2024年10月11日(金)

BBC News

2024年9月23日

アイーシャ・ペレイラ、ジョール・ギント

スリランカ大統領選で22日、歴史的な再集計を経て、野党の左派勢力「国民の力(NPP)」を率いるアヌラ・クマラ・ディサナヤカ氏(55)が当選した。同氏は23日には首都コロンボで宣誓就任し、「政治体制に対する国民の尊敬と信頼を取り戻すため、私たちは最善を尽くす」と約束した。

ディサナヤカ新大統領は「新しいクリーンな政治文化を確立する必要がある」と述べ、「私はこれを確実に実現するため取り組む」と強調した。

国内では「AKD」と愛称で呼ばれることの多いディサナヤカ氏は、「民主主義とは、指導者を選挙で選んでそれでおしまいではない」として、「私たちは民主主義を強化しなくてはならない。民主主義を守るために、できる限りのことをすると約束する」と述べた。

その一方で「私は魔法使いではないと前から言っている。私は普通の市民だ。わかっていることも、わかっていないこともある。私は、知識と技術を持つ人たちを集めて、その人たちの助けを得てこの国を引き上げるつもりだ」と述べた。

就任式の前には、ディサナヤカ氏は、「シンハラ、タミル、ムスリム、そしてすべてのスリランカ人の団結が、この新しい始まりの礎(いしずえ)だ」と強調した。

異例の2回集計

21日投票が行われた大統領選では、1回目の集計で50%を獲得した候補がいなかった。この時点でディサナヤカ氏の得票率は42.31%、野党「統一人民戦線」の党首サジト・プレマダーサ氏は32.76%だった。

スリランカでは、当選するには得票率50%を超える必要がある。さらに、有権者が投票する際に、第1~3希望まで候補者名を記入できる。このため、上位2人の野党候補による票の再集計を行った結果、有権者に良い統治と汚職取り締まり強化を約束したディサナヤカ氏の勝利が決まった。

選挙管理委員会によると、ディサナヤカ氏は計574万179票を獲得。プレマダーサ氏は453万902票だった。スリランカの有権者は約1700万人で、投票率は約76%だった。

ディサナヤカ氏は選挙結果についてソーシャルメディア「X」で、「この勝利は私たち全員のもの」だと書いた。

スリランカでは2022年、深刻な経済危機から長期的な抗議行動が続いた。当時のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領が国外脱出した後、辞任するに至り、ラニル・ウィクラマシンハ首相が大統領代行に就任したのち、国会での選挙で勝利し後任の大統領になった。

今回の選挙は、この2022年の反政府運動以降、最初の大統領選だった。ウィクラマシンハ大統領は今回の選挙で17%の票を獲得し、3位となった。このため2回目の集計からは除外された。

ウィクラマシンハ大統領はディサナヤカ氏の勝利をたたえ、「最愛のこの国への愛情と敬意をこめて、その未来を新しい大統領に託す」と声明で述べた。

スリランカでは1982年以来、大統領選の結果は1回目の集計で確定するのが常だった。それに対して今回の選挙は、スリランカの歴史上、特に激しい接戦だとされてきた。

選挙管理委員会は、今回の選挙は、国の歴史上最も平和的なものだったと評した。それでも警察は21日深夜、「公共の安全」のためとして翌日正午までの外出禁止令を発表した。

2022年経済危機が転機に

スリランカは2022年、他国からの借金が返せなくなるデフォルト(債務不履行)に陥った際、国際通貨基金(IMF)から支援を得ると同時に、財政健全化などの対策を約束している。

ディサナヤカ氏は今回の選挙で、経済立て直しのため、製造業、農業、IT分野の発展に力を入れると公約してきた。また、IMFとの合意順守を約束する一方、合意履行のための緊縮策が国内の低所得層にもたらす打撃を、減税策などで緩和すると掲げてきた。

選挙戦ではディサナヤカ氏が汚職取り締まり強化と良い統治を約束したことから、経済危機を機に国政の抜本的な改革を求めてきた有権者に支持された。

ディサナヤカ氏が率いる「スリランカ人民解放戦線(JVP)は、」マルクス主義を掲げる民族主義政党。1970年代と1980年代に政府に対して武装蜂起を起こして弾圧された過去を持つが、JVPのその過去に対する有権者の懸念よりも、ディサナヤカ氏の公約への支持が今回勝った。

ディサナヤカ氏が中心になり、JVPも参加する左派連合「国民の力」は、2022年の反政府抗議の中で国政での存在感を増していった。同氏は近年では、党内の強硬派を抑え、JVPを極左から中道左派へと近づける取り組みもしてきた。

(英語記事 Left-leaning leader wins Sri Lanka election in political paradigm shift

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c0kjgp8dnpgo


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