メッセージアプリ「テレグラム」は23日、逮捕状があるなど当局からの正式な要求に対し、アプリの利用端末の位置を示すIPアドレスやユーザーの電話番号を開示すると発表した。
パヴェル・ドゥロフ最高経営責任者(CEO)はこの日、今回の利用規約とプライバシーポリシーの変更は、「犯罪を阻止するためのもの」だと説明した。
また、「テレグラム・ユーザーの99.999%は犯罪とは無関係だが、違法行為に関与する0.001%がプラットフォーム全体に悪いイメージを与え、約10億人のユーザーの利益を危険にさらしている」と述べた。
テレグラムをめぐっては、偽情報や児童ポルノ、テロ関連コンテンツの温床になっているという批判が出ている。これは、最大20万人でグループを作ることができる同アプリの機能に由来するという。
他方、米メタが運営するワッツアップは、グループの規模を1000人に制限している。
8月には、イギリス各地で起きた騒乱の一因となった極右がテレグラムにチャンネルを持っており、大きな問題となった。
また今週初めには、ウクライナがロシアによる脅威を最小化するため、政府が支給した端末でのテレグラム利用を禁止した。
こうしたなか、ロシア国籍を持つドゥロフCEOが8月末、パリ北部の空港でフランスの警察によって逮捕された。
フランスの検察当局はその後、テレグラム上での犯罪行為を可能にした罪でドゥロフCEOに対する正式な捜査を開始。容疑には、児童ポルノの拡散や麻薬の密売への共謀が含まれてる。また、法執行機関に従わなかった罪でも起訴された。
ドゥロフCEOはこれらの容疑を否認している。同CEOは逮捕直後から当局を非難し、プラットフォーム上で第三者が犯した犯罪の責任を自分に押し付けるのは「驚き」であり「見当違い」だと述べた。
サイバーセキュリティーの専門家らは、テレグラムは過去にいくつかのグループを削除したことはあるものの、過激派や違法コンテンツのモデレーションシステムに関しては、競合するソーシャルメディアやメッセージアプリに比べてはるかに弱いと指摘している。
「404 Media」によると、今回の規約変更以前、テレグラムはテロ容疑者に関する情報しか当局に提供していなかったという。
保釈中のドゥロフCEOは23日、テレグラムは現在、人工知能(AI)を活用して検索結果から問題のあるコンテンツを隠す「モデレーターの専門チーム」を使っていると述べた。
しかし、米スタンフォード大学インターネット・社会研究センターのダフネ・ケラー氏によると、この種のコンテンツを見つけにくくするだけでは、フランスや欧州での法律上の要件を満たすには十分でない可能性が高いという。
「テレグラムの従業員が見て、違法であると合理的な確信をもって認識できるものはすべて、完全に削除すべきだ」と、ケラー氏は話した。
また、国によっては、児童への性的虐待のような深刻な違法コンテンツについても当局に通知する必要があるという。
そのうえでケラー氏は、テレグラムが行った変更が果たして、捜査対象者が誰と連絡を取っているのか、メッセージの内容はどのようなものなのかといった情報を求める当局を満足させることができるのかと疑問を呈した。
「法執行機関が望んでいるものよりも少ないコミットメントのようだ」と、ケラー氏は指摘している。
言論の自由への影響は
ドゥロフCEOの逮捕は、インターネットにおける言論の自由が今後、どのように保護されるのかという議論を巻き起こした。
カナダ・トロント大学シチズン・ラボのジョン・スコット=レイルトン上級研究員は、ドゥロフCEOの逮捕後に大勢の人が、テレグラムが本当に反体制派にとって安全な場所なのか疑問を抱き始めたと語った。
同氏によると、今回のテレグラムの方針変更は、すでに多くのコミュニティーでさらなる警戒をもって迎えられているという。
「政府の要求に抵抗するプラットフォームだというテレグラムのマーケティングは、ロシアやベラルーシ、中東といった場所で、安心して政治的見解を共有したい人々を引き付けていた」
「そして今、大勢の人がテレグラムの発表を、基本的な疑問を念頭に置いて精査している。『これは、このプラットフォームが抑圧的な政権当局と協力し始めることを意味するのか?』と」
スコット=レイルトン氏はまた、このような政権の指導者からの要求にどう対処していくのか、テレグラムはあまり明確にしていないと付け加えた。
(英語記事 Telegram will now provide some user data to authorities