2024年10月6日(日)

BBC News

2024年9月23日

ケイトリーナ・ペリー、BBCニュース(米ミシガン州ディアボーン)

米ミシガン州ディアボーンにある「サハラ・レストラン」のテレビでは、アラビア語のニュース番組が、パレスチナ自治区ガザ地区での戦争や、レバノンで最近起きた通信端末の爆発事件について、衝撃的な映像を流している。

店内には、カルダモンで香りづけされたコーヒーや、シャワルマやファラフェルのにおいがあふれ、近況を語り合う人々の声が響いている。テレビに映る情景とは非常に対照的だ。

ディアボーンは、アメリカで初めてアラブ系住民が人口の過半数を占めるようになった都市だ。そして現在、ジョー・バイデン政権の対中東政策に反対する 「uncommitted(支持者なし)」運動において、中心的な役割を果たしている。

ミシガン州は、2020年にバイデン氏がわずか3ポイント以下の差で勝利した、中西部の重要な激戦州だ。サハラ・レストランに通うようなディアボーンの有権者が、民主党大統領候補カマラ・ハリス副大統領の政治的将来を決めるかもしれない。

過去30年間、家族でサハラ・レストランを経営してきたサム・ハムードさんは、税金とインフレがビジネスに悪影響を及ぼしていると語る。しかし、ハムードさんの投票に影響するのは、それとは別のことだ。ハムードさんは現在、誰に投票するかまだ決めていない。

「(投票で)重要なのは故郷の状況だ」と、ハムードさんは話した。

「停戦が必要だ。だが停戦はない。もうそれ以上、何も言うことはない」

多くのディアボーン市民が、ハムードさんと同じ思いを抱えている。アラブ系アメリカ人のコミュニティーは、何カ月も前から民主党に対し、今回の大統領選挙で自分たちの支持を自動的に当てにしないようにと警告してきた。

「支持者なし」運動は、今年前半の民主党予備選で始まった。パレスチナ支持の活動家たちが、バイデン政権のイスラエル支持に抗議するため、大統領候補選びで「支持者なし」の代議員を選ぶよう呼びかけた。

先週には、伝統的に民主党支持者だった人々が所属する政治団体「アンコミッテッド・ムーブメント(支持者なし運動)」が、ハリス氏を支持できないとする声明を発表した。ハリス氏が「無条件の武器政策について方針を変えるつもりがなく、選挙に際して、既存のアメリカ国内の人権法と国際人権法を支持すると明確に声明を出すつもりもない」からだとしている。

第3党の候補への投票も視野に

デトロイト郊外の弁護士、スジュード・ハマデさんは、アラブ系アメリカ人弁護士協会ミシガン支部の支部長でもある。

過去の選挙では民主党のために戸別訪問するなど地域で応援活動をしたし、自分のその活動が2020年のバイデン大統領当選に貢献したと感じている。バイデン氏はわずか2.78%の差でミシガン州を制した。

しかしハマデさんは今回、緑の党のジル・スタイン候補に投票するつもりだ。

そういう考えの人は、ハマデさんだけではない。人権団体「米イスラム関係評議会」が8月に行った世論調査によると、ミシガン州ではイスラム教徒の40%がスタイン氏を支持し、18%が共和党のドナルド・トランプ候補を支持、ハリス氏を支持したのはわずか12%だった。これまでの力強い民主党支持から、大きな変化があることがみてとれる。

ハマデ氏は、「伝統的に」民主党を支持してきたミシガン州のアラブ系アメリカ人有権者は、「祖国や国外にいる親族の死と破壊に、直接的に加担している人物に投票するのは我慢ならない」のだと語った。

ハリス氏が、共和党のディック・チェイニー元副大統領の支持を歓迎したことも、ハマデさんにとって深刻な懸念材料だった。

ハマデさんは、チェイニー氏が2003年のイラク侵攻に関与していることから、自分たちのコミュニティーにとって好ましくない存在なのだと話した。

「アメリカ人として、民主党が進む方向性をいま目にして困惑しているし、がっかりしている」

「これは私たちが民主党支持者として掲げてきた価値観ではない。私たちは戦争の党ではなかった」

カフェやレストラン、個人経営の店がひしめくディアボーンは、中小企業の経済活動が盛んだ。同時に、中東の紛争に深く影響される強いコミュニティーでもある。

この地域で薬局と医療センターのチェーン店を経営するマイサ・ハイダー=ベイドゥンさんは、自分は生涯を通して民主党党員だが、ハリス氏を支持できるかどうかはわからないと語った。

