トム・ベネット、BBCニュース(ロンドン)
レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラとイスラエルの戦闘をめぐり米英などが21日間の即時停戦を求める中、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は28日、ヒズボラと「全力」で戦い続けるよう軍に指示した。
レバノン保健省によると、イスラエル軍による26日のレバノン領内空爆で少なくとも92人が殺害された。23日にイスラエル軍の空爆がエスカレートして以来、合わせて数百人以上が殺害されている。
ヒズボラはベイルート南部の集合住宅が攻撃され、同組織のドローン(無人機)部隊トップのムハンマド・スルール氏が殺害されたと認めた。
イスラエルによるレバノン空爆は、23日に激化。イスラエルとヒズボラの戦闘が、全面戦争に発展することへの懸念が高まっている。
敵対行為の増大を受け、アメリカやイギリス、欧州連合(EU)、日本など12カ国・地域は25日、21日間の停戦を直ちに開始するよう求める声明を出した。
イスラエルのダニー・ダノン国連大使は同国は「提案にはオープンだ」と述べていたため、即時停戦案は当初、期待を持って受け止められていた。
しかしこの案は、26日までにイスラエルの政治家たちから全面的に拒否された。
国連総会のため米ニューヨークを訪れたネタニヤフ氏は、同国はすべての目的を達成するまでレバノンでの(活動を)「止めるつもりはない」と述べた。目的にはイスラエル北部から避難した住民を安全に帰還させることなどが含まれる。
米ホワイトハウスは、停戦案はイスラエルとの「調整」を経ていたものだと明らかにしたが、その数時間後にネタニヤフ氏は戦闘継続を主張した。
イギリスのキア・スターマー首相は国連での演説で、レバノンでの紛争を解決するために「外交的解決の場を与える即時停戦」の実施するよう求めた。
この紛争が「誰にも制御できない」戦争になる可能性があると、スターマー氏は述べた。
パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦争を端緒とした、現在のイスラエルとヒズボラの戦闘は1年近くに及んでいる。イスラエル北部では約7万人が家を追われている。
国連によると、レバノンではイスラエルによるエスカレーションが起きる23日以前に避難した11万人に加えて、新たに9万人が家を追われた。
イスラエル軍は26日にかけて、レバノン南部と東部のベカー渓谷(高原)にあるヒズボラの標的を攻撃したと発表している。
また、レバノンとシリアの国境沿いにあるインフラも攻撃したという。ヒズボラへの武器供給を遮断するためだと、イスラエルは主張している。
一方でヒズボラは、イスラエル北部のキリヤト・アタ入植地に向けてロケット弾50発を、サフェド市に向けてミサイル80発を発射したと発表した。
イスラエル側ではサイレンと複数の爆発音が鳴り響いた。イスラエル軍はイエメンから撃ち込まれたミサイルを迎撃したとした。
地上攻撃の可能性、外交的解決は
イスラエル軍トップのヘルジ・ハレヴィ参謀総長は25日、ヒズボラを標的としたレバノン領内への広範な空爆について、「敵地へ進入」するための道を開く可能性があると部隊に語った。
イスラエル空軍のトマー・バー少将は26日、レバノンへの「地上作戦」を支援する「用意」をするよう部隊に伝えた。
こうした中、カタールも緊張緩和の呼びかけに加わった。同国のマジェド・アル=アンサリ報道官は、「ガザでの残虐行為と同じような方法で、一家全員が標的にされているという恐ろしい報告を複数、レバノン側から」受けたと述べた。
ロイド・オースティン米国防長官は英ロンドンで英豪の担当者と協議した後、イスラエルとヒズボラは「全面戦争」のリスクに直面しているが、「外交的解決はまだ実行可能だ」と述べた。
「イスラエルは自国民を北部の故郷に帰還させるのが(戦闘の)目的だとしている。それを最も早期に実現できる方法は外交だと私は考える」
26日夕、イスラエル防衛相は現在の軍事作戦を支援するための、87億ドル(約1兆2600億円)相当のアメリカの支援パッケージを確保したと発表した。
同省の声明によると、このパッケージには、すでに引き渡し済みという「戦時下の必需品の調達」に充てる35億ドルや、「アイアンドーム」や「ダビデ・スリング」などの防空システムのための52億ドルが含まれる。
(英語記事 Israel striking Hezbollah with ‘full force’ despite ceasefire calls)