
ラシュディ・アブアルーフ、ガザ特派員(トルコ・イスタンブール)
ここ数週間、私が会ったり話したりしたイスラム組織ハマスの関係者は、2023年10月7日にイスラエルを攻撃した後にハマスが掲げた主要目標を、ハマスが達成できていないと認めている。
その目標とは、ヨルダン川西岸とエルサレムにおけるイスラエルの入植地拡大の阻止、パレスチナ国家の樹立、収監されているパレスチナ人全員の解放、ガザ包囲の終結――などだ。
それでもハマス関係者らは、イスラエルがハマスを撲滅できず、ハマスを政治舞台から排除することもできなかったことをもって、自分たちの勝利だと主張している。
「イスラエルはハマス撲滅を約束したが、今ではハマスの指導者らと同じ建物の中で座って交渉している」。ハマス幹部の一人は、停戦合意の発表前、私に電話でそう話した。
私はこの幹部に、ガザは廃墟と化し、イスラエルは何万人も殺し、ハマス指導者のほとんどが殺害されたと指摘した。そして、どうすればこれを勝利と思えるのか尋ねた。
この幹部は、「数の上では、ガザは想像を絶する犠牲を払った。だが、利益と損失でみれば、イスラエルはパレスチナ人の意志や抵抗運動を打ち砕くことができなかったし、この国から人々を追い出すこともできなかった」と答えた。
彼はハマスによる攻撃を、イスラエル史上「最大の軍事的・安全保障上の打撃」だったと主張。「それは変えようのない事実だ」と述べた(ハマスはイギリスなどからテロ組織に指定されている)。
ガザ住民の思い
ガザでは、人々の間で相反した反応がみられる。涙と歓喜が交じり合っている。死者の増加がまもなく止まるという安堵(あんど)感と、先の見えない恐怖がうかがえる。家や学校、大学、病院を失った人は120万人に上る。
約1200人を殺害し、251人を人質に取った2023年10月7日のハマスの攻撃は、この戦争中ずっと、ガザで議論の的となってきた。その熱量は、停戦合意の発表でさらに増した。
ハマスを擁護する人々は、ハマスが生き延びただけで勝利と言えると主張する。一方、ハマスを批判する人々は、パレスチナ人が払った前代未聞の代償を理由に、敗北だとしている。
ガザ市の理髪師モハメド・イマド・アルディンさんは、妻子を伴い、100万人以上とともにハンユニスに避難せざるを得なかった。「4万6千人が殺されたことや、避難や破壊を勝利と言うなら、何が敗北になるのか、ハマス指導者らに説明してほしい」とBBCに話した。
「ほっとしてはいるが、幸せではない。この先が不確かだからだ」
一方、ガザ・イスラム大学のサイフジャン・アルシャミ博士は、「自国の勝利を認めず、勝利したと言う人たちをあざけるパレスチナ人、特にガザ住民がいることに驚いている」とフェイスブックに書き込んだ。
「そう、ガザは勝った。そしてハマスも勝った。いいか、何か言う前に、勝利の基準を知れ。自分自身と自分の愛国心、ガザへの忠誠心を見直せ。ガザは憎悪する人たちからの恨みにもかかわらず、勝ったのだ」
停戦合意の第1段階を経て戦争が終結するのか、判断するにはまだ早すぎる。
ガザ住民の大多数は、まもなく銃撃の音がやむだろうと思っている。しかし、苦しみ、後悔、痛みの音は、まだ何世代にもわたって続くだろうと感じている。
(英語記事 Hamas knows it hasn't achieved its aims - but still claims victory)