
アンソニー・ザーカー北米特派員
ドナルド・トランプ氏が、現状に対する有権者の不満の波に乗って、再びアメリカで政権を握った。就任演説ではアメリカの新たな「黄金期」を約束した。
演説には約束と矛盾が入り交じっていた。そして、新大統領が通算2期目の任期で直面するだろう、チャンスと課題を強調するものだった。
特に取り上げたのが移民と経済だった。昨年の世論調査で、有権者が最も関心があるとした問題だ。加えて、政府が推進してきた多様性プログラムの廃止も約束し、アメリカの公式な方針として、男性と女性の二つの性別しか認めないと述べた。
この最後の発言は、就任式会場の連邦議会議事堂に集まった大勢から熱狂的な反響を呼んだ。近くのスポーツ競技場に集まった支持者らからも、激しい歓声が上がった。これは、社会における文化の問題が今後も、トランプ新大統領と支持層をつなげる最も強力な方法の一つであり続けることのしるしだ。昨年の大統領選では、この文化の問題において、トランプ氏は民主党との対比を鮮明に打ち出した。
トランプ氏は、自分が提示する新時代が何をもたらすかを説明する前に、現在のアメリカの政治情勢を暗く描写した。
会場の片側に、前大統領となったジョー・バイデン氏や民主党議員らが無表情で座る中、トランプ氏は政府が「信頼の危機」に直面していると主張。司法省について、2020年大統領選の結果に異議を唱えたトランプ氏を起訴しようとしたとし、「悪質で暴力的で不公正な武器と化している」と非難した。
また、「恐ろしい裏切り」を覆すために有権者の負託を受けたとし、国民から力と富を引き抜こうとする「急進的で腐敗したエスタブリッシュメント」を攻撃した。
こうした物言いは、トランプ氏がこの10年間というもの演説の定番にしてきた、ポピュリスト的で反エリート的な内容だった。ただ、トランプ氏は初めて米政界の頂点に上り詰めた2015年とは異なり、今では自らが新興エスタブリッシュメントを代表する存在だ。この日の壇上では、彼の背後に、世界で最も裕福で影響力のある企業のリーダーらが座っていた。
就任当日、トランプ氏は注目を集めた。そして、主導権を握った。側近らは、何百もの大統領令を約束している。それは、移民、エネルギー、貿易、教育、話題となっている文化問題など、さまざまな分野にわたる。
トランプ氏は就任演説で、そのいくつかを詳しく説明した。エネルギーと移民に関しては、国家非常事態を宣言すると約束。軍を国境に駐留させ、亡命希望者の権利を大幅に制限し、エネルギー採掘のために連邦保有の広大な土地を再開放するとした。また、メキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に変更し、パナマ運河を取り戻すという公約を繰り返した。
トランプ氏はさらに、重要水路のパナマ運河を中国が運営していると、根拠のない主張を展開。海軍の艦艇を含むアメリカの船舶が通航料を払いすぎていると述べた。これは、パナマ政府との今後の交渉で本当は何を目指しているのか、その真の狙いを示す発言だったのかもしれない。
「アメリカは再び、自国を成長している国だと考えるようになるだろう」とトランプ氏は言い、アメリカの富を増やし、「私たちの領土」を拡大すると誓った。
アメリカの同盟各国は、この最後の部分を特に意識するかもしれない。トランプ氏がグリーンランド獲得に関心を示し、カナダをアメリカの51番目の州にすると発言していることに、同盟諸国はすでに懸念を抱いている。
トランプ氏は、選挙戦でもこの日の演説でも、大きな公約を連発した。大統領となったからには、今後はその実現を求められることになる。自ら予告する「黄金期」が何を意味するのか、示さなくてはならないのだ。
(英語記事 Anthony Zurcher: The promise and peril of Trump's inaugural speech)