デイヴィッド・グリッテン、BBCニュース(ロンドン)
イスラエル国防軍(IDF)トップのヘルジ・ハレヴィ参謀総長は25日、イスラム教シーア派組織ヒズボラを標的としたレバノン領内への広範な空爆について、「敵地へ進入」するための道を開く可能性があると部隊に語った。
ハレヴィ参謀総長は「頭上でジェット機の音が聞こえる。我々は一日中空爆を続けている。これは起こり得る(敵地への)進入に向けた地固めであり、引き続きヒズボラを弱体化させるためのものでもある」と述べた。
これは、イスラエル高官の発言としては、レバノンへの地上侵攻が差し迫っている可能性をこれまでで最も端的にうかがせるものといえる。
レバノンのフィラス・アビアド保健相によると、イスラエル軍の攻撃で50人以上が殺害された。イスラエル軍は、レバノンを拠点とするヒズボラの情報機関や発射装置、武器庫を攻撃したのだと説明している。
フランスとアメリカが21日間の戦闘休止を提案するなど、敵対行為の緩和を目指す外交努力が加速している。
「敵の領土に入る」可能性
IDFの声明によると、ハレヴィ参謀総長は25日、イスラエル北部の国境地帯で演習に参加していた第7旅団の兵士たちに対し、「我々は彼ら(ヒズボラ)をいたるところで空爆し、攻撃し続けている」と話した。
「目的は非常に明白だ。北部の住民を安全に帰還させる。それを達成するために作戦行動のプロセスを整えている。つまり、あなたたちの軍用ブーツが(中略)敵の領土に入ることを意味する」
ハレヴィ氏は部隊が「敵とそのインフラを破壊する」と述べた。
イスラエル軍がレバノンに侵入する準備を整えていることを直ちに示す兆候はみられない。米国防総省は25日、「差し迫った」兆候はないと説明した。
しかし、ハレヴィ氏がレバノンでの地上攻撃の可能性に言及したのは、IDFが「北部地域での作戦任務」のために2つの予備旅団を招集して間もなくのことだった。
BBCの取材班は25日、イスラエルの国境地帯の町に入った。IDFはヒズボラの戦闘員は2006年に採択された国連決議に沿ってイスラエル国境から十分に後退し、リタニ川以北の陣地に移らなければならないと述べた。
全面戦争回避への外交努力は
アメリカなどイスラエルの同盟国は、この地域での全面戦争を回避しようと努めているとしている。
複数メディアが25日に報じたところによると、米高官はイスラエルとヒズボラの戦闘を短期的に一時停止させるための仲介を試みているという。
国連総会のため米ニューヨークを訪れたフランスのエマニュエル・マクロン大統領はジョー・バイデン米大統領と会談し、停戦合意を確保するための取り組みについて協議した。
会談から間もなく、フランスは両国が「交渉を可能にするために」21日間の「一時停戦」を提案していることを明らかにした。
「レバノンで戦争が起きてはならない。だからこそ我々はレバノンでのエスカレーションをやめるようイスラエルに求め、イスラエルに向けてミサイルを発射するのをやめるようヒズボラに求めている」と、マクロン氏は国連で述べた。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は即時停戦を求め、「地獄のようなひどい事態が起きつつある」と述べた。
イスラエルのダニー・ダノン国連大使は、エスカレーションを回避するための外交努力には感謝しているが、「我々の目的を達成するために、国際法に従って自分たちに可能なあらゆる手段」を用いるつもりだと述べた。
イスラエルの人口密集地が標的、ヒズボラ拠点に空爆
国境を挟んだ交戦は25日も続いた。ヒズボラはイスラエル・テルアヴィヴにある諜報機関モサドの本部を狙ってミサイルを発射したと発表した。ヒズボラがこの人口密集地を標的にしたのは初めて。
このミサイルは、イスラエルの防空システムが迎撃。被害や死傷者の報告はなかった。IDFは後に、ヒズボラの発射装置は空爆で破壊されたと発表した。
IDFのナダヴ・ショシャニ報道官は、ミサイルは「テルアヴィヴの民間人居住区に向かっていた」、「モサド本部はその地域にはない」と述べた。
ヒズボラはイスラエル北部にも数十発のロケット弾を撃ち込み、2人が負傷した。
こうした中、IDFはレバノン国内にある280カ所以上の「ヒズボラによるテロの拠点」を戦闘機で攻撃したと発表した。
レバノンのアビアド保健相は記者団に対し、イスラエルの空爆で少なくとも51人が殺害され、223人が負傷したと述べた。死傷者数の民間人と戦闘員の内訳は明らかにしなかった。
レバノン保健省は南部シドンに近いシュフ山脈のジュンや、ベイルート北部の山岳地帯のマーイスラ、ベカー渓谷(高原)北部を含むレバノン南部地域が、イスラエルによる致命的な攻撃を受けたと報告した。
イスラエルは23日、2006年の戦争以降にヒズボラがレバノンで築いたインフラを破壊するための、空爆作戦を開始した。レバノン各地でこれまでに600人以上が殺害されたと報告されている。
国連によると、レバノンではイスラエルによるエスカレーションが起きる以前に避難した11万人に加えて、新たに9万人が家を追われた。同国では4万人近くがシェルターに身を寄せている。
パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦争を端緒とした、現在のイスラエルとヒズボラの戦闘は1年近くに及んでいる。この戦闘により、イスラエル北部では約7万人が家を追われている。イスラエル政府とIDFはこれらの住民の安全な帰還を確保したいとしている。
ヒズボラは、ガザでイスラエルと戦うイスラム組織ハマスを支援する行動をしているとし、ガザで停戦が実現するまではやめないとしている。ヒズボラとハマスは共にイランから支援を受けており、イスラエルやイギリスなどからはテロ組織に指定されている。
イスラエルによるエスカレーションに先立ち、レバノンでは先週、ヒズボラに対する前例のない攻撃が起きた。
ヒズボラのメンバーが使用する通信機器やトランシーバーがレバノン各地で2日連続で爆発し、39人が死亡、数千人が負傷した。この攻撃にイスラエルが関与していると広く受け止められている。
20日には、IDFがヒズボラの拠点となっているベイルート南郊ダーヒエ地区を空爆。ヒズボラの精鋭部隊「ラドワン部隊」の指揮系統は実質的に一掃された。ヒズボラは殺害された55人の中に同部隊のイブラヒム・アキル司令官が含まれることを認めた。
(英語記事 Lebanon strikes are preparing for ground offensive - Israel army chief)