燃料供給が始まったと発表した。イスラエル政府は19日、これまで禁止していた同地区への燃料供給について、非政府組織からのみ許可すると発表していた。

カービー氏によると、この日は6大のトラックで計1万8000ガロンの燃料がガザ地区に到着。食料供給の支援になるほか、病院の運営に必要な発電機が使えるようになるとした。

ただし、国際救済委員会(IRC)は、ガザ地区への救援はなお不十分だとしている。

また南部ハンユニスでは、この戦争が始まってから初めて、仮設病院の設置が始まった。ハマスが運営するガザの病院当局が発表した。

仮設病院の設備は、ヨルダンから送られた。ヨルダンは2009年から同地区で仮設病院を運営しており、これまでも医療物資を送っている。

一方、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)はこの日、ガザ地区全域が悪天候と大雨に見舞われていると、ソーシャルメディアに投稿。「シェルターは人が住める状況ではない」と警告した。

ガザ地区ではイスラエル軍の攻撃に伴い、数十万人が家を追われ、テントなどで暮らしている。

(英語記事 Live Page: Biden believes deal for Hamas to release hostages is close

提供元:https://www.bbc.com/japanese/67482330


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