
ダヴィデ・ギリオーネ、BBCニュース(ローマ)
イタリアでここ数十年で最大のマフィア関連裁判が行われ、200人以上の被告に対し、合計2200年超の禁錮刑が言い渡された。
2021年から始まった裁判では、イタリアのマフィア「ヌドランゲタ」に関わったとされる複数の被告に対し、恐喝から違法薬物取引まで、さまざまな犯罪で有罪判決が下された。
ヌドランゲタは、欧州で最も影響力のある犯罪組織の一つ。
この裁判は、南イタリアの政治と社会に対してマフィアがいかに幅広い影響力を持つか、あらわにした。複数の公務員やビジネスマン、政治家たちが有罪になったことで、組織犯罪がさまざまな形でイタリアの諸機関に入り込んでいる様子が示されたと、複数の専門家が指摘する。
高名な被告の中には、イタリアの元上院議員も含まれている。弁護士で元上院議員のジャンカルロ・ピッテッリ被告は、シルヴィオ・ベルルスコーニ元首相が率いた中道右派政党「フォルツァ・イタリア」に所属していた。ピッテッリ被告はマフィア系組織との汚職で禁錮11年を言い渡された。
有罪になった公務員やさまざまな分野の専門家、政府高官たちは、ヌドランゲタが合法的な経済と国家機関に入り込むため、不可欠な役割を果たしたと判断された。
一方で、100人以上が無罪となった。
この裁判の担当裁判官らは、安全への懸念から、警察が警備にあたっている。
ヌドランゲタは、イタリア半島の「つま先」部分にあたるカラブリア州にルーツを持ち、今や世界で最も危険な犯罪組織の一つとされている。欧州のコカイン市場の最大8割を支配すると、推定される。
同組織の年間収益は、600億ドルにも上るとみられる。
600人の弁護士と900人の証人
今回の裁判は、カラブリア州ラメツィア・テルメ市近郊にあるコールセンターを改造した法廷で行われた。厳戒態勢の法廷には、被告人らが座る檻(おり)などが設置され、600人の弁護士と900人の証人が収容できる広さだった。
罪状は殺人、恐喝、麻薬取引、高利貸し、職権乱用、マネーロンダリング(資金洗浄)など多岐にわたった。
3年にわたる審理では、ヌドランゲタがどのように世界各国に手を広げ、イタリアを遠く離れた南アメリカやオーストラリアでも活動していたかが示された。構成員は地域経済や公共機関、保健システムにまで食い込み、入札を操作したり、地元の公務員にわいろを渡したりしていたという。
マフィアに対する裁判としては1980年代以来最大規模のもので、裁判官らは数千時間に及ぶ証言を検証した。司法に協力した元マフィアたちは、カラブリア州南西部のヴィボ・ヴァレンツィア市を広範囲に支配するマンクーゾ家とその仲間の活動について証言した。
リンバディの町出身のマンクーゾ家は、ヌドランゲタを構成する150もの家系の中でも特に有力な家系の一つ。
英エクスター大学のアンナ・セルジ教授(犯罪学)は、「この裁判では、恐喝や麻薬密売など伝統的に犯罪組織に関係の深い罪状で有罪判決が出たので、いかにも古典的なマフィアの事件だ」と説明した。
「しかし、ホワイトカラーを含むさまざまなタイプの人々の関わりが分かったことで、州全体とさまざまなマフィア一族のつながりが、より包括的に見られるようになったことも重要だ」
被告の大半は、少なくとも11州にまたがり2016年から行われた大規模捜査の結果、2019年12月に拘束された。マンクーゾ家が支配するヴィボ・ヴァレンツィアでの強制捜査には、警官約2500人が参加した。
一方、50人以上のマフィアの元構成員が裁判に協力した。これには一族のボスとされるルイージ・マンクーゾ被告のおい、エマヌエレ氏も含まれていた。
こうした人々の証言により、イタリア最大規模のマフィアの内幕が明らかになった。裁判では、ヌドランゲタのメンバーが墓地の礼拝堂に武器を隠したり、救急車を麻薬運搬に使ったり、大麻栽培のために公共の水道を迂回(うかい)させたことが指摘された。
また、ヌドランゲタに反対した人々は、玄関に死んだ子犬やヤギの頭を置かれたり、車に放火されたり、店舗のウィンドウを破壊されるなど、嫌がらせを受けていた。
作家で組織犯罪に詳しいアントニオ・ニカーゾ氏は、「この最初の判決は、ヌドランゲタが持つ政治的、経済的、財政的なつながりのために、ヌドランゲタと闘うことがいかに大変かを示している」と述べた。