ヒューゴ・バチェガ中東特派員(ベイルート)、デイヴィッド・グリッテン(ロンドン)、BBCニュース
レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラを標的にしたイスラエルの空爆は24日も続いた。レバノンのフィラス・アビアド保健相は、2日連続の空爆で多数の死傷者が出て病院が対応に苦慮しているとし、いま起きているのは「大虐殺」だと述べた。
アビアド保健相はBBCに対し、23日の攻撃では550人が殺害され、その多くが子供や女性を含む民間人だったことは「明らか」だと語った。
イスラエルは、レバノン国内にあるヒズボラの拠点を多数攻撃したと発表した。イスラエルはヒズボラが住宅地に武器を隠していると非難している。
イスラエル軍は24日の攻撃で、ヒズボラのロケット部隊のトップを殺害した。ベンヤミン・ネタニヤフ首相はヒズボラがレバノンを「奈落のふちへ」導いていると述べた。
イスラエル軍によるとヒズボラはイスラエル北部に300発以上のロケット弾を撃ち込み、6人を負傷させた。
双方とも引き下がるつもりはないようだが、アメリカのジョー・バイデン大統領は24日、ニューヨークでの国連総会で、全面的な紛争は「誰の利益にもならない」とし、「外交的解決はまだ可能だ」と強調した。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、世界は「レバノンがもう一つのガザになるのを許すわけにはいかない」と警告した。
パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦争を端緒とした、現在のイスラエルとヒズボラの戦闘は1年近くに及んでいる。国境の両側で数百人が死亡しており、ほとんどはヒズボラ戦闘員とされる。避難者は双方で数万人に上っている。
ヒズボラは、ガザでイスラエルと戦うイスラム組織ハマスを支援する行動をしているとし、ガザで停戦が実現するまではやめないとしている。ヒズボラとハマスは共にイランから支援を受けており、イスラエルやイギリスなどからはテロ組織に指定されている。
民間人を標的にする「残酷な戦争」
23日のレバノン南部と東部ベカー渓谷(高原)への空爆は、2006年のイスラエルとヒズボラの戦争以来、レバノンで最悪規模となる死者を出した。
アビアド保健相は24日の記者会見で、死者558人には子供50人と女性94人、そして多数の医療従事者が含まれていると述べた。また、現在は50以上の病院が負傷者1835人の治療にあたっていると付け加えた。
その後、BBCのインタビューに応じたアビアド氏は、自国で起きていることは「大虐殺」だとした。
「救急治療室に運ばれた人たちを見れば、彼らが民間人であることがはっきりわかる。イスラエル側が主張するような戦闘員ではない」
「我々は攻撃の犠牲者のことを把握している。我が国の救急車が彼らを病院に搬送したのだから」と、アビアド氏は付け加えた。「(犠牲者は)普通のことをしていた民間人だった」。
アビアド氏は現在の敵対行為を、2006年のイスラエルとヒズボラの戦争と比較してこう述べた。「より残酷な戦争に直面しているのは間違いない。とりわけ、民間人が標的にされているという点において」。
国連、国際人道法違反の可能性を指摘
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)もまた、23日の空爆による死傷者数について警鐘を鳴らし、攻撃が国際人道法に違反している可能性があるとした。
イスラエル軍はレバノンの人々に対し、ヒズボラの武器が保管されているとした建物の近くから避難するよう求める、音声メッセージやテキストメッセージを送っていた。このことについて記者団から問われたOHCHRのラヴィナ・シャムダサニ報道官は、「民間人に逃げるよう伝えたからといって、民間人に甚大な影響が及ぶことを認識していながらそれらの地域を攻撃してもいいということにはならない」と答えた。
レバノン南部では24日も、さらに数千人がイスラエル軍の攻撃から逃れようと北部を目指し、道路で渋滞が発生した。通常は1時間ほどの移動が12時間以上かかる事態となった。
ベイルートの避難所に身を寄せるマリアムさん(65)は、12人の親戚と一緒に小さな車1台に乗って一晩かけて移動してきたとBBCに語った。
「私たちは一緒に(地元を)離れました。自宅を手放したくはなかった。自宅を手放すのはつらいことなので」とマリアムさんは述べた。「私たちは朝4時にここに着きました。子供たちも一緒です。子供たちがいたからこそ、私たちは(地元を)離れたんです」。
北部住民の帰還実現まで「ヒズボラを攻撃し続ける」
イスラエルのネタニヤフ首相は、情報基地を視察した際、イスラエルは北部国境沿いの地域から逃れた市民を帰還させるという、この戦争での目標を達成するまで「ヒズボラを攻撃し続ける」と述べた。
また、レバノンの人々については、「我々の戦争はあなた方との戦争ではない」と強調。ヒズボラ指導者のハッサン・ナスララ師が「あなた方を奈落のふちに導いている」と警告した。
「私は昨日(23日)、リビングにミサイルがあり、ガレージにロケット弾がある家から避難するよう、あなた方に伝えた。リビングにミサイルがあり、ガレージにロケット弾があるような人には、もはや家はない」
イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官は24日夜の記者会見で、ヒズボラはレバノン南部と東部ベカー渓谷を「戦闘地域」に変えていると指摘。この日は終日、イスラエルの軍機が同地域の標的を攻撃し続けたと述べた。
また、複数の集合住宅を攻撃した際に起きた二次爆発を捉えたものだとする動画を公開。集合住宅の中にミサイルやロケットランチャーが保管されていたことを示すものだとした。
ハガリ氏は、ヒズボラのミサイル・ロケット部隊のトップ、イブラヒム・クバイシ氏が24日午後、ベイルート南郊への空爆で殺害されたとも説明した。また、ほかに少なくとも2人の司令官も殺害されたとした。
クバイシ氏は「ミサイルの作動に関わる重要人物」であり、「イスラエル領土への一連の攻撃の責任を負っている」と、ハガリ氏は付け加えた。
ヒズボラはメッセージアプリ「テレグラム」で、クバイシ氏が空爆で「殉教」したと認めた。
レバノン保健省は、ベイルートのゴベイリー地区にあるアパート群の最上階とその下の階の一部を破壊した「敵イスラエルの襲撃」により6人が殺害され、15人が負傷したと発表した。
一方でヒズボラは、同組織の戦闘員がイスラエルの数十の町や軍事基地、火薬製造工場に向けてロケット弾を発射したと発表。イスラエル軍の特殊部隊「サムソン部隊」への攻撃には新型ロケット弾を使用したと主張した。
イスラエル北部では24日、終日サイレンが鳴り響き、同国の防空システム「アイアンドーム」の迎撃用ロケット弾が上空を通過する様子が目撃された。
イスラエル軍のハガリ報道官によると、ヒズボラが発射したロケット弾約300発の一部はイスラエル領内に着弾し、市民6人と複数の兵士が負傷したが、ほとんどは軽傷だったという。
(英語記事 Israeli strikes on Lebanon causing ‘carnage’, health minister says)