トム・ベイトマン米国務省担当編集委員(国連本部)
アメリカのジョー・バイデン大統領は、パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が、中東全域を巻き込むのを阻止すると決意し、その誓いを果たすために1年近くを費やしてきた。
そして24日、バイデン大統領はニューヨークで、任期最後の国連総会演説に臨んだ。その中で、イスラエルと、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘について言及し、紛争拡大を阻止する決意を繰り返し表明した。
「外交的解決はまだ可能だ。実際、それが安全保障を永続させる唯一の道であることに変わりはない」
「全面戦争は誰の利益にもならない」と、バイデン氏は付け加えた。
しかし、イスラエルとレバノンの危機的状況は今や、瀬戸際に来ている。
そして、国連の演壇から自制を求めるバイデン氏の呼びかけは、その議場内には届いたが、中東地域には届いていない。イスラエルとハマスの停戦と人質解放に向けた合意実現を強く求めてきたバイデン氏の声が届いていないのと同じように。
イスラエルは23日、レバノン領内に数百回もの空爆を行い、同国で30年以上前に血なまぐさい宗派間の内戦が終結して以来最悪規模となる死者を出した。
レバノンの保健当局によると、イスラエルの爆撃で500人以上が殺害された。
イランの支援を受けるヒズボラは、レバノンを実質的に支配している。レバノン各地で先週、ヒズボラのメンバーが使用する通信機器が相次いで爆発したことで、同組織は動揺しダメージを受けた。この爆発はイスラエルによるものとされる。
ヒズボラも、数百発のロケット弾をイスラエル北部に撃ち込んだ。複数の家屋を破壊し、町中で火災を引き起こした。
イスラエルの行動を抑制できるのか
アメリカはまたしても、中東の重要な友好国であり、武器供与をしているイスラエルの行動を抑制しようとしている。さらに、イスラエルと敵対する勢力に対しても事態をエスカレートさせないよう促し、同時に、それらの勢力が交渉によって合意する力量も意志もない中で、外交的成果も模索している。
イスラエルは同国北部の住民が帰還できるよう、ヒズボラの武装解除のために活動していると主張している。
一方のヒズボラは、ガザ地区のパレスチナ人に対するイスラエルの攻撃を阻止し、弱めるために、ガザでの開戦からの11カ月間、イスラエルを攻撃し続けているとしている。ガザでイスラエルとの戦闘を続けるハマスもヒズボラと同様にイランの支援を受けている。
アモス・ホッホシュタイン米大統領特使による数カ月にわたるシャトル外交は失敗に終わった。
バイデン氏が国連の演壇で冷静さを求める中、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はソーシャルメディアに動画を投稿。ネタニヤフ氏はその中で、「我々はヒズボラを攻撃し続ける。リビングにミサイルがあり、ガレージにロケット弾があるような人には、もはや家はない」と述べた。
米ホワイトハウスは、イスラエルにはヒズボラを攻撃する権利があるとしている。しかし、ヒズボラの通信機器の爆発やその後のイスラエルの空爆が全面戦争を引き起こすかもしれないという深刻な懸念が米政権内に生じる中で、イスラエル指導部との政治的関係が機能しなくなっていることが、ここ数週間で明らかになっている。
先週の危機的状況にも関わらず、バイデン氏とネタニヤフ氏の電話協議の実施は発表されなかった。
昨年10月7日のガザでの開戦以降、10度目となる中東歴訪で、アントニー・ブリンケン米国務長官は初めてイスラエルに立ち寄らなかった。
政権内外では、アメリカの武器供給をめぐる条件交渉が失敗に終わったのは、ホワイトハウスがネタニヤフ氏に対して影響力を行使できていないからだとの批判の声が繰り返し上がっている。
政権はこうした批判をきっぱり否定し、イスラエルの防衛に取り組んでいるとしている。
バイデン氏は、11カ月におよぶイスラエルとレバノンの国境を隔てた危機を解決する鍵は、ガザ停戦合意を締結させることだと信じてきた。
しかし、ガザ停戦に向けた交渉は行き詰まっており、イスラエルとハマスの双方からは合意を実現したいという意欲もみられない。
ブリンケン氏は最近、交渉が行き詰まっている原因はイスラエルとハマスの「政治的意志」の欠如にあると指摘していた。
ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、バイデン氏はガザ停戦を「決して諦めていない」と述べた。
「困難や後退もあった。(イスラエルの)首相を説得するのは困難なものだ。ハマス指導者のシンワル氏の説得も困難なものだ。それでも我々は説得を続ける決意でいる」と、サリバン氏は米CNNに語った。
「(バイデン)大統領は今週ニューヨークで、他国の指導者たちと集まり、ガザでの停戦と人質解放への合意実現を目指す。そして極めて重要なことに、中東での全面戦争を回避しようとするだろう」
ここニューヨークの舞台裏では、一連の外交活動が繰り広げられている。米国務省高官の1人によると、アメリカはイスラエルとヒズボラの間の危機的状況を解決しうる計画を同盟国に提示しているという。
「我々には具体的なアイデアがある。それについて今週、同盟国やパートナー各国と協議して、今後の方向性を模索したいと考えている」と、この高官は述べた。
「具体的なアイデア」とは何か、この高官に迫ったが、その答えは聞けなかった。高官は、アメリカはヒズボラと直接対話はしていないものの、ニューヨークに集まった同盟国の一部は同組織と対話しているとし、こうしたパートナー国が「ヒズボラの考えについてより洗練された感覚を持っているかもしれない。なので、我々のアイデアが機能するか試すことができる」と話した。
一方で、イスラエルがレバノンに地上侵攻することについては、アメリカは反対の立場だと改めて表明した。
イスラエル当局をめぐっては、ヒズボラとの紛争を激化させれば、イスラエルとレバノンの国境の両側の状況を安定させられるであろう外交取引をヒズボラに迫ることができると考えていると報じられている。「エスカレーションによるエスカレーション緩和」と呼ばれる戦略だが、前出の高官はこれを一蹴した。
「少なくとも最近では、(紛争の)エスカレーションあるいは激化が根本的な緊張緩和につながり、状況の大幅な安定へとつながった時期があったという記憶はない」
(英語記事 Biden struggles to contain conflict as Israel and Hezbollah on the brink)