韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案の2回目の採決が、14日夕に国会で行われる見通しとなった。野党側が12日に議案を提出した。前回の採決では与党の反対方針で不成立となったが、今回は可決の可能性が高まっている。ソウルの街路では連夜、大規模な抗議集会が開かれており、怒りの声が大きくなっている。
弾劾訴追案は14日午後5時(日本時間同)に採決される見通し。在籍議員300人の3分の2(200人)以上が賛成すれば可決となる。
可決されれば尹大統領は職務停止となる。その後、憲法裁判所が最長180日かけ、弾劾の妥当性を審理し、裁判官9人のうち6人以上が弾劾を支持すれば大統領は罷免される。
弾劾訴追案への賛成が200票に達するには、野党の全議員に加え、与党「国民の力」から8議員が賛成に回る必要がある。これまで、同党議員の何人かがその意向を表明している。
その1人の金尚旭(キム·サンウク)議員は、「大統領にもはや国を率いる資格はない。まったく適任ではない」とBBCに話した。
ただ、与党の議員全員が金氏にならうわけではない。党内には尹氏に忠誠な一派が存在すると、金氏はBBCに説明。自分の選挙区も非常に保守的なことから、野党に同調する姿勢を示したことで殺害予告を受けたとし、「党と支持者から、私は裏切り者と呼ばれている」と述べた。
だが、与党は尹氏の弾劾訴追案に対する党としての態度を変化させている。
「国民の力」の韓東勲 (ハン・ドンフン) 代表は12日、尹氏に辞任の意向がないことが明らかになったとして、14日の採決では弾劾訴追案に賛成するよう所属議員に呼びかけた。同党は7日にあった1回目の採決では、党として反対する方針を決め、大多数の議員が投票をボイコット。そのため弾劾訴追案は不成立に終わった。
抗議の矛先は議員らに
ソウルなどでは、尹氏による3日夜の非常戒厳の宣布に憤慨し、辞任や弾劾を求める抗議デモが続いている。このところは、人々の怒りの大部分が、尹氏をかばってきた国会議員らに向けられている。
11日夜の抗議デモでは、参加者らのかけ声が、「尹を弾劾しろ」だけから「尹を弾劾しろ、党を解散しろ」に変わっていた。
凍えるような寒さの中で何万人もの抗議者たちと幻滅の声を上げていた大学院生のチャン・ヨフンさん(31)は、「どちらも大嫌いだが、大統領より国会議員の方がもっと嫌いだ」と話した。
国会議員らはこの1週間、攻撃的なメールや電話を多数受けている。ある議員は「電話テロ」だとBBCに話した。一部の議員には、葬儀用の花が送られている。
与党「国民の力」の分断は深まり、同党に対する国民の嫌悪感も広がっている。14日の採決で、同党議員の賛成によって弾劾訴追案が可決されても、同党の先行きは危うい状況だ。「自分たちが何者なのか、何を支持しているのかすら、もうわからない」と、党関係者の1人はBBCに話した。
一方、尹氏は国会で弾劾され職務停止となっても、すぐに辞任することはないとみられる。元検察官で法律を知り尽くしている尹氏は、憲法裁で弾劾の決定に異議を唱えるとみられている。
権力の空白
尹氏は、内乱などの疑いで警察などの捜査が進むなか、公の場にほとんど姿を見せていない。
そうしたなか、与党は国民の怒りを和らげようと、尹氏が国政に関して決定を出すことを許さないとの方針を示している。「国民の力」の韓代表は8日、尹氏が早期に「秩序ある辞任」をするまでは、与党と韓悳洙(ハン・ドクス)首相が国政を担うとした。
だが、法律の専門家らは、憲法でそうした制限は認められていないとの見方で一致している。
では、いったい誰が韓国を動かしているのだろうか。特に軍の上級司令官たちは、尹大統領が再び戒厳令を敷こうとしても、命令に背くと述べている。
北朝鮮による攻撃の脅威に絶えずさらされている韓国は今、恐ろしいほどの権力の空白が生じていると、専門家らは指摘している。
ソウルにある西江大学校のイム・ジボン教授(法学)は「(与党の)この取り決めには法的根拠がない。 私たちは危険で混沌とした状況にある」と話した。
(英語記事 Net closing in on South Korea's president as MPs get death threats over impeachment vote)