2024年12月7日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年8月27日

 8月6日、ウクライナ軍はロシア領クルスク州に越境して侵攻する作戦を突如開始したが、フィナンシャル・タイムズ紙の8月13日付け社説‘Ukraine’s audacious counter-incursion into Russia’が、その作戦の目的を分析し、作戦の意義を検討している。要旨は次の通り。

ロシア国内への意表を突く侵攻を成功させたゼレンスキー大統領(Carl Court / スタッフ/gettyimages)

 ウクライナのクルスク州への突然の侵攻は大胆以外の何ものでもなかった。それは巨大なギャンブルでもある。

 東部の前線からウクライナの精鋭部隊の一部を割いて振り向けることは無謀と思えるかも知れない。しかし、キーウがこの作戦が過剰に高価につく努力に転ずることを避け得るのであれば、その報酬はリスクを潜在的に上回ることになる。

 国境から30キロメートル(㎞)を超える進撃は8月6日に始まった。10日になってゼレンスキーはこの侵攻を確認したが、その目的についてはほとんど何も語らなかった。

 敵の領土に奇襲攻撃をかけて、形勢を逆転させ、あるいは軍事的膠着を打破することを試みることは、由緒正しい戦術である。このケースでは、ドンバス地域からロシア軍の一部を引き剥がし(今年、ドンバス地域では、ロシアは高価についたかも知れないが着実に制圧地域を拡大して来た)、ウクライナの防御陣に対する圧力を緩和することになり得よう。

 侵攻作戦は、ロシアの最大の脆弱性、すなわちその長大な国境を暴き利用するものである。それは、モスクワに、ウクライナ領内で同様の襲撃に対して前線を守るために使えたはずの兵と装備の一部を再配置することを強いることになるかも知れない。

 確かに、このウクライナの進撃の最大のインパクトは心理的なものである。2年半の戦争で疲弊したウクライナ人に対しては――世論調査によれば、彼等は和平交渉により前向きになっている――、彼らの軍には依然として積極的なショックを与える能力があることを証明する。ロシアでは、クレムリンが多大の努力で維持して来た無敵の物語に穴を開ける。

 ウクライナは、戦場での成功が同盟諸国に軍事支援を強化するよう説得する最善の方法であることを学んでいる。西側が供与した装甲車両と防空兵器を利用して高度に機動的な攻撃を遂行することにより、キーウは西側にそのような支援は無駄でないとのメッセージを送っている。ロシア領土を幾分なりとも手中にしていることは、モスクワとの交渉に当たって、ウクライナの立場を強化し得るであろう。


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