イスラエルとイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘が激化しているレバノンにいるイギリス人が、脱出に苦労している実態が、BBCの取材で明らかになった。
イギリス政府はかねて、状況悪化を受け、自国民に直ちにレバノンから出国するよう促している。
キア・スターマー英首相は25日、国連総会のあった米ニューヨークでBBCニュースの取材に応じ、まだレバノン国内にいるイギリス国民に「今すぐ脱出してください。これはとても重要なことだ」と呼びかけた。
BBCニュースの取材で、レバノンには扶養家族を含めて4000~6000人のイギリス人がいるもよう。
BBCがレバノン唯一の民間空港、ベイルート・ラフィク・ハリリ国際空港を訪れたときには、航空各社がベイルートへの発着を停止したため、ほとんどのフライトがキャンセルされていた。
25日時点で運航しているのは、ミドル・イースト航空、イラク航空、イラン航空のみだった。
フリーランスのジャーナリスト、クローイー・ルーウィンさん(24)は、27日にレバノンを発つ予定だとBBCニュースに話した。
ロンドン出身で、2023年1月からベイルート在住のルーウィンさんは、「スターマー首相はみんなに脱出するように言っているが、私たちは脱出できない」と言った。
「今週は出国できない。フライトはすべて満席で、予約サイトの最後のページに行くたびにクラッシュして、予約できませんと表示される」
「友人は25日にエジプト航空で出発するはずだったが、欠航になり、出国できなかった」
学生のイザベラ・ベイカーさんは、怖くてベイルートの空港へ向かえないため、北部トリポリで友人宅に滞在した後、船でトルコに向かうことにしたと話した。
ベイルートにあるフランス系大学で、人権の修士号を取るために勉強していたベイカーさんは、ヒズボラのメンバーが使用する通信機器やトランシーバーが爆発した事件の後、街の上空でドローン(無人機)の音や、戦闘機が音速を突破する音を聞いたと語った。
ロンドンとベイルートを行き来して生活しているというエマ・バーソロミューさんは、来週にロンドンへの帰国便を予約している。
ポケベル型機器が爆発した17日の状況についてバーソロミューさんは、道路が救急車で渋滞していたと話した。また、滞在しているホテルの上をイスラエル軍の戦闘機が低空飛行したほか、家を追われた何百もの人が、ベイルート南郊から到着していたと語った。
「レバノンの人々の間には、次に何が起こるのかという気持ちと不安が渦巻いている」
イギリスの配偶者ビザ(査証)と滞在許可証を持ち、ベイルート郊外の町で立ち往生しているリタさんは、イギリス外務省からは8月以降、緊急時の出国登録の連絡がないと話した。
リタさんはBBCのラジオ番組に対して、来週出発の民間便を予約しているが、本来ならば自分は政府調達の避難便で出発できるはずだと述べた。
リタさんのイギリス人の夫と2人の息子はロンドンにおり、陸路で逃げるよう勧めているという。
英外務省はイギリス国民に対し、滞在地登録サービスを通じてレバノンに滞在していることを政府に知らせるよう要請したと述べた。
一方、レバノンにとどまることにしたというイギリス人もいる。
在住7年のアン・ブージさんは、半身不随のレバノン人の夫と一緒に残るつもりだと話した。ブージさんの夫は、イギリスのパスポートもビザも持っていない。
ブージさんはBBCラジオの取材に対し、自分たちが住むベイルートの東側は「比較的安全だった」と語った。一方で、市内の他地域の人々は「とても怖がっていて、あたりに恐怖が充満している感じ」だと述べた。
イギリスとレバノンの二重国籍を持つハヤト・ファクーリさんは、「どこもかしこも、まったく安全でなくなった場合」にのみ、レバノンを離れると語った。
ファクーリさんはBBCラジオに対して、イスラエルがレバノンに侵攻する可能性を、自分は「確実に」恐れていると話した。
スターマー首相は25日の国連安全保障理事会で演説し、この地域は「瀬戸際にある」と述べ、即時停戦を呼びかけた。
英外務省は声明で、レバノンは深く懸念される状況にあり、状況悪化のリスクは依然として高いと述べた。
「そのため、民間ルートが利用可能な間は、今すぐ退避するよう引き続き勧告している」、「政府はさまざまなシナリオを想定している。必要になれば、イギリス人に追加支援を提供する用意がある」と外務省は話している。
英政府はまた、レバノンでの人道的活動を支援するため、ユニセフ(国連児童基金)に500万ポンドを提供していると明らかにした。
政府関係者らは、イギリスはキプロスのアクロティリ空軍基地や、今夏に地中海東部に派遣されたイギリス海軍の艦艇2隻を含め、すでにレバノン近辺に相当の外交的・軍事的プレゼンスを展開していると話す。
イギリス空軍も、飛行機とヘリコプターを待機させているという
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスが昨年10月7日にイスラエルを攻撃し、約1200人を殺害、251人を人質にとって以来、中東全域で緊張が高まっている。
イスラエルとヒズボラの間でこれまで散発的に行われていた戦闘は、ハマスの攻撃の翌日から激化した。ヒズボラはハマスと連帯し、イスラエルの陣地に発砲した。
イギリスなどでテロ組織に指定されているヒズボラは、イスラエル北部とイスラエル占領下のゴラン高原に向けて8000発以上のロケット弾を発射している。また、装甲車に対戦車ミサイルを撃ち込んだり、爆発するドローンで軍事目標を攻撃したりしている。
ヒズボラのメンバーが使用する通信機器やトランシーバーがレバノン各地で2日連続で爆発し、39人が死亡、数千人が負傷した。この攻撃にイスラエルが関与していると広く受け止められている。
イスラエルは23日からレバノン各地で空爆を開始しており、レバノン政府によれば、これまでに569人が死亡した。