カティヤ・アドラー欧州編集長(ブリュッセル)、マイア・デイヴィース、BBCニュース
北大西洋条約機構(NATO)のマーク・ルッテ事務総長は12日、「戦時体制への移行が必要だ」と述べ、現在のNATO加盟国の防衛支出は、将来のロシアとの紛争に備えるには不十分だと警告した。
ルッテ事務総長は、ロシアが「ウクライナおよび我々との長期的な対立に備えている」と指摘。現在の安全保障状況を自身の人生で最悪のものと表現した。
10月の就任以降で初の演説を行ったルッテ氏は、「我々は4~5年後に直面する事態に対して準備ができていない」と述べ、加盟国に対して防衛支出を「加速」するよう促した。
NATO加盟国のアメリカでは来年1月にドナルド・トランプ次期大統領が就任する。トランプ氏は以前、十分な防衛支出をしていないNATO同盟国をアメリカが保護しない可能性を示唆していた。
NATO加盟各国は、2024年までに少なくとも国内総生産(GDP)比2%を防衛費に充てることを約束している。
しかし、ブリュッセルでのイベントでルッテ氏は「危険が全速力で我々に迫っている」として「もっと多くの支出」が必要だと指摘。冷戦期には欧州の加盟国がGDPの3%以上を防衛費に費やしていたと語った。
「今、戦争を防ぐために団結してもっと支出しなければ、後で戦うために非常に高い代償を払うことになる」
また、ロシアの経済が「戦時体制」にあり、2025年までに防衛費が「ロシアの国家予算の3分の1に達し、冷戦以来の最高水準になる」と付け加えた。
ロシアはウクライナへの全面侵攻を開始して以来、防衛費を大幅に増加させており、2025年には記録的な水準の予算が承認されている。
ロシア軍はウクライナ東部で前進を続けており、ウクライナ戦争の重要な局面にある。ロシア軍は今年11月までに、2023年全体と比較して6倍のウクライナ領土を掌握していた。
トランプ氏の「ささやき役」
NATO加盟国のうち欧州とカナダの平均防衛支出はGDPの2%と推定されているが、すべての国がこの目標を達成しているわけではない。
トランプ氏は今年2月、西側軍事同盟の一部として防衛費を支払わないNATO加盟国を攻撃するよう、在任中にロシアに「促した」と述べた。
NATOの北大西洋条約第5条では、加盟国に対する武力攻撃は全加盟国への攻撃と見なし、防衛に協力すると定めている。
ルッテ氏は12日の演説後、BBCのインタビューで「トランプ氏が最初の任期で我々にもっと支出するよう強制したのは完全に正しかった。トランプ氏は成功し、我々はトランプ氏が大統領になる前よりもかなり多く支出している。そういう意味で、彼は完全に正しかった」と述べた。
これが、NATO内でルッテ氏が「トランプ氏のささやき役」と呼ばれる理由であり、NATO事務総長に選ばれた大きな理由だと言われている。
2018年に米大統領だったトランプ氏は他のNATO加盟国、特に欧州諸国がそれぞれ軍事費を増やさなければ、アメリカは「独自の道を行く」と脅しをかけた。当時オランダ首相だったルッテ氏は、防衛支出がすでに増加しており、それはトランプ氏のおかげだと説得したことで評価された。
そして今、トランプ氏がホワイトハウスに戻る準備をしている中、ルッテ氏はアメリカがNATOと欧州の防衛に寄与し続けることを望んでいる。したがって、ルッテ氏は再び、トランプ氏をよろこばせるメッセージを送っている。
一方で、ルッテ氏は元首相として、欧州の指導者たちが防衛費を大幅に増やすのをためらっている理由をよく理解している。大陸全体の有権者が優先するのは、生活費の上昇、保健医療、移民といった他の問題だからだ。
そのため、ルッテ氏はこの日の演説を「人々」への「嘆願」として行ったとBBCに語った。
「私はNATO領域に住む10億人の人々、特にカナダとヨーロッパの人々に直接訴えかけて、私を助けてほしいとお願いしている」とルッテ氏は述べた。
「確かに難しいことだし、他の項目への支出が多少減ることを意味するが、それでも政治家に電話をかけて、防衛を優先するように求めてほしい。これは長期的に見て非常に重要だからだ」
「私の嘆願は、もしあなたに子供や孫がいるなら、私たちの生活様式、民主主義、価値観を守りたいと思うなら、防衛を優先しなければならないということだ」
「そうしなければ、4~5年後には本当に困難な状況に陥るだろう」
(英語記事 Nato must switch to a wartime mindset, warns secretary general)