シャイマ・ハリル、BBCニュース(東京)
自由民主党の総裁選挙が27日に実施される。現総裁の岸田文雄首相は先月、再選を目指さないと表明し立候補していない。新たな総裁が次の首相となる見通し。
戦後のほとんど期間で政権与党となっている保守派の自民党は、衆参両院で過半数を占めている。
しかし、スキャンダルや内部対立に揺れ、かつて大きな影響力をもった派閥が解体となるなど、激動の時期を迎えている。
総裁選には自民党史上最多の9人が立候補している。うち3人が先頭を走っているとされ、それぞれ非常に異なる日本の将来像を示している。
一人目は、総裁選への挑戦が5度目となる元防衛相の石破茂氏(67)だ。日本の政界では珍しく、率直な物言いと公の場での岸田首相批判で知られ、党員らをいら立たせる一方で、国民からは共感を呼んでいる。
別の人気候補が、43歳の小泉進次郎氏だ。候補者の中で最年少で、国民にフレッシュな印象を与え、自民党の改革を約束する人物と見られている。「異端」の首相と呼ばれた小泉純一郎氏の息子で、若者や女性に支持されている。一方で、経験が足りないとの批判もある。
三人目は高市早苗氏(63)だ。自民党初、かつ日本初の女性トップを目指している。故・安倍晋三元首相の側近だった高市氏は、今回の総裁選に立候補している女性2人のうちの1人で、候補者らの中では保守派に位置づけられている。
高市氏の女性問題に対する立場は、小泉氏や石破氏とは対照的だ。
小泉氏は選択的夫婦別姓の導入法案を支持している。石破氏は女系天皇の容認という、多くの自民党員とこれまでの政権が反対し、議論が大きく分かれる問題で、賛成を表明している。これに対し高市氏は、伝統に反するという理由で、どちらにも反対している。
自民党総裁選は、一般国民による投票ではなく党員による投票で勝者が決まる。自民党は国民の怒りと支持率の急落に直面しており、先頭集団にいるとされる候補者らは、自民党を一新させるという訴えで一致している。
岸田首相は先月、再選を目指さないと表明した記者会見で「今回の総裁選では自民党が変わる姿、新生自民党を国民の前にしっかりと示すことが必要だ」と述べた。
自民党の総裁選は、単にトップの座を争うだけでなく、経済の停滞、家計の苦境、一連の政治スキャンダルの中で、同党がここ何カ月かで失った国民の信頼を取り戻す試みでもある。
スキャンダルの主なものは、物議を醸してきた旧統一教会(現在の世界平和統一家庭連合)の自民党への影響力が明らかになったことと、党派閥が何年かにわたって政治資金について過少申告をしていた疑惑だ。
政治資金スキャンダルでは、自民党の6派閥のうち5派閥が解散に追い込まれた。派閥は長い間、同党の屋台骨となってきたもので、総裁選での勝利には派閥の支持が不可欠とされてきた。
しかし、国民にとってより重要なのは、深刻化が増す経済問題だろう。
新型コロナウイルスの流行後、日本の一般的な家庭は、円安、経済の停滞、食料品価格の約半世紀ぶりの急速な高騰と格闘し、苦慮している。
経済協力開発機構(OECD)のデータによると、日本の賃金はこの30年間ほとんど変わっていない。この長引く不況は30年来の高インフレと相まって、家計を締め付け、政府による支援を求める声を大きくしている。
さらに、長年、有権者の支持を得てきた自民党の立場も損なわれている。
「国民は自民党に飽きている」。元旧民主党衆院議員で早稲田大学教授(政治学)の中林美恵子氏は、BBCにそう話した。「直面しているインフレや、いわゆる『失われた30年』に、国民は不満を抱いている。日本の通貨は安く、輸入品の多くはインフレで高価になり、多くの人がそれを目の当たりにしている」。
もう一つの大きな論点は、日本の高齢化と人口減少だ。この問題は、社会・医療サービスを圧迫し、日本の中長期的な労働力をめぐり深刻な課題を突き付けている。誰が自民党、ひいては政府を率いるにせよ、その人物は日本の労働市場や移民の受け入れについて再考しなければならないだろう。
これは、2025年10月までにある次の総選挙に向けて、どうしても必要な再調整だ。総選挙については、早期の実施を訴える候補もおり、例えば小泉氏は、総裁選が終わればすみやかに実施したいとしている。
政治の専門家らは、総裁選の最後の2週間を、総選挙のオーディションだと見ている。そのため、候補者らは党員だけでなく、一般国民に向けても自分をアピールし、有権者の支持を得ようとしている。
「国民は変わりつつある」と、立命館大学客員教授で、安倍・岸田両氏と近い関係だった宮家邦彦氏はBBCに話した。「この国の保守政治にとっては、新しい政治環境と政治戦場に適応する時だ」。
総裁選にはこのほか、上川陽子外相(71)、河野太郎デジタル相(61)、林芳正官房長官(63)、茂木敏充幹事長(68)、小林鷹之前経済安保相(49)、加藤勝信元官房長官(68)が立候補している。
候補者9人のうち4人が外相を、3人は防衛相を経験している。
総裁選は27日午後に投開票され、結果が発表される。1回目の投票では、国会議員票と、全国約100万人の党員・党友票(各368票)で争われる。
過半数を得た候補者がいない場合は、上位2人による決選投票が行われる。最終的な勝者は、10月上旬に開催される予定の国会で首相に指名される見通し。