ドナルド・トランプ次期米大統領は22日、米財務長官にスコット・ベッセント氏(62)を指名した。財務長官は税制や公的債務、国際金融、制裁措置など広範な分野について、監督権限を持つ。
次期大統領が2期目のチームを編成するにあたり、財務長官の人選には特に時間がかかっていた。
ベッセント氏は金融街ウォール・ストリートの投資家で、かつて世界的な慈善家で富豪のジョージ・ソロス氏の下で働いていたこともある。2024年大統領選では、トランプ氏の再出馬を早くから支持していた。財務長官としては、比較的伝統的な経歴の持ち主といえる。
ベッセント氏はトランプ陣営の選挙活動に参加し、トランプ氏が「規制緩和、低コストのエネルギー、低税率による新たな黄金時代」をもたらすと有権者に呼びかけていた。
トランプ次期大統領は22日、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、「スコットは世界屈指の国際投資家および地政学・経済戦略家の一人として広く尊敬されている」と書いた。(※編集部注=太字部分は原文で頭文字を大文字にして強調。)
「(彼は)長い間、アメリカ・ファースト・アジェンダの強力な支持者だった」と次期大統領は述べ、ベッセント氏が「アメリカの競争力を高め、不公正な貿易不均衡を是正する私の政策を支えてくれるだろう」と付け加えた。
財務長官指名が上院で承認されれば、ベッセント氏はほぼ即座に、第1次トランプ政権による減税減税措置延長をめぐり、議会での駆け引きに巻き込まれることになる。
次期大統領はまた、アメリカに入るすべての輸入品に広く関税を課す方針で、貿易政策の変更を求めて物議をかもしている。
このような提案は、伝統的な経済界やビジネス界から警戒感をもって受け止められている。
ベッセント氏は、大統領選直前にFOXニュースのインタビューに応じた際、もし自分が政権の一員になるなら、減税措置が予定通り来年末に失効しないようにすることが最優先事項だと述べていた。
「もし失効すれば、アメリカ史上最大の増税になる」と、同氏は警告していた。
慣例に沿った人事
トランプ次期大統領は一連の人事で、自分への忠誠心と自分の公約を確かに実現しようとする意志の強さを重視する方針を示してきた。その結果、担当分野について経験がほとんどない候補者も複数指名されている。
しかしそれとは対照的に、ホワイトハウスとウォール・ストリートの間の重要な連絡役となり、税収や銀行の監督、制裁措置の発動、公的債務の処理といった重要な機能を担う財務省のトップについては、慣例に沿った人選をした様子。
サウスカロライナ州出身のベッセント氏は、イエール大学を卒業後、アメリカで最も古い投資銀行の一つ、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンでキャリアをスタートさせた。
1990年代には、民主党の大口献金者として知られるソロス氏のヘッジファンドで働きながら、英ポンドの下落を見込んだポンド売りで巨額の利益を得て名を上げた。2013年には、日本円について同様に円安に賭けて成功している。
2015年には、自身の投資ファンド「キー・スクエア・キャピタル・マネジメント」を設立。同社は、大局的な経済政策に基づく投資で知られている。
2011年に元ニューヨーク市検察官の夫と結婚し、2人の子供がいる。また、家族が深いルーツを持つサウスカロライナ州では、慈善活動家として知られている。
ベッセント氏は、トランプ氏の保護主義政策の要でもある関税を擁護している。関税への反対意見は政治的イデオロギーに根ざすもので、「熟考された経済な考え」ではないと批判している。
一方で、トランプ氏が関税を推進しようとするのは交渉の道具だと説明し、次期大統領が必ずしも関税の大幅引き上げを決めているわけではないと話している。
こうした姿勢から、財務長官候補として名前が挙がっていたほかの人たちよりも、穏健派とみられている。
他方、次期政権による暗号資産産業の擁護を強く支持している。このため、ベッセント氏の指名が承認されれば、暗号通貨を公然と擁護する初の米財務長官となり、次期大統領がアメリカを「暗号通貨の地球首都」として確立することに真剣だという、明確なメッセージを送ることになる。
ベッセント氏はFOXニュースのインタビューで、暗号通貨は共和党の理念にふさわしいと考えていると述べ、民主党は、2023年に経営破綻した暗号資産(仮想通貨)の大手交換業者FTXの共同創業者で、今年3月に詐欺罪で禁錮25年の実刑判決を受けたサム・バンクマン=フリード受刑者のような詐欺師に過剰反応していると語った。
ベッセント氏は、「暗号通貨は自由を意味する」と述べている。
(英語記事 Trump nominates Scott Bessent to lead US Treasury in flurry of announcements)