ジェレミー・ボウエンBBC国際編集長
レバノンにとって23日は、イスラム教シーア派組織ヒズボラとイスラエルの2006年の戦争以降で、最も多くの死者が出た日となった。
イスラエルはこの日朝、大規模な空爆を開始。レバノン政府は、これまでに492人が殺害されたとしている。イスラエルはさらなる攻撃を警告している。
戦争は急速にエスカレートしている。イスラエルの空爆の規模がそれを加速している。
イスラエルは、攻撃目標がある地域の住民に避難するよう警告している。次は、ヒズボラの拠点であるレバノン北東部のベカー渓谷(高原)だとしている。
今回の事態深刻化の前から、レバノンの住民10万人以上が、イスラエル軍の攻撃のために家を離れざるを得なくなっていた。それらの人々が早期に帰宅できる見込みはない。
今回起きたのは、イスラエルによるまた新たな大規模エスカレーションだ。
おそらくイスラエルは、ヒズボラがいま弱体化しており、大きなダメージを与えて、イスラエルとレバノンの国境の両側で丘陵や町における戦略的状況を変える好機だと考えているのだろう。
イスラエルとヒズボラの紛争は何十年も続いている。ただ現在の戦争は、昨年10月7日にパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃した翌日に始まった。
ヒズボラは国境を越えてイスラエルに、限定的ではあるものの継続的にロケット弾を発射し始めた。イスラエル部隊を足止めし、イスラエルの資産や人々に損害を与えるのが目的だった。これにより、約6万人のイスラエル人が国の中心部への避難を余儀なくされている。最近、それらの人々を自宅に戻すことが、イスラエルの戦争目的のリストに追加された。
アメリカやイギリスなどイスラエルに友好的な国や、批判的な国は、この危機を沈静化させる唯一の望みはガザでの停戦だと考えている。
ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師は、イスラエルへの攻撃について、ガザで停戦が実現するまで続くと述べている。だが現時点では、ハマスとイスラエルの双方の指導者とも、アメリカの提示案で合意する用意がないことは明らかだと思われる。
いまの戦争そのものは、イスラエル国民から圧倒的支持を得ている。ただ、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、支持率で改善はみられるものの、有権者の大部分に不人気な状況は変わっていない。
イスラエル国民の多くは、ネタニヤフ氏はうそつきで、ガザにいる人質を見捨てた、ひどい指導者だと思っている。同氏は何かと物議を醸す人物だが、右翼政治家らの支持で議会での力が強まっており、政治的立場は安定している。
だが、攻勢に出るという彼の決断は危険なものだ。
ヒズボラは傷を負っているとはいえ、反撃する力は十分にある。それこそがまさに、イスラエルの味方と敵の両方が最悪の事態に備えている理由となっている。
(英語記事 Bowen: Israel believes it has weakened Hezbollah but escalation still carries risks)