自分たちのコミュニティーは「道徳的なジレンマ」に陥っていると、ハイダー=ベイドゥンさんは述べた。

「私たちは善良なアメリカ人で、納税者で、法律を守る善良な市民だ。しかし私たちの税金が海外に送られ、私たちと実際に親類関係のある人々を殺すのに使われている」

ミシガン州で2月に行われた民主党の予備選挙では、党の大統領候補を選ぶ手続きの一環として、このコミュニティーの10万人以上が、バイデン=ハリス政権の対ガザ政策に抗議して「支持なし」を表明した。

また、ホワイトハウスとの会談を求め、ハリス氏に対し、イスラエルに対するアプローチがバイデン氏のそれとどのように異なるのか、概要の説明を求めたという。

「アンコミッテッド・ムーブメント」はハリス氏を批判する一方で、「反戦組織への弾圧を強めつつ、ガザでの殺害を加速させる計画を含む」トランプ候補にも反対している。

同団体は、スタイン氏のような第3党候補への投票を推奨していない。

トランプ候補は、イスラエルの戦争遂行方法に批判的な時期もあったが、イスラエルの支持者だと自認している。親パレスチナ派の抗議活動を非難したほか、大統領時代にはアメリカ大使館をエルサレムに移転することでパレスチナ人を怒らせた。また、自分が大統領だったなら戦争は起きなかったと主張するものの、紛争終結への計画についてはほとんど語っていない。

地域住民のため様々な活動を取りまとめる「コミュニティー・オーガナイザー」で薬剤師のモナ・マワリ博士も、「支持者なし」運動に参加した一人だ。マワリさんはBBCの取材に対し、11月にどのように投票するかまだ決めかねており、「本当に難しい決断」だと語った。

マワリ博士はガザで起きていることを、「大量虐殺」と呼ぶ。そしてガザの状態についてハリス氏が口にする言葉は、バイデン氏よりも「少しは共感性が増しているかもしれない」と言う。それでも、ハリス氏を支持するのは難しいと博士は話す。

ハリス氏は、米政府のイスラエル支援についてバイデン氏と自分は同じ意見だと述べつつも、ガザでの人的被害の大きさについてはバイデン氏よりも強い表現で問題視している

マワリさんは、「コミュニティーは本当に動揺しているし、リップサービスはリップサービスに過ぎないと、とても敏感になっている。ハリス氏が何の行動もとらないなら、彼女には投票できない」と述べた。

レバノン情勢も影響

最近のレバノン情勢も、地域紛争のエスカレーションへの懸念を高めている。ここのアラブ系アメリカ人コミュニティーにとってはさらに、現地の家族への影響も不安の種だ。

フェイ・ネマーさんは10歳のとき、政情不安と暴力から逃れるため、レバノンを離れて渡米した。現在は中東・北米アラブ商工会議所の最高経営責任者(CEO)を務めている。

一家がレバノンを離れる前、ネマーさんは自分の国で「難民として生活」し、「廃墟と化したオフィスビル」を行き来していたという。

そして今、ネマーさん100万人以上が家を追われているガザ地区の状況を、独自の視点から、とりわけ子どもたちの経験という視点を通して見ている。

ネマーさんのきょうだいと親類の多くは、まだレバノンにいる。「そのことを第一に考えずに、毎日を過ごすのは難しい」と、ネマーさんは語った。

これまで一貫して民主党を支持してきたネマーさんは、どう投票するか、あるいはそもそも投票するのかどうかを、まだ決めていない。第3党候補への投票も検討している。

2020年の国勢調査で、自分は中東系と答えたアメリカ人は約350万人。人口の約1%にあたる。その多くは、ミシガン州やウィスコンシン州のような激戦州に集中している。

マワリさんによると、「支持者なし」運動は決して、有権者が無関心になり投票しないことを望んでいるのではない。そうではなく、自分が正しいと信じる形で投票することを願っているのだと、マワリさんは強調する。

「投票しないという選択肢はない。それは、今起きている事態への答えにならない」

(英語記事 Michigan Arab-Americans 'can't stomach' Harris stance on Gaza

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cp8lyep83g7o


